−紅葉色の心−







夏の気配がすっかり遠ざかり、肌を撫でる風が涼しくなってきた。
公園では紅葉が炎のように赤く燃え、美しい景色が広がっている。

紅葉狩りの客が沢山いる中、銀時は一人、人混みをフラフラ歩き回っていた。
別に遊んでいる訳ではない。仕事だ。
なんてことはない。紅葉狩り客が不法投棄してくゴミを拾って回り、
美しい景観を保つ、もしくは喧嘩などの物騒な出来事に備えて
見回りをするという、誰にでも出来るごくつまらない仕事の為だ。

公園の管理者曰く、清掃会社と警備会社を両方雇うとコストがかかる。
そこで、何でもやってくれる万事屋にお願いしたいとの事だ。
ようは頼りにされているのではなく、便利に使われているだけ。

面倒くさそうだし断りたかったが、不景気の世の中である。
どんな些細な仕事でも引き受けなければ、しがない万事屋の看板は守れない。
正直な話、看板などどうでもいい。問題は生活だ。
つねにジリ貧の立場で子供二人を抱えているのだ。
安い仕事でもガンガン受けなければ、食べていけないのが事実だ。


「にしても、どこもかしこもイチャイチャしやがって。
 紅葉よりもリア充見に来たって感じじゃねーか。やってらんねーな、クソ」

口汚く銀時は吐き捨てる。
紅葉を見ながら体を触りあったりキスしたり、ベタベタしている、
公序良俗もしくは汚物陳列罪のアベックがそこら中に湧いていて、
寂しい独り身の銀時にとっては羨ましいやら、見苦しいやらで
見るに堪えない光景が広がっていた。

これだから近頃の若い奴は。空気を読まずにいちゃつきやがって。
舌打ちをしながら、銀時はだらだらと一応仕事をしていた。

「俺だって、好きな奴とゆっくり紅葉みながら酒でも飲みてーよ」

深いため息をついて、銀時は空を見上げる。
青空の向こうに、ぼんやりと大切な人の姿を思い浮かべた。

さらさらの黒髪に暗緑色の切れ長の瞳。
美しく艶やかな顔に、華奢な身体の美麗な幼馴染、高杉晋助。
紅桜の一件以来、表向きには敵同士だが
実は密かに誰にもばれないように逢瀬を重ね続けていた。

互いに大事な物を失い、同じ傷を抱えた間柄。
テロリストなんかしているから中々と会えないし、
相手の何もかも壊すような行為には賛同しかねるが、昔と変わらず大切な人。
テロなんてやめて、嫁にこればいいのにとさえ思っているが、
なまじ相手の憎しみを理解しているので、そう言えずにいる。
仮に酒の力でも借りてそう言ったとしても、頑固な奴だから首を縦に振らないだろう。


会いたい。強くそう思った。

その願いを信じてもない神様が聞き届けてくれたのか、
銀時は人混みに紛れている、見覚えのある丸い後頭部を見つける。
黒髪を彩る白い包帯。ひらりひらりと舞う金色の蝶。紛れもない、奴だ。

高鳴る鼓動を抑えながら、人混みを掻き分けて銀時は慎重に彼に近付いた。
獣のように気配を消し、ゆっくりと距離を詰める。

やはり、高杉だった。
声を掛けようかどうか逡巡している銀時の瞳に、もう一人見知った頭が映る。
薄紅色の三つ編み。神楽と同じ髪の色。彼女の兄、神威だ。

獣のように欲望に忠実で、凶悪かつ凶暴な宇宙の喧嘩師。
そう言えば、奴と高杉が手を結んだと風の噂で聞いたことがある。

神威には勝負を挑まれて命を狙われている身。
迂闊に声を掛けるのは危険だ。
第一、危険人物二人が揃って何をしているというのか。
目的が知れるまで、黙って見張っていた方がよさそうだ。
固唾をのみ、銀時は二人のあとをつけた。

「シンスケは、綺麗なものが好きだね。
 オレは紅葉なんかよりも血の赤の方が綺麗だし好きだけど」
「ふん、ガキには風流はまだ早ぇようだな。
 俺ぁ、まるで紅蓮の炎に包まれているようで美しいと思うがな」

クツクツと喉の奥で嗤う高杉に神威は一瞬きょとんとしたが、
すぐに笑みを浮かべて、高杉の頬に触れた。

「オレは、シンスケの方が綺麗だと思うよ」
「はっ、ガキが生意気いいやがって。煽ててもなにも出ねぇぜ」
「そんなつもりないよ。思った事を言ったまでさ」

クスクスと笑いながら神威が高杉の手を握る。
それから不意に高杉を自分の方に引き寄せて、抱きしめた。

「シンスケ、愛してるよ」

獣のように情が欠落していた印象を持っていた神威が、
普通の人間のように甘く、優しく囁く。
高杉はただ、大人しく神威の腕に納まっていた。


どうやら本当にただ観光を楽しんでいるだけのようだった。
波乱はなさそうでほっとする一方、胸に重たい塊が残った。

あの二人、一体どういう関係なのだろうか―…。

今すぐ乗り込んでいって、身体を寄せ合う二人を引き裂きたい。
そんな衝動が込み上げるが、それは眠った獣を起こすようなものだ。
こちらに気付いた神威が嬉々として牙を剥き、
平穏な公園が紅葉ではなく、血の海に染まるのは容易に想像できた。

大人げない性格はしているが、関係ない人の屍を積み上げてまで、
好きな人を奪い合う程、子供でもない。

強く拳を握り締めると、銀時は急ぎ足でその場を立ち去った。





さっさと忘れてしまいたい。
仕事を終えた銀時は、昼間見た光景を忘れるべく酒を求めて夜の街を歩いていた。

一軒目で二、三杯ビールをひっかけた後、次の店を探して
ふらふら歩いていると、薄暗い路地裏にひっそり佇む高杉を見つけた。

「高杉……」

声を掛けると、高杉はゆっくりとこちらを振り返った。
高杉がにやりと唇の端を吊り上げ、ゆるく手を上げた。

「よお、銀時。随分と不機嫌なツラしてんじゃねぇか」
「別に、不機嫌なんかじゃねーよ。そう言うお前は楽しそうだな」
「まあな。生憎だが、てめぇに構っている暇はないから行くぜ」

踵を返して背を向け、つれなく吐き捨てた高杉の手首を掴んだ。
無理やり自分の方を向かせて、じっと彼を見詰める。
だらしなく肌蹴させている胸元に、赤い痕がいくつか見えた。
腹の底が煮えるように熱くなる。
このまま黙って帰す気はなくなった。


無言で高杉の手を引いて歩いていく。
始めは高杉も「離せ」と抵抗していたが、手首をきつく握りしめると
観念したのか、無言で後をついてきた。

静かな旅籠に入り、小さな座敷を借りて二人きりで酒とちょっとした肴を頼む。
顔を突き合わせて、暫く互いに無言で酒を飲んでいた。
銚子を二本カラにしたところで、高杉は立ち上がった。

「さっきも言ったが、俺はてめぇのように暇じゃねえ。帰る」
「そりゃ、ヒマじゃねぇよな。まだ日の高い時間から、
 ガキとデートして遊んでるくれぇだ。さぞかし忙しいんだろうよ」

その言葉に、高杉が珍しくハッと目を開いた。
何かを言おうとする前に、銀時は高杉の唇を奪う。
舌を絡めて唾液を流し込みながら吸い上げると、高杉の唇から色っぽい
吐息が漏れた。腕を突っぱねて離れようとする高杉を
力づくで抱き込んで、畳の上に押し倒す。


会いたい時に会えない不自由な関係。
それでも、互いの気持ちは確かだと思っていた。だからこそ、
日頃の会えないストレスも寂しさも我慢していられたし、
他の奴にフラフラと手を出したりもしなかった。
それなのに、相手はそんな自分のなけなしの純情を嘲笑っていたのだ。
あんなガキにまで身を委ねていたなんて、許せる筈がない。

思う存分口腔を蹂躙してから、銀時は漸く唇を離した。
高杉は肩で息をしながら、鋭い目でこちらを睨んでくる。
赤く上気した頬、潤んだ瞳。
たぶん怒っているのだろうが、煽っているようにしか見えない。

「戦う事にしか興味のねぇ夜兎を落し込んだワザ、発揮してもらおうじゃねーか」
「っ、……銀時、てめぇ何言ってやがる」
「とぼけんな、性悪猫。これ見よがしに痕なんざ見せつけやがって」

高杉は自分の胸元に目を落すと、小さく舌打ちを漏らした。
「これはそういうアレじゃねぇよ」と言い訳染みた事を言う高杉に
腹が立ち、聞き苦しい弁解なぞ聞きたくもないと、
銀時は彼の口に猿轡がわりに丸めたハンカチを詰め込み、
更に上から布を巻き付けて口を縛った。

「んんぅ、ふっ、うぅっ……!」
「うわ、すげぇそそられる。オラ、大人しくしてろよ高杉」

暴れる高杉を押さえ付けて、無理やり着物の帯を解く。
解いた帯で後ろ手に高杉を縛り上げて拘束する。
眉を顰めて、高杉がますます怖い顔で睨んでくる。

「いいねぇ、そのツラ。俺ドSだからさ、抵抗されると燃えるんですけど」

既に肌蹴きった着物を左右に開き、乳首に噛み付く。
びくんと高杉が身体を震わせて、固く目を閉じた。
舌先で転がすように舐めたり、キツく吸い上げていると
乳首が勃起してコリコリと固くなる。
歯で挟むと高杉の唇からくぐもった悲鳴が漏れた。
乳首を口で責めながら、手で脇腹や腹筋をなぞるとくすぐったそうに
高杉は畳の上で身悶えた。

「ふっ ンンンッ んぅっ」

強気だった瞳が快感に蕩けて、ぼんやりしている。
白い下帯は少し膨らみを持ち始めていた。

にやりと銀時は意地悪そうに笑うと、高杉の下肢に手を伸ばした。
指を滑り込ませると、中はズルリと湿っていた。
高杉の性器を指で包み込み、ゆるゆると扱くと高杉は
背中を弓なりにして、喉を晒して呻く。

「うわーエロ。高杉ぃ、無理やりヤられてんのに感じてんの?」

銀時の言葉に、高杉はふいと顔を逸らした。
こっちを向かせようと、少し強く性器を握り込むと
高杉は嫌そうにこちらを向く。

「いつまでその憎たらしいツラしてられっかな?」

悪魔の様な笑みを浮かべ、銀時は激しく高杉の性器を擦り上げた。
先走りでよく滑り、いやらしい水音が部屋に響く。
イキそうになったら態と手を緩めてやると、
高杉は無意識の内に腰を揺らして快楽を求めてきた。
また強く扱いてやり、高杉の性器が射精しようとブルリと震えた瞬間、
態と根元を握り込むと高杉は瞳を見開いて叫ぶ。
声はハンカチに吸収されてしまってくぐもった音にしかならないのが残念だ。

銀時は高杉の口の布を取り除いた。

「鳴いてみせろよ。せっかくだから、そのエロい声を聞かせろよ」
「ぎ、んとき、テメェ……ヒァァッ!」

亀頭をてのひらでグリグリと乱暴に責めると、
高杉は涎を垂らしながら喘いだ。
亀頭を責め立てながら、まだ固く閉ざしたままの後孔へ指を突き立てた。

「いぐっ、うっ……く」
「男誑かしこんでる割には、処女みてぇだよな、お前のココ」
「うぁっ……ぐぅっ」

中指を人差指を強引に埋め込み、中の壁を引っ掻くように動かす。
高杉の先端からとぷりと蜜が零れた。

「や、めろ銀時っ、ゆび、動かすな……っ」
「我慢すんなよ。入り口をこうやって引っ掻かれるの好きだろ」
「ふぅっ……んぁっ い、やだ」
「お、コリコリした場所発見〜。前立腺だろ、これ」

高杉のナカにあるしこりをごりごりと指で刺激すると
高杉はガクガクと太腿を震わせながら高い悲鳴のような声を上げる。
目の焦点が合っていない。快感で思考が混濁しているようだ。

「あぅぁっ やめ、ぎん…ときっ、は、なせ」
「嫌だね。そんなアンアン喘いで何が嫌なんだよ。
 それにテメーだけ気持ち良くなんてさせてやんねーよ」

指を引き抜くと、銀時は高杉をうつ伏せに倒して、
高杉の入り口に怒張した自分の雄を宛てがった。

「や、めろ銀時っ!まだ解れきってねぇよ」
「はあ?大丈夫だろ、ガキにも股ガバガバ開く淫乱が
 ちゃんと慣らしてくれとか、優しくしてくれとか言う権利ねーよ」
「なっ……、てめぇ、誤解だって言って……ぎあ゛ぁぁっ」

メリメリと嫌な音を立てながら、銀時は高杉の中に己を埋め込む。
高杉は目に涙をためて、苦しそうに呻いていたが
逃げようとする腰をつかんで押さえ付け、銀時は無理やり自分の雄を
全て埋め込んだ。

「キッツー。ぶっこんだだけでイキそうになったわ」
「いあ゛……。ぬ、け。キツい」
「抜くわけねぇだろ。これからだっつーの」
「ヒッ!?アァアァッッ」

ゴリュッと音をさせながら銀時は高杉のナカをほじくる。
固い先端で胎内のオクを刺激され、高杉は叫び声を上げる。
痛みでは無く、明らかに快感に滲んだ声。
銀時はギリギリまで自身を引き抜くと、また一気に貫いた。
肉がぶつかりあう音を響かせながら、痣ができそうなくらい思い切り
高杉の尻に腰を打ちつける。

「あぅっ、ああっ やめ、しぬっ」
「腹上死か?いいね、テメーに似合いの死に方だぜ」
「バカッ、てめぇが、死ねっ あぁっ」

やめてくれ。何度も高杉はそう言ったけど聞かなかった。
射精してぐったりする高杉の尻を叩くと、尻を上げさせてまた激しく貫く。
自分自身も射精したが萎えること無く、
高杉のナカに己を埋め込んだまま、何度も貪り続けた。
バックから前に体勢を替え、高杉の泣きっ面を拝みながら腰を動かす。
ジュプジュプと卑猥な水音と荒い呼吸が狭い部屋に響き渡った

「あぅっ あっ ぁあっ ぎ、んとき くるし…いっ」
「キュウキュウ締め付けてきてるぜ、オラ、もっと喚けよ」

抉るようにナカを突き上げると、高杉は喉を晒してヒクヒクと震えた。

「う……んぁっ!やめて、くれっ、もうムリだっ」
「まだまだ足らねぇよ、もっと鳴き叫べよ、高杉っ」
「ヒアァッ やめっ、アアァァァァッッ!」

爪先をピンと張らせて、白い内腿がビクビクと痙攣させながら
高杉が勢いよく射精する。白濁液を自分の腹にぶちまけて、
高杉は失神してしまった。

「あ〜あ、ぐっしょぐしょになっちまって―…」

ずるりと己を引き抜くと、尻の穴から自分が注ぎ込んだ精液がごぽりと
零れてきた。流石にやりすぎたと、罪悪感を覚えたが後の祭りだ。


高杉を風呂に入れて、一緒に畳の上に寝転がった。
ぐったりした高杉の寝顔を見ている内に、
さっきまで苛立ちに支配されていた心は落ち着き、溜飲も下がった。
逆に、罪悪感と自己嫌悪が脳内を支配する。

「ごめんな、高杉」

ポツリと謝ると、銀時は高杉を抱き締めて自分も横になった。



三十分ほどして、高杉はようやく目を覚ます。
寝起きの高杉は切り掛かってきそうな恐ろしい顔をしていた。

「銀時ぃ、てめぇよくもやってくれたな」

今にも白刃を抜こうとしている高杉に、銀時のこめかみから冷や汗が伝う。

「ちょ、ちょっと待てよ高杉。一応恋人同士なんだから、物騒なのは抜きだろ?」
「ふん、よく言うぜ。強姦魔を恋人にした覚えはねぇ」
「そ、それはテメーが浮気すっからだろうが」
「浮気だぁ?俺がいつそんなモンしたって言うんだ?銀時」
「見ちまったんだよ。今日、テメーが神威と紅葉を見てるのを……」
「俺が紅葉を見てぇっていったんだよ。それに勝手についてきただけだ。
 誰がガキなんぞ相手にするか。早とちりしやがって―…」
「でも、向こうは愛してるって言ってたじゃねーかよ」
「勝手にほざいているだけだ。俺は恋人にした覚えなんざねぇ」
「じゃあ、その痕はなんだよ」

鎖骨辺りや胸元の赤い痕を指差すと、高杉は肩を竦めて見せた。

「こいつぁ、交渉の際に襲い掛かってきたクソ野郎につけられたんだよ。
 まあ、仕返しに腕を切り落としてやったがな。おかげで交渉は決裂だった」
「なんだ、そんな事かよ。よかった……」

いや、よくはないだろ。銀時は自分の言葉に心の中で突っ込む。

高杉程の美形なら、やはり交渉でも色事を求める輩もいると思っていたが、
まさか、本当にそんな目に逢っていたとは。
恋人としては心配な限りだが、
まあ、あの高杉が滅多な事で後れをとる筈もない。
それより、知らぬ間に自分以外に恋人を作られていないことが
わかっただけで、よしとしよう。

「ワリィ、高杉。浮気かと思ってキレてたわ」
「誤ってで済むなら警察はいらねぇ。どうしてくれんだ、
 明日は動けねぇじゃねぇか。襲撃されて死んだらてめぇの所為だ。このクソ天パめ」

忌々しげに吐き捨てる高杉を銀時はぎゅっと抱き寄せた。

「だったら、今日は俺ん家に来いよ。匿ってやらぁ」
「それはそれで危険な気がするが、まぁ、いい。行ってやるよ」
「んじゃ、帰るとしますかね」

甘えるように胸に頭を擦り付けてきた高杉を抱き上げ、銀時は満足げに微笑んだ。





--あとがき----------

こんばんは、リクエストありがとうございましたvv
いつもサイトを見て下さってありがとうございます♪
三角関係大好きなので、とても楽しく執筆させて頂きました。
浮気相手と勘違いされたのを土方さんか神威かどちらにするか悩みましたが、
今回はあれこれ考えた末、神威を選びました。
年下の子供と浮気された方が銀さんの衝撃も大きいかと思いまして(笑)
高杉の隣はもとはと言えば攘夷時代に自分がいたポジションなので、
そのポジションを取られたとなると、銀さんは色々耐えられ無さそうですよね。
最後、ブラックな終わり方にするか、ほっこり系にするか迷ったのですが、
ブラックにすると高杉があんまりにも可哀相なので、ハッピーエンドにしました。