桜のつぼみがちらほらと開き始めたが、まだまだ気温が低い。 窓を開けるとひんやりとした風が頬を撫でた。 高杉は身を竦ませ、自分自身を抱締めた。 「晋助、窓を閉めろ。風邪をひくぞ。まだ寒いであろう」 「ああ、寒ぃ」 「だろうな」 万斉は高杉の背後に回ると、羽織すら纏わず蝶柄の着物一枚だけの 高杉を抱締めた。 高杉は万斉の胸に頭を預けながら、上目遣いで彼を見詰める。 「おい、万斉。温泉に連れてけよ」 「……温泉か。うむ、よかろう」 甘えるような可愛らしい上目遣いと言うよりは、 獲物を喰らおうとする肉食獣の凶悪な上目遣いだったが、 温泉と聞いてむっつり助平な万斉の脳裏に よからぬ妄想が過ぎったのは言うまでもない。 もとより無表情な性質の万斉は、鼻血や、にやけ面こそは晒して いなかったものの、密かに二人きりの温泉旅行の妄想を耽っていた。 こうして、二人は人目を忍び、隊員の目を欺いて 二人で温泉にでかけたのであった。 まだ雪が残る山奥。音が消えたように静かな温泉宿が佇んでいる。 高杉と万斉は部屋で一杯茶を飲むと、早速露天風呂へ向かった。 繁盛期ではないのと、小さな隠れ宿ということで客足は殆どない。 一回り以上年の差がありそうな援交カップルや、 いかにも不倫だと伺える、不揃いの結婚指輪をした男女を見た以外、 今のところ他の客は見ていない。 高杉と万斉は男湯の露天風呂へ向かった。 混浴もあるようだが、男同士なら男湯に行くのが妥当だろう。 話し合わずとも、自然とそういう流れになった。 男二人が混浴など変だろう。女漁りに来たと思われるのは癪だし、 いちゃつくカップルを見ながらの入浴などもってのほかだ。 どうせなら高杉と二人きりになれた方がいい。万斉はそう思っていた。 高杉の方は多分そういう事は考えていないだろう。 高杉は見た目はエロいが、本人自体は普段は至ってストイックだ。 夜布団の中では床上手で淫乱な顔を見せるが、それ以外では性欲など表にださない。 特に女に対する執着と言うものはほぼ皆無だった。 だから、はなから混浴に行こうなどという意識はまったくないだろう。 男湯の脱衣かごには一つも衣服が入っていない。 どうやら二人きりの貸し切りのようだ。 貸し切りにも関わらず、高杉は包帯を取ること無かった。 包帯を巻いたまま浴場へ行き、身体を軽く流すと露天風呂に浸かった。 夕焼けに染まりつつある空。夕霧に霞む山間。近くには桜が植わっていて、 湯船には淡い花弁がちらほらと散っている。言う事なしの景観だ。 高杉は風呂の淵の岩に肘をつき、景色をジッと見詰めていた。 万斉はそんな高杉の横顔を見詰めている。 「晋助」 低い声で名前を呼ぶと、高杉の首筋にちゅっとキスをした。 湯船に浸かった高杉の身体を手で撫でまわす。 びくりと高杉は反応して、色っぽい瞳で万斉を見た。 「温泉を承諾した目的はこれか?万斉」 「無論。船ではなかなか二人にはなれぬのでな。 晋助とて、声が漏れるかもしれぬ状態での睦み合いばかりでは 息が詰まろう?偶にはこうして二人で温泉でしっぽりするのもいいと思ってな」 「は、冷静なツラでエロ親父みてぇなこといいやがって。助平め」 「なんとでも言うがいいでござるよ」 ククッと喉の奥で嗤う高杉の細い腰を抱きよせ、万斉は唇を重ねようとした。 その時、がらりと浴室のドアが開く。 「オイオイ、気分ワリィな。男湯でヤロー二人がイチャついてんじゃねーよ」 聞き覚えのある声に高杉はビクリと肩を跳ねあがらせた。 キスしようとする万斉を押し退けて、高杉は入り口に目を向ける。 そこには、銀髪の天然パーマの男が立っていた。 「ホモがいると思ったら高杉じゃねぇか。そっちの男は河上万斉か?」 嫌な奴が来た。と、万斉は隠しもせずに舌打ちをする。 銀時はずかずかとこっちに歩み寄って来ると、 万斉と彼とで高杉をサンドするように湯船に浸かった。 「よお、銀時。一人寂しく温泉たぁ相変わらずモテねぇな」 「うるせーよ、高杉。男と来てるテメーにゃ言われたかねー」 「何でおめぇがこんな所にいる?貧乏のおめぇにこれる場所じゃねぇよ」 「神楽が町内会のペアの温泉旅行引き当てたんだよ。 神楽と混浴じゃあマズいだろーが。だから一人で男湯にいるんだよ」 「なるほどな」 敵同士になってしまったと言うのに、会話をする二人は何処か楽し気だ。 憎まれ口もちょっとした痴話喧嘩に見えてくる。 面白くない。万斉はそう思った。 「白夜叉。拙者と晋助はこれからイチャイチャするので出ていけ」 高杉を自分の方に抱きよせながら、万斉は銀時を睨む。 銀時はイラッとした顔をして高杉の左腕を自分の方に引っ張った。 「イチャイチャとかさせねーよ」 「フン、過去の男が嫉妬か?醜悪でござるな」 「俺ぁテメーのイカ臭い汁が 滲みでた汚ぇ湯船に浸かりたくねぇだけだっつーの」 「じゃあ混浴でも行って女の裸でも拝ませて貰いながら湯につかれ」 奪われそうになった高杉を奪い返し、万斉はしっしと 野良犬を追い払うようなジェスチャーをして見せる。 「だから、イチャつくなってんだろ!」 そう言うと、銀時は高杉を奪った。 左右から引っ張られてあっちへ行ったり、こっちへ行ったりさせられる 高杉は非常に迷惑そうな顔をしている。 だが、二人ともそんなことお構いなしだ。 「晋助を返せ。拙者のでござる」 「はぁ?いつ?何時何分何曜日、こいつがテメーのモンになったんだ? 今カレ気取りですか?コノヤロー!せいぜいテメーなんざ飼い犬がお似合いだ」 「ふん、傍に居る事すら出来ぬ主よりはマシでござる」 痛い所をつかれた銀時は一瞬うっと言葉を詰まらせる。 だが、すぐに反撃に出た。 銀時は高杉を抱き込むと、高杉の乳首をキュッと抓った。 突然、敏感な部分を刺激された高杉は溜まらず「あっ」と色っぽい声を漏らす。 高杉は珍しく顔を赤らめて肩越しに銀時を睨む。 睨まれた銀時はふふんと勝ち誇った顔を万斉に向けた。 「どうだ?見たか、この可愛い高杉の反応!これぞ、昔の高杉がよく 見せた純な反応だぜ。赤面する高杉なんざテメーにとっちゃレアだろ? まあ、俺ぁ何回も拝んだことあるけどね〜」 「……晋助、そんな男の手で感じるな。この淫乱猫め」 「うるせぇな。銀時に俺を簡単に奪わせた癖に偉そうにすんな」 若干険悪な雰囲気に包まれる万斉と高杉に、銀時がぷぷっと吹き出す。 「あらあらお二人さん喧嘩〜?このまま別れちまえば? 旅行先で喧嘩してそのまま破局とか、けっこうよくあるパターンだぜ?」 「別れぬ。拙者はずっと晋助と共にいるでござる」 「へっ。そんな我儘で自分を犬くらいにしかみてねぇ高杉とずっと居られるのか? 途中で嫌になって、逃げ出すんじゃねぇの?」 「貴様と一緒にするな。拙者は逃げんよ」 「あっそ。あ〜あ〜、かわいそーになー。今の淫乱なアイツしか知らなくってよぉ。 昔のアイツはそりゃーウブで純情で可愛くってなぁ タイムマシーンとかあったらぜひ、昔のアイツを拝むべきってくらいだぜ」 自分が知らない過去の高杉を知っている銀時に万斉は激しい嫉妬を覚えた。 その感情に気付いた銀時はニヤニヤ笑いながら続ける。 「俺ぁ高杉の事なら小せーガキん頃から知ってるんだぜ。 いや、ほんと、ガキの頃のアイツの可愛さっていったら兵器だね、ありゃ」 「おい銀時。やめろ。てめぇ殺されてぇのか?」 「ちょっと昔の事話したぐれーで怒るなよ。生理中でヒスッてんの?高杉」 「アホか。男に言う台詞じゃねぇよ。頭わいてやがんのか?」 高杉は銀時にずいと顔を寄せて怒ったが、銀時は相変わらずニヤケている。 「つっかかって来ちゃって可愛いヤツ。 高杉ってば昔から俺に対してはムキになってよー。 俺は俺でコイツに構いたくて構いたくて、しょっちゅう痴話喧嘩してたんだぜ」 「……痴話喧嘩じゃねえ。アレはマジの喧嘩だろーが」 「またまた照れちゃってぇ。ああ、夫婦喧嘩って言った方がよかった?」 「……」 何を言っても無駄だと悟り、高杉は口を噤んだ。 こういう状況では構わないのが一番だ。 昔の恥を脚色して部下の万斉に話されるのは癪だが、 今の銀時は息の音を止めるまで話を止めそうにない。 息の音を止めてやってもいいが、温泉で武器なしの状態では 圧倒的に自分が不利で、何をしても徒労に終わる事は目に見えている。 万斉にも目配せで“コイツに構うな”と指示をする。 銀時がペラペラ高杉との過去を喋っているのを初めは 黙って聞いていた万斉だったが、堪え切れなくなったのか途中で口を挟む。 「白夜叉、長さより密度でござる。 拙者と晋助はそれはもう、貴様とは比べものにならん濃厚な日々を過ごしている」 「はあ?俺だって高杉とは昔、そりゃ濃い関係だったもんね」 「今の晋助と拙者ほどではござらんよ。 夜のベッドでの拙者と晋助の密着っぷりを見せたいものだな」 「へっ。高杉を仕込んだのは俺だっつーの。 初心な高杉に全部俺が教えてやったの。そりゃもう手取り足取り腰取り、 あーんなことや、こーんなことまで身体の隅々まで調教してやったんだからな」 「ぐっ……。身体の相性ならば拙者と晋助の方が抜群にいいでござる。 毎晩晋助は、拙者の下で可愛く鳴いておるよ」 「なーに言ってんだ。俺と高杉の身体の相性は最高だつっーの。 俺の凸と高杉の凹は相思相愛で、一度いれたら喰いついて離れねえくらいだ」 「拙者の方が主より若い分、体力もあって長く晋助を愉しませてやれる」 「はっ、俺だって体力はバケモン並にあんだよ。 高杉が失神するまでやれるぜ。それに、俺の方が高杉のイイとこ知ってるもんね」 銀時はそう言うと、高杉の事を膝の上に抱き上げて 脇腹に長い舌を這わせた。 ゾクゾクと背筋を這いあがるくすぐったい快感に高杉はピクピクと悶える。 「あっ、はぁ、やめ……ぎんっ」 「どうだ!高杉は脇腹が弱ぇんだよ。こうやって擽ると すぐにビクビク痙攣しながらおっ勃てて悦ぶんだぜ?知らなかっただろ!」 明らかに感じている高杉に万斉は悔しさを募らせる。 怒りの滲んだ顔で高杉を奪いとると、高杉の外耳と耳の穴を舌で舐め上げた。 ぴちゃぴゃちゃと音を立てながら耳を嘗め、時にちゅっと吸い上げると 高杉の腰がびくんと跳ね上がる。 「んっ ぅぁっ ばんさい、くすぐっ……」 逃げようとする高杉を万斉はがっちり捕まえて、執拗に耳を責める。 涎を垂らして甘い吐息をはく高杉に今度は銀時が悔しげな顔をする。 「耳が弱いのは俺だって知ってんだよ!」 万斉から高杉を奪って銀時は岩の上に押し倒した。 それから無遠慮にヒクつくアナルに中指を突っ込む。 「あひぃっ くっ ばかやろ……っ!」 二人からの執拗な愛撫で解れていたとはいえ、 いきなり指を突っ込まれた高杉は歯を喰いしばって圧迫感を堪えた。 異物感に顔を顰めるが、それもすぐに快楽に塗り替えられる。 銀時の指が胎内のしこりをぐりぐりと押してきた。 電流の様な快感が脳天を着き抜け、高杉は爪先を張りながらびくびくと震える。 「ぎんっ、やめっ あぁっ、イクッ」 「高杉の身体のことなら知り尽くしてんだよ。 何より開発したの俺だしなぁ。どうだ、このよがり顔!」 「ふん、昔取った杵柄というやつでござるか。 今、さらに晋助の身体を開発させてより進化させているのは拙者でござるぞ」 そういうと、万斉も高杉に指を突っ込んで来た。 二人の指がバラバラに前立腺を押し潰したり、内壁を引っ掻いたりして 高杉はあられもない姿を晒して喘ぐ。 「はぁっ、ぎんときっ、ばん、さいもっ!やめっ……ぁっ」 「俺の方がテクだよなぁ?高杉」 「何を!拙者の手管の方がより官能的でござろう?晋助」 「やぁっ うっ くぅ……ンッ!」 高杉は二人に責め立てられて、射精しながらイッてしまった。 二人はぐったりした高杉から指を引き抜く。 岩の上に仰向けに倒れ込み、高杉はぐったりして荒い息を吐いた。 そんな高杉には構わずに、二人は今度は股間を高杉の前に晒して、 どっちが立派かとか、どっちの腰遣いが上かだとかを争い始める。 「いい加減にしろっ!俺が風邪ひくだろーがぁっ!」 高杉はブチ切れると、銀時の腹に蹴りを入れ、万斉の顔に拳をお見舞いした。 まともに高杉の攻撃を喰らった二人は間抜けな叫び声を上げて 豪快に水しぶきを上げながら温泉に沈んでいった。 「ふん、馬鹿共め。てめーらそこで仲良く寝てろ」 冷たく吐き捨てると、高杉は二人を置いてさっさと風呂を出て行った。 湯船に死体の様にだらりと銀時と万斉が浮かび上がる。 「ってぇ〜。クソ、アイツ相変わらず凶暴だぜ……」 「同感でござる。晋助は些か気性が激しすぎる」 「まあ、怒った顔も可愛いけどな」 「ああ、そうだな」 今日初めて、銀時と万斉の意見が一致した。 風呂場には、愛しい人に置き去りにされた哀れな二人の男の、 情けなさと不気味さの入り混じった笑い声が虚しく響いていた。 --あとがき---------- ケイ様、リクエストありがとうございます☆ 万斉VS銀さんで高杉を取り合う構図、私の大好きなシチュですっ♪ とっても楽しく書かせて頂きました。 銀さんも万斉も変態でSなので、話が下ネタよりに(笑) 二人は高杉を振り回せる唯一の人物だと思います。 高杉はこの二人と、あとは坂本辰馬さん以外には振り回せない気がしますvv でも振り回されても、負けっぱなしでは終わらないのが晋助様ですよね! 最後はきっちりと仕返しします(笑) ギャグになりきれてない部分もあるかもしれませんが、 愉しんで頂ければ幸いですvv |