「火が点いたら」





自分が居ない間にあの男を城に上げた。
自分が知らない所であの男の作ったモノを口にした。
自分が見ているのに気付かずあの男に唇を許した。
あの男に、あんな奴に、嗚呼、憎い。許せない。
冥い冥い炎が心の闇に燈る。黒い炎が照らしても、相変わらずその裡は闇ばかり。

「ちょうどよかった佐助、お前にも食べてもらいたいものがあるんだ」

さっきまでの禍事を隠す様に無駄に明るく微笑む旦那。
別に、悪い事はしていないのにこの俺様の苛立ちに本能的に気付いて、
気を使っているのだろう。
忍に気を使うなんて本当に愚かで愛しい主。
でも、許さない。食べてもらいたい物の正体をちゃんと知っているから余計に許せない。
「楽しみだね」と空々しく言いながらも、
平常を装うその小さな背中を鋭く射抜いた。

こんな醜い俺が嫌いだ。
こんな醜い心を抱かせたあのお方が―…ただただ、憎たらしい。



茶室に二人で入ると、幸村が佐助の為に茶を淹れた。
相変わらず普段通りにこりと佐助は笑みを浮かべていたが、
幸村は何処か気分が晴れなかった。
晴れていた空が急に暗雲に包まれた所為だろうか。
そう思って気にしない様にしていたが、どうにも気が落ち着かない。

「お前ほど上手くは淹れられぬが、飲めぬ事はあるまい」
「なーに言ってんの、旦那。わざわざ主であるアンタが
 忍ごときに茶を淹れてくれるだけで充分だよ。味なんてどうでもいいよ」

そう言って佐助は茶を一口飲んだ。
暖かい茶に身体は少し温まったが、佐助の心は依然冷め切っていた。

「ありがとう、旦那。お茶、美味しいよ」
「そ、そうか。よかった。それよりこれをお前に食べて貰いたいんだ」
「なに、それ」
「おう、政宗殿がさっきいらしたのだが、その時に持って来てくれたズンダ餅だ。
 政宗殿のお手製だそうだ。美味いぞ」
「ふぅん、そう、なんだ―…」

心が異常にに小波立った。
アイツの作った物なんて食べたくない。
でも、食べなければなんとなくアイツに負けた気がした。
笑顔で幸村が差し出したズンダ餅を楊枝を刺して佐助は口に放り込んだ。

「……」

政宗が作ったというズンダ餅。それは幸村好みの味だった。
きっと幸村の事を思いながら丹精込めて作ったのだろう。
その政宗の気持ちとも言えるズンダ餅を幸村は美味そうに食べた。
しかも、よりによって自分に食べろと勧めてきた。

いくら鈍いからと言って、酷い仕打ちだ。
幸村はただ単に美味しい物を自分と共有したかっただけだろうが、
何故自分がわざわざ政宗の幸村への想いを口にしなくてはならないのだろう。

ズンダ餅が胃の底に詰まり、鉛の様に重たい気がした。
冷えた様な重みが身体の底から沸き起こり、気持ちを荒ぶらせる。

心の水面には、大きな波紋が広がっていた。
密かに目撃してしまった場面が脳裏でフラッシュバックする。
抱き寄せられた細い腰、重なる二人の唇。
幸村の潤んだ瞳、独眼竜の真剣な眼差し。
嫌だ。何故、あんな危険人物に大切にして来た主を奪われなくてはならないのか。
何故、簡単に唇を奪わせたりしたんだろう。
邪推が心を駈け廻り、荒波の様に激しく心がうねり立つ。

「ねえ旦那、独眼竜は何を想ってこの餅を作ったと思う?」
「何を言い出す、佐助。そんなこと、解る訳ないだろう?」
「いいから。何でも良いから答えてみてよ」
「う〜む、食べる者が美味しいと言ってくれるように、か?」
「当たらずとも遠からず、だね」
「どういう意味だ?」
「さあね。じゃあ、何故、美味しいと言ってもらいたかったと思う?」
「それは不味いと言われるより美味いと言われる方が気持ちいいからだろう」
「まあ、そうだろうね。でも、美味いと言わせるだけなら態々自分で
 作らずとも、奥州の名物品を持ってきたらいい。なのに、奴は態々手作りできた」
「うむ、政宗殿はたいそう律儀な男だな」
「違うよ。アイツが律儀だったら世の中みんな律儀になっちまう」
「そうか?」

幸村との押し問答はただただ疲労が増すのみだった。
本当に何も解っていないのだ。だから、安々と取って喰わるのだろう。
いや、それとも、接吻させてもいいと思っていたのだろうか。

「ねえ、二人で話して、甘味食って、それだけだった?」

佐助から静かに投げ掛けられた問い掛けに幸村はギクリとした。
じっと見詰めて来る緑がかった薄い瞳が冷たく感じられた。
背筋を冷たい汗がつぅっと流れるのを感じた。
ゴクリと唾を飲み込むと幸村は顔が強張るの堪えながら平静を装って答えた。

「あ、ああ、それだけだ」
「本当?」
「嘘はつかぬ……」

そう言う自分の声が上擦るのを感じながらも、
佐助に政宗と接吻してしまった事を知られたくなくて必死に普段通りを装った。

だが、一流の忍である佐助の目を誤魔化せる筈もなかったのだ―…
静かな炎が、ゆらゆらと揺れ次第に大きくなる。
轟々と音を立てるまでの焔にまで広がっているのに気付いた時には、既に遅い。


(どうして、嘘を吐くの?心に疚しい事があるからだろ―…?)

裏切られたような気がした。
刹那、闇に眠っていた獰猛な獣が咆哮を上げたのを耳の奥で聞いた。

幸村の為に仕事帰りに買って来た団子を脇に置くと、佐助は幸村との距離を詰める。
じっと見詰める瞳が嫉妬に狂った色を滲ませている。
ビクリと肩を震わせ、幸村は思わず後ずさった。

「ねえ、本当に何もなかったの?旦那」

冷たい声音。にやりと吊り上げられた唇の端。痛いくらい見詰めて来る瞳。
何もかも、見透かされている気がして幸村は何も答えられなかった。

「違うよね。接吻してたもんね、旦那」

見られていたのだと気付き、幸村は震えた。
言葉が全て失われ、捕食獣の様な瞳を向ける佐助からただ瞳を反らすのが精一杯だった。

グッと幸村の顎を掴む無理矢理自分の方を向かせて、
佐助はふっくらした唇に喰らい付いた。
貪る様に乱暴に唇を吸い上げ、息させもさせずに吐息も舌も唾液も全て絡め取る。
舌を吸い上げられると、下半身にゾクゾクとした感覚が走り、
足腰から力が抜けていった。
佐助の舌に翻弄されて息が出来ず、幸村は苦しくて目尻に涙を滲ませる。
だが、佐助は更に深く口付けると強く舌に吸い上げた。

「あふぅっ んぅ」

くちゅりとやらしい水音が響く。
呑み込み切れなかった唾液が顎を伝い落ちて着物の胸元を汚した。
意識が朦朧とし始めた頃、漸く佐助に解放されて幸村はゲホゲホと咳込んだ。
潤んだ瞳で佐助を睨みつけると、口元を拭いながら声を張り上げた。

「っ!何をする佐助っ!苦しいではないか!」
「……謝らないよ。だって、アンタが悪いから」
「俺が、悪い?何故だ?」
「何故だって、解ってないの?まったく、鈍いね。ま、いいけどね。
 ねえ、なんで俺様がいない時にあんな男を上げたんだよ?
 何であんな男の手作りのズンダ餅なんて食べたの?何で接吻させたの?」

捲し立てる様に尋ねられ、幸村は口籠った。
佐助は大きく溜め息をつくと、畳の上に幸村をうつ伏せにこかせた。
起き上がれない様に背中に片足を乗せて押さえ付けると、
帯を解いて袴をずり降ろした。
閨でもない、普通の茶室で押さえ付けられて服を脱がされ、幸村は羞恥に慌てふためいた。

「な、やめろっ、佐助っ!」
「嫌だね」

褌に手を掛けて無理矢理引っぺがしながら、べろりと自分の指を舐める。
唾液を絡めた指をまだ固く閉ざしている幸村の蕾に突き立てると、
ツプリと胎内に指を埋め込んだ。

「あひっ、うくぅ、っは」
「固てぇや。ほら、旦那もっと力を抜かないとナカ切れちゃうよ」
「うぅっ、くはぁ」

グニグニと柔肉を揉み解す様に指を動かし、佐助は慎重に胎内を探る。
圧迫感とむず痒さに幸村は息を荒げる。

「あぅ はぁっ ううぅ」

少しナカが柔らかくなったのを感じると佐助は早々に指を引き抜いた。
その事にホッとしたのも束の間、尻にヌメリとした物が押しあてられる。
肩越しに振り返ると、佐助の意地悪な笑顔に勝ちあって幸村はゾクリとした。
尻に当たっているのが何か解らない事が酷く恐怖を煽る。

「さ、すけ、何を……」
「何だと思う?」
「……」
「旦那の大好きなモノだよ。ね、好きでしょ。コレ」

クツクツと押し殺したように笑いながら、
佐助は幸村の入り口に手に持つものを擦り付けた。
ベトベトする感触。一体何を佐助は手に持っているのだろうか?
幸村の疑問を感じ取ったかのような台詞を佐助が漏らした。

「気になる?」
「あ、ああ……」
「当てて見てよ。旦那が好きなモノだってば」
「解らぬ」
「ま、解らないか。じゃあ、教えてあげるよ。じゃーん、これだよ」

そう言って佐助が幸村の顔の近くに近付けたものに、幸村は思わず目を丸くした。

「み、みたらし団子、か?」
「せいかーい。大好きでしょ。敵の独眼竜に唇を赦しちゃうくらい好きなものだもんね」
「う……ズンダ餅は馳走になったが、けして、そういう訳じゃない……」
「どーだか。甘味貰って油断したのは間違いないでしょ」
「うぅ……」
「そんなに好きなら、たーんと召し上がれ」

ニコリと笑うと、佐助は幸村の尻の肉を左右に割開いた。
そんなものを挿れられたら堪らないと、幸村は手足をジタバタとさせる。

「いやだっ、やめろ、佐助!離せこの痴れ者がっ」
「ハイハイ、暴れないの失敗して串刺しちゃうかもよ」

ペチンと軽く佐助は尻を叩いた。すると、幸村は背を反らせて一瞬力を抜く。
その隙に佐助はみたらし団子を幸村の尻の中にズプズプと埋め込んでいった。

「いいいっ、あうっ、 あぁっ」

タレに塗れた柔らかで弾力のある団子が肛門から入ってくる未知の感覚に、
幸村は首を仰け反らしてガクガクと身体を痙攣させた。

「ひぃっ、いあっ、やめ……っ」
「嫌じゃないでしょ。俺様がいない時に敵将を招いちゃうほど甘味好きだもんね」
「はぁっ、ち、がうぅっ」
「違わないよ」

ベタベタしたみたらしのタレのお陰で、すんなりと胎内に団子が侵入して来る。
ひんやりしたゴツゴツした連なった丸が壁を擦りながら入ってくる感覚に
瞳を見開いて幸村はガクガク震えた。

「あぁっ、やめてくれぇ、ぬいてっ」
「ダーメ。旦那がちゃーんと反省する様にお仕置きしないとね」

ゆっくり、存在を示す様に挿入していた団子を佐助は一気に胎内に押しこんだ。
激しく内壁が擦られ、快感が脳天を貫いた。

「ひああぁぁぁっっ!あうぅぁぁぁっ!!」

精液を盛大に撒き散らして、幸村はイッた。
射精感にぐったりする暇も無く、佐助が胎内で動かす団子に翻弄されて
また幸村の性器は熱を持って勃起する。
タレが絡み付いた串団子が胎内を激しく摩擦し、
今まで感じたことのない異物感と妙な快感に襲われ幸村はボロボロ涙を零した。
数珠状に繋がった丸い団子はムズムズする様なもどかしい快感を
与えて来る。かと思えば今度は激しく動かされて昇りつめさせられる。
佐助の巧妙な手管に、もはや幸村は白旗を上げるしかなかった。
開きっぱなしの口からは絶えず女の様な喘ぎが零れ、
身体中が熱に犯されて頭が可笑しくなしそうだった。

(団子に感じるなど、最悪だ……)

食べ物を尻から入れられ、喘いでいる自分の情けなさに惨めになった。
だが、身体が快感に従順に反応しもはや抵抗する気力を削がれていた。

「あっ やぁっ はぁ、らめっ しぬっ……」
「死なないでね。俺様がついてながら団子で腹上死なんて恥かしいよ」
「じゃっ、やめぇっ あっ」
「旦那が独眼竜に気を許した事を反省したら、ね」
「あぅっ、あっ、すまない さすけっ」
「本当に反省してる?」

佐助の言葉に慌てて幸村はコクコクと激しく頷いた。
にっこりと佐助は微笑むと、幸村の尻穴から団子をずるりと引き抜く。

「はぅぅぁ」

さっきまで腸内を犯していた物がゆっくりと抜け出ていくのにも
感じてしまい、幸村は仰け反った。
ぐったりとうつ伏せに倒れ込んだ幸村の腰を引き寄せると、
佐助は既にそそり立った熱い自分の楔を突き立てた。

「なっ?さ、すけっ?ひぁっ、あぁぁぁぁっぁっっ!!!」

止める間もなく、佐助は幸村の胎内に自分の一物を一気に突っ込んだ。
強い快感が全身を走り抜け、幸村は白濁液を噴き上げる。

「タレのお陰ですんなり入ったねぇ。じゃ、今度は俺様が頂きますっと」

ガクガクと腰を振り、ピストン運動を繰り返して
佐助は幸村の性感帯を激しく付いた。

「あっ あっ あっ あぁぁっ」

律動に合わせ、喘ぎを漏らす幸村の色っぽさに佐助の摩羅は熱と質量を増す。
もう抵抗する気力も無く、
与えられる快感に溺れて幸村の胎内は蠕動を繰り返した。
きゅっと締まりのいいアナルに佐助も喉を晒して艶めいた表情を浮かべる。

「くはっ、最高だぜ、だんなぁっ」
「はぁぁっ、あっ うあぁっ」
「だんなっっ、俺様、も、イッちまいそうだ」
「あぁっ、さすけ、さすけぇぇっ」
「だんなぁぁぁっ」

佐助がナカに熱い子種をぶちまけると同時に、幸村も精液を噴き上げてイッた。
全身から力が抜けてぐったりとしている幸村の耳に、
佐助はそっと唇を寄せて囁いた。

「ね?こりた?団子は暫くいらないでしょ」
「……」
「あれ、まだ食べ足りない?そんなに美味しかった?じゃ、おかわりでも……」

佐助の言葉にビクリと肩を震わせ、幸村は激しく首を振った。

「い、いやっ、もういいっ、もういらぬっ!」
「クク、旦那が団子を拒否するなんて珍しいね」
「意地が悪いぞ佐助……、もう、許してくれてもいいだろう?
 俺も迂闊だった。相手が政宗殿といえど、二度と後れは取らぬと約束する」
「ホント?嬉しいよ、旦那」
「むう、だから、今度は普通に口から団子が喰いたい。
 お前が無理矢理したから体力を消耗して腹が減った。いいだろう?」
「仰せのままに。沢山買ってきたからまだまだあるよ」
「うむ。だが、買って来たのもいいが、お前が作った団子も食べたいぞ。
 政宗殿の作ったズンダ餅も美味かったが、やはり、お前の作った
 団子こそが日の本一だからな」

そう言って、大きな瞳でジッと見詰めてきた幸村に佐助は思わず
破顔した。お世辞も偽りもないその言葉は胸を震わせる。
ぎゅっと幸村を抱締めると、佐助は首筋に顔を埋めた。
締まりのない、デレデレとした表情を見せるのが恥かしかったからだ。

「当然でしょ、俺様、日本一の忍だからね」
「おう!お前ほどの忍などこの世には存在せぬ!」

照れ隠しの為に冗談めかして言った言葉にさえ幸村が頷く。
事に及ぶ前に燃え盛っていた黒い炎はすっかりと消え失せ、
暖かな炎が心に燈っていた。

(ああ、アンタの炎は一生この黒い炎を包んで燃え続けるんだね―…)

そう思うと、自分の暗い闇が少し好きになれた気がした。






--あとがき----------

白状すると、ただ単に嫉妬してドSになる佐助が書きたかったんです(笑)
まーくんには悪い事をしました。
嫉妬した佐助は怖そうですよね☆
食べ物を粗末にする下劣行為で気分を害された御婦人がいらしたらごめんなさい。
反省はしてます。でも、後悔はしてない(爆)