いつも何処か遠くを見つめている暗緑色の瞳。 そこに映っているのは誰なのだろうと、ずっと気になっていた。 「シンスケ。こっち向いてよ」 隻眼だけれども、強すぎるくらいの光を放つ瞳。 前に回り込んで顔を覗き込むと、 気怠そうな顔で、晋助はゆっくりと神威を見る。 「何の用だ?」 いかにも面倒くさそうな声で気のない返事をする晋助に、 神威は相変わらずニコニコと微笑みながら言った。 「シンスケは好きなヒトいるの?」 包み隠さず単刀直入に尋ねられた質問に、晋助は一瞬だけ 面食らったような表情を浮かべた。 見間違いだと思えるような僅かな動揺。 夜兎であり、戦闘で磨かれた動体視力を持つ神威の目は、 その一瞬の揺らぎを見逃さなかった。 元来、神威は晋助と違って人の表情からその心を窺うという芸当は苦手だ。 苦手かどうか以前にその必要性もないから、やろうと思わない。 相手が何を考えているのか、自分をどう思っているのかなど、心底どうでもいいことだ。 相手を殺せるか、殺せないか。 それ以外の判断など、自分にとっては必要の無いことだった。 だが、今は知りたいと思っている。 高杉晋助が自分をどう思っているのか。誰を想い、遠い目をするのか―… 無言で答えようとしない晋助の頬にそっと触れる。 色白で滑々した肌が掌に心地いい。ずっと触っていたくなる。 「ねえ、シンスケ。どうなの?」 「……何を言い出すかと思えば、下らねえ」 「ううん、下らなくないんだよ。俺にとってはね」 「そんなもん、聞いてどうする?」 「さあ、ね。答え次第かな」 「……いねえよ。居たら地獄巡りなんざしねぇよ」 淡白な声でそう答えると、晋助はキセルを吹かす。 心ここに在らず。 虚ろな瞳はぼんやりと窓の外の夕陽を見詰めていた。 真っ赤な色――血の色だ。 神威はまっさきにそう思うが、晋助はそうでもないらしい。 茜空を見詰める晋助には何処か哀愁が滲んでいる気がした。 赤。血、死の色。炎の色、闘争の色。 赤から連想される言葉やものをあれこれ思い浮かべてみる。 晋助と同じように外を眺めながらあれこれ考える神威の視界に、 銀色に輝く芒が目に入った。 神威はハッと目を見開く。赤、それはあの侍の瞳の色。 「シンスケは、あの銀色のお侍さんをぶっ殺したいって言ってたね」 「……銀時のことか」 「うーん、そんな名前だったね。忘れてたよ」 「ふっ、てめぇは自分が興味のある男の名前も覚えられねえのか?」 「そうだね、名前には興味ないから。顔と気配さえ覚えときゃいいんだよ」 「そうかい」 クックッと喉の奥で愉快そうに晋助が笑う。 いつもと違う、少し愉しそうな笑顔。 綺麗な顔だけど、全然面白くない。 あの男を想って笑う晋助に、腹の底が熱くなるのを感じた。 衝動的に神威は晋助の手首を掴んで自分の方に引き寄せる。 華奢な晋助の身体はバランスを崩して、簡単に自分の胸の中に雪崩てきた。 細い腰を抱きよせながら、噛みつくように艶やかな唇を奪った。 「ふっ……んぅっ!?」 乱暴に小さな舌を吸い上げると、晋助は息を荒げた。 舌を絡ませながら何度も唇を食むと、鋭い瞳がとろりとしてくる。 自分が与えるものに反応する晋助が可愛くて、 神威は夢中で唇を貪った。 そのまま押し倒そうとすると、晋助の鉄拳が頬をぶった。 「痛ててっ。痛いよ、シンスケ」 唇を離し、ニコニコしながら頬を擦る神威を晋助はギロリと睨んだ。 神威が口移した大量の唾液が飲み込み切れず、唇の端を伝い落ちている。 それを拭いながら、晋助は不機嫌そうな声を出した。 「ケダモノか、おめぇは。こんな所で襲いかかってくるな」 「えー別にイイじゃん。ヤりたくなったら押し倒すのがオスだよ」 「ふざけるな。こんな所でやったら腰を痛めるだろうが。 それに、誰が来るか解らねえんだ。露出狂の趣味はねえんだよ」 「そんな派手にずる剥けた着物着てるのに? それに、銀のお侍さんとは外で公開プレイしてた気がするケド」 ニッコリ笑いながら神威がそう言うと、晋助は眉間に皺を寄せた。 今度は晋助がじっと神威の蒼い瞳を見詰める。 暗緑の瞳には自分の姿だけが映っていた。 まるで、自分が彼を独占しているようだ――神威は深く笑んだ。 ++++++++++++++++++++++++++ 一週間ほど前のことだ。 晋助は佐々木という男から連絡を受けて、船の外へ出掛けていった。 その時、神威は一緒に連れて行ってもらえなかった。 晋助は「これは俺の問題だ。なに、つまらねぇ獲物さ留守番していろ」と つれなく神威を置いて、部下のまた子という女と武市という男を連れて、 外へ出掛けて行ってしまった。 帰ってきた時の晋助は、珍しく激情を隠さない修羅の顔をしていた。 春雨の船で初めて共闘した時と同じ、凄絶な顔だった。 一つ違ったのは、そこに笑顔が無い事。 似た表情でも、随分と神妙な顔つきをしていた事だ。 その後日、晋助はまた一人で出掛けて行った。 こっそりと後をつけると、晋助と坂田銀時が会っているのを見た。 会話の雰囲気から、逢い引きではなく偶然出逢ったようだ。 あまり近付くと鋭い晋助に気配を察知されてしまうので、 かなり離れた屋根の上から、神威は二人の様子を見ていた。 「銀時。ずいぶんと久しぶりじゃねぇか」 「高杉……」 「何か、言いたそうな顔をしているな」 「あの腐れ狸を殺ったのはてめぇか?」 「クククッ、ああ。何だよ、銀時。怒ってんのか? お優しいてめぇの事だ。殺すことねえとでも言いてぇのか?」 「ちげーよ。俺の手で殺してやりたかったくれーだ。 そんなんじゃねぇよ。ただ、あんま派手に動くなよ……」 「フン、指図される覚えはねぇな」 「あるよ。てめぇを斬るのはこの俺だ。 真選組やカラス共にとっ捕まって死ぬんじゃねぇぞ」 「そいつぁいいな。なら殺るか?今ここで」 晋助の瞳が鋭い光を放った。その手は腰の刀に触れている。 ここであの二人が殺し合ったら、二人を殺すという自分の楽しみが減ってしまう。 神威は、無粋だが二人の間に割って入ろうかと思っていた。 だが、死闘は起こらなかった。 銀時は殺気を滲ませる晋助を抱き寄せて、キスをした。 そうすると、鋭かった晋助の瞳が蕩けたように恍惚とする。 銀時が晋助の身体に触れる。晋助はそれに応えるように声を上げる。 人通りのない路地裏で、二人は密かに互いの熱を交わしあっていた。 +++++++++++++++++++++++++++++ 「見てやがったか。このクソ餓鬼め」 「あんなところでヤッちゃってるんだもん。見るよ、そりゃ」 「チッ、てめぇの気配に気付かねえたぁ、俺も耄碌したもんだ」 「大丈夫、晋助はまだまだ若いよ。 気付かなかったのは、行為に夢中になってたからでしょ? ねえ、そんなにイイ?あのお侍さんとの交尾は。俺のとどっちがいい?」 「くだらねえ質問するな。ガキは飯食って寝てろ」 「ガキじゃないよ、シンスケ。なんなら、試してみるといい」 神威はそう言うと、自分の下半身を晋助に押し付けた。 硬くなってすでに怒張した雄に、晋助は肩で笑う。 「相手になってやらぁ。俺の部屋に行くぞ」 「そうこなくっちゃね」 神威は晋助の後をついて、彼の部屋に入った。 落ち着いた畳張りの晋助の部屋は、極端に物が少ない。 与えられた自分の部屋は阿伏兎が片付けないとすぐぐちゃぐちゃに なってしまうが、晋助の部屋はいつ来ても綺麗に片付いている。 部屋の扉を閉めるなり、神威は柔らかな布団の上に晋助を押し倒した。 腰の帯を乱暴に解いて、艶やかな着物を肌蹴させる。 華奢だが筋肉質な白い肢体が露わになり、神威はゴクリと喉を鳴らした。 淡い桜色の突起に齧りつくと、晋助はぴくりと腰を跳ねさせて眉根を寄せる。 「くっ、……ぁぁっ」 乱暴に歯で乳首を挟むが、痛がるどころか晋助は色っぽい声を上げた。 ドSっぽい女王様属性の顔だけど、晋助は意外とドMだ。 痛くしても、それを快感だと感じてしまうようだ。 乳首に吸いつきながら、下腹部へと手を滑らせる。 滑らかな肌の感触を楽しむように腹筋を撫でながら、 手を下肢に移動させ、神威は褌の紐に指を掛けた。 するりと解いて恥部を露わにすると、高杉は僅かに恥じいを滲ませる。 「もう濡れ濡れじゃん。キスしてた時からこうなることを期待してたの? それとも、乳首イジられただけでこんなに感じちゃうの?エロいね、シンスケ」 剥がした白い下帯と晋助の雄とを繋ぐぬっとりとした糸を指に絡め取ると、 神威はそれを晋助に見せつけながら微笑んだ。 晋助は今にも舌打ちが飛び出しそうな顔を神威に向ける。 「黙れ。俺の気が変わらねえうちにとっととヤれよ」 「ハイハイ。女王様」 神威はベロリと自分の指を舐めて唾液で濡らすと、 晋助の秘部に指を二本ツプリと埋め込んだ。 「んっ、……くぅっ ぁっ」 「シンスケのナカ、指にすっごい絡み付いてくるよ」 「はぅ、あっ うるせえ、無駄口は興ざめだ」 「無駄口じゃないよ。好きでしょ、言葉攻め。シンスケはマゾだからね」 「だ、れがマゾだっ っぁ」 神威が内壁を乱暴に引っ掻くと、晋助は仰け反って喘ぎ声を漏らした。 指をクの字に曲げて前立腺に引っかけ、ぐいぐいと前後に揺らす。 容赦ない刺激が与えられて、晋助はさらに腰を反らせて全身をビクビクと震わせた。 「あぁぁあぁぁっ やめっ んぁっ、ふっ あぁ」 「そのカオ、ぐっとくる。見てるだけでイケそうだよ」 神威は舌舐めずりをすると、晋助のナカから指を引き抜いて自らも服を脱いだ。 性急に晋助の身体に覆い被さり、足を開かせる。 「ばか、が。 まだ解れきってねぇ……ぐぁっ」 いつもそうだ。晋助を抱く直前までは前回の事を反省して労わろうと、 優しくしようと思う。 だけど、いざ性交を初めて見れば堪えられない衝動が込み上げて、 慣れ切ってないのに乱暴に己を突っ込んでしまう。 神威はすでに怒張しきった雄を晋助の入り口に宛てがい、 いっきに奥まで刺し貫いた。 幸いにも前戯に時間をかけていないにも関わらず、晋助のソコは熱く 融けきっていたようで血を流すことなく奥まで侵入で来た。 「くっ……はぁっ、 ぁっ」 より深く突っ込もうと限界まで足を開かせて、身体を折り曲げさせる。 苦しげに息を吐く晋助の顔は上気し、汗が伝っていた。 「うん、やっぱりシンスケのナカ、最高だね」 欲望に塗れた瞳で神威が晋助を見下ろす。 獣と大差ない理性の無い顔で、神威は晋助の腰に自分の腰を打ちつけた。 ギリギリまで抜いて、内壁を擦り上げながら一気にオクを穿つ。 何度も、何度も繰り返し快感と熱を求めて神威は腰を振った。 その度に、晋助の唇からは泣き声に似た喘ぎが零れる。 「ああぁっ うぁ、あっ あっ いぁぁっ」 「……っ、シ、ンスケ ね、きもちイイ?」 「ああぁぁぁっ いぃっ あぁっ イクぅっ ぎん、……」 爪先を激しく痙攣させて、晋助は勢いよく射精した。 晋助が吐き出した精液が晋助の顔を濡らす。 それを神威は舌で舐めとりながら、まだ腰を動かしていた。 銀時。呼びきらなかったものの、晋助は確かにそう口にした。 虚ろな瞳は自分を通りこして、あの銀髪の男を見ているようだった。 気に喰わない。自分だけを見て欲しい。 今、彼を抱いているのは自分だ。他の男の事など考えさせたくない。 「ねえ、俺を見てよシンスケ」 切なげな声で愛しい名前を呼ぶ。 細い腰を引き寄せ、射精してぐったりしている晋助を神威は更に激しく突き上げた。 いったばかりなのに、晋助の雄はまたゆるりと勃ちはじめている。 自分の肉棒をブチ込まれて喘ぐ晋助を、愛しいと神威は思った。 「好きだよ、シンスケ。アンタを愛してる。 ね、今アンタを抱いているのは俺だよ。わかってる」 「んっ、 ぁあ、 かむ……い」 「そう。神威。坂田銀時じゃない、俺だ」 「うぁ んんっ もっとつけよ、神威」 妖艶に晋助が微笑む。その微笑に誘われる様に、神威は一層腰を激しく打ち付けた。 しなやかな腕が首筋に絡み付いてきて、晋助に唇を奪われる。 深くて長いキス。晋助自らが口付けてくれたことが嬉しくて、 夢中で晋助の舌に応えるように自分の舌を絡めた。 最奥を抉るように乱暴に、激しく、思うまま楔を打ち込む。 その度に、晋助は喉を晒して色っぽい声を上げた。 「ね、シンッ スケ。アイツと俺、どっちがイイ?」 「はっ、 バカ。余計なこと考えてねえで、 っぁ、集中し、ろ」 「ふふ、いいじゃん。ね、答えてよ」 「ヒァァァッ!」 前立腺を狙って突き上げると、ビクンと晋助が大きく震えた。 態とそこばっかり狙って神威が責める。 「あぁぁぁっ やめぇっ ぃあぁっ あああぁっ」 「ね、俺のがいいって言ってよ、シンスケ」 「あひぃっ、 あぁっ やあぁぁっっ」 「ホント、可愛いよね。シンスケって。そんなにイイ?」 「あぁぁぁぁっっ!」 涎を枝垂らせながら、晋助は大きく目を見開いて背を反らした。 晋助のナカがより狭く収縮して、神威は晋助と一緒に達した。 それでもなお、神威の雄は萎える事を知らない。 二度目の射精でぐったりしている晋助を俯けると、 筋肉が付いているが薄く細い晋助の胸を掻き抱きながら、 背後から獣のように貫き続けた。 行為を始めてからどのくらいの時間が立っただろうか。 最後には、晋助は泣き叫ぶような声で赦しを乞った。 涙を舌で舐めとりながらも、神威は尚も晋助を犯し続けていた。 「いぁぁぁっ、も、むり……だっ、 やめっ」 「ゴメン、俺はまだイきたりないからサ」 「ば、バケモンがぁっ、 あぁぁっっ」 「そう言いながらも、シンスケもまだ感じてるじゃん」 平然と笑いながら、神威は肉棒で熱くグシュグシュに濡れた秘肉を貫く。 涙と涎まみれにして縋るような目を向ける晋助が愛おしかった。 今の晋助の瞳には、銀色の男はいない。 自分だけが、彼の瞳に映っている。堪らない気分だ。 「ね、言ってよ。シンスケ。俺がイイってさ」 「うぁぁっ、 はっ、んぁ イイッ か、むいのが、いいっ!」 「あっ、やっといった。じゃあラストね」 スパートを掛けるようにパンパンと腰をぶつける。 晋助は獣のように声を上げると、薄くなった精液を吐き出してイッた。 神威も晋助の中に何度目かの精を吐き出し、彼の上に倒れ込んだ。 「はぁっ はぁっ はっ……さすがに、ちょっと疲れたな」 「馬鹿がっ……、ちょっと、じゃねえんだよ。殺す気か……」 掠れきった声で、晋助が文句を言ってきた。 神威がごろりと転がって晋助を抱き込むと、珍しく汗っぽい匂いがした。 晋助は身体中、精液やら汗やら涎やらで汚れきっていた。 「あー、身体洗いてぇ」 愚痴るような声で晋助はそう言ったが、動かなかった。 どうやら疲れきって動けないようだ。 「無茶させやがって。俺はてめぇみてーに若くねえんだよ」 「またまたぁ。シンスケだって化けモノみたいな性欲してるでしょ。 それに、シンスケが悪いよ。俺の方がイイってなかなかいってくれないから」 「そんだけのことで、俺を腹上死させようとしたのか。馬鹿」 「俺には重要なことなんだよ。でも、ちゃんと俺のがイイって言ってくれたね」 神威は嬉しそうに晋助にグリグリと頭を擦り付けた。 晋助はしょうがないなというふうに、それでも優しくその頭を撫でてくれた。 その優しい手にまどろみながら、 神威はいつか本当に晋助の全てを奪ってみせると、 今、何処で何をしているか解らない銀色の侍に向かって宣言した。 --あとがき---------- 2月24日様へ。 銀高前提の威高のリクエストありがとうございましたvv 自己中な神威を振り回しつつ、 高杉は母親の様な優しさをみせそうだと思います。 神威のことは甘やかしてそう(笑) 銀時には甘えて、神威は甘やかす。 そんな構図が好きなので、そういう話になりました。 神威はもう高杉の前ではいつも以上に 我儘な子供ですよね。普段ちょっと大人っぽい所がありつつ、 でも、高杉の前でははしゃいだり、嫉妬心剥き出しにしたり。 神威は高杉を特別視していると思います。 高杉の前では子供な部分も、守ってくれるような男前な部分も有ります。 |