―秘め薬―





禁忌を破りたくなる。それはある種の人間の性なのかもしれない。
秘密ほど暴きたくなる。
ましてやそれが、普段より興味を持ち好意を寄せる相手なら尚のことだ。


甲斐の山も雪解けし、桜の蕾が徐々に花開くうららかな昼下がり。
桜を見上げながら一人花見気分で幸村は辺りを徘徊していた。
淡いピンクの花弁がハラハラとぼんやりした蒼穹を漂う様子は
絵に残しておきたい程の美しく幻想的だ。
されど、一人でそれを見ているのは少し退屈なものだ。
この優麗な景色を分かち合うものがいてこそ、感情にも景色の美しさにも彩りが増す。
一人ではただ漠然と綺麗だと思うだけだ。

「そうだ、佐助を誘って花見でもしよう」

独りごちると、軽い足取りで幸村は佐助が隠れ家として使う
彼専用の忍び小屋へ向かった。

「佐助っ!居るのか?さすけーっ!」

忍び小屋の外から声を掛けて見るが、返事はない。
勝手に小屋に入るなと口を酸っぱくして再三注意されてはいるが、
扉を開けて勝手に中へ侵入した。
中はしんとしており、人の気配は全くない。
佐助は隠れて自分をやりすごそうとしているわけではなさそうだ。
信玄に任務でも与えられて出掛けているのかもしれない。

「何だ、居らぬのか……」

がっかりして肩を落とし、そのまま小屋を立ち去ろうとした。
だが、せっかく佐助も他の忍びもいないことだし、
何があるのかちょっと見させてもらおうと思い立ち、
幸村は返した踵をまた小屋の中へと向ける。

小屋の中は生活の匂いはなくやけに小ざっぱりとしていた。
だが、着替えや水が入った甕などほんの僅かだが日常品もある。
戸棚をあけると、暗器や薬草など珍しい品々が入っていた。

「変わったものが沢山あるな」

変わった形の武器を物珍しげに眺めていた幸村の目に、小さな袋が目に入った。
何が入っているのだろうかと気になり、手を伸ばし掛けた時に
佐助の言葉を思い出してピタリと手を止めた。

“いい、旦那。忍びの小屋には勝手に入っちゃだめだよ
 入ったとしても、中の物には絶対手を触れないでね。
 忍の暗器、特に真田忍隊は闇属性が多いから触れただけで
 命を吸い取るような危ない武器も中にはある。
 あと、毒薬とか危ない薬も沢山あるからなね、
 特にそれには絶対に触っちゃダメ!いいね、旦那”

幼い頃から念を押すようにそう言われ続けている。
しかし、見るなと言われれば何があるのか見てみたくなる。
手を伸ばして触れてみたくなるのが真理だ。
大好きな佐助の秘密なら尚のこと、知りたいと思うのは自然の道理だった。

「少しだけなら、構わないだろう」

袋に手を伸ばし、シュルリと口を縛る麻の紐を解いた。
中は白い粉っぽいものが詰まっている。
空気に乗ってふわりと巻き上がった粉は、何やら甘い香りがした。
花の蜜の様な蕩けるような香り。
甘党な幸村にとっては酷く魅惑的な香りで、思わず粉に手を伸ばす。
少々なら大丈夫だろうと指先に少しだけくっつけ、
おもむろに幸村はそれを口に運んだ。

「……無味だな。甘いのは香りだけか……」

がっかりして、幸村は袋を元に戻した。
溜め息を吐いて他の棚を物色しようとした幸村をよく知った声が呼ぶ。

「だ〜ん〜なぁ〜」

笑ってはいるが普段より低く明らかに怒気を孕んだ声に
幸村はびくりと肩を跳ね上がらせる。
恐る恐る振り返ると、ドアに凭れて腕を組んだ佐助がこちらを睨んでいた。

「ささささ、さ、佐助ぇっ!?な、何時の間に来た?気が付かなかったぞ!」
「あったりまえでしょ?俺様を誰だと思ってんの。
 いくら忍の気配に敏感な旦那でも、流石に本気になった俺様の気配は
 つかめないでしょ。それより何やってんの!」
「い、いやっ。お前を花見に誘おうと思って……」
「んで、ついつい俺様の私物を物色してたわけ?」
「いや、物色など!断じてそのようなことはっ!」
「はいはい、ウソつかない!正直におっしゃいなって。触ったでしょ?」
「……う、うむ。すまぬ……」

佐助に怒られて、しゅんと幸村は項垂れた。
普段ならここでしょうがないなと甘い顔を見せてしまう佐助だが、
さすがに今日は表情を緩めることなく笑いながらも怒った目をするという
器用な芸当をやってのけた。
恐ろしいその形相に、幸村はますます縮こまる。

「で、流石の旦那でもここにある物を勝手に口に入れたりはしてないよねぇ?」
「う、それは」
「したの?」
「い、いや、その……」
「したんでしょ。全部見てたよ」
「ぐぅ……、見ておったならわざわざ聞くな!」
「ハイ、逆切れしない!悪いのはアンタなんだからさ。
 まったく、それ、実は結構大変な代物なんだよ。わかってんの?」

脅すようにそう言いながら、佐助は幸村が今しがた棚に戻した小袋を指差した。

「あ〜あ、大変なもの、口に入れちゃったねぇ。
 前に言わなかったっけ?ちょっと舐めただけでコロッと死んじゃうような
 毒だってあるんだから、ぜったい勝手に手に取らないでってさ」
「ま、まさかっ、その袋の中身は毒なのか」

青褪めて幸村が叫ぶと、佐助は意地悪く口の端を歪めた。

「さぁて、どうだろうねぇ〜」
「なっ、ど、毒なのかっ!さすけっ、どうなんだ!?」
「ククク、安心して旦那、毒じゃないからさ」
「じゃあ何だ?これは……っ!?」

ガクリと幸村は膝を崩した。そのまま床に蹲って自分の身体を抱締める。
その頬は朱が射し、瞳は潤んでいた。

「あっれ〜どうしたの?旦那ぁ」

ニヤニヤ笑いながら、佐助は幸村の顔を覗き込んだ。

「あつい……、身体が、変なんだ」
「あれれ、あの薬、どうやら媚薬だったみたいだねぇ」
「んなぁっ!?びびび、媚薬っ!?」
「そ、媚薬。気分はどう?旦那。忍の薬は良く効くよ〜」
「あっ、く……」
「辛そうだね」

クスクスと呑気に笑いながら、佐助は幸村の首筋に唇を寄せた。
べろりと細い項を舐めると、「あぁっ」と幸村があられもない声を漏らす。

「すんごい敏感になってるね。どう?感じる?」
「ひゃぁっ、こ、こら止めぬか、佐助」
「やだよ。旦那がヤらしい顔するからさ、俺様まで興奮してきちゃったんだよね」

そう言った佐助の萌黄色の瞳は、いつもの穏やかさは垣間見れず
獣じみたギラついた光を宿していた。
佐助は幸村の股の間に自分の足を割入れると、
固くなった自分の雄を幸村の太腿にぐっと擦り付けた。
熱くなった佐助の股間を宛てられ、幸村はゴクリと唾を飲み込んだ。
下半身が佐助の熱を求めてズクリと疼く。
幸村は無意識のうちに佐助が自分にそうするように自分も佐助に
股間を押し付けて腰を揺らした。

「旦那ったらやらしぃんだ。腰、振っちゃってるよ」
「う、あ、これは」
「でもだめ。旦那は俺様の言いつけを破って媚薬なんか飲んじゃったんだから、
 ちょっとは痛い目に合っておかないとね。おしおきだよ」

意地悪く佐助の瞳が細められた。



「あ、やめろ、解いてくれ―…っ!」

手首に喰い込む柔らかな麻布の紐を軋ませ、幸村は焦った声を出した。
だが、佐助は知らん顔で手裏剣や苦無の手入れをしている。
現在、幸村は佐助の早技によって立たされた状態で
天井から拘束された手を吊るされている。
着物も袴も剥ぎ取られ、褌一枚という頼りなげな恰好だった。
佐助が自分を無視して道具の手入れを始めてしまったのを前に、
体重で紐をギシギシと鳴らしながら、幸村はなんとか拘束を解こうとした。
だが、紐が喰い込んで腕が痛くなるだけで拘束は緩みすらしない。
自力で逃げるのは無理そうだった。

「あ……はぁっ、んん」

媚薬で身体の芯が火照り、刺激を求めて全ての性感帯が疼いた。
触れて欲しい。快感を与えて欲しい。
自然と腰がうねり、口からは厭らしく喘ぎ声が漏れる。
最初は恥かしいと我慢していたが、
徐々に理性が剥がれ落ちて、堪えることができなくなりはじめていた。
腰は誘うように揺れ、欲望に濡れた薄茶の瞳が佐助を求めるように見詰める。
その視線に気付いた佐助は仕事する手はそのままで顔を上げ、
口の端をつりあげて佐助は嗤う。

「ちょっと旦那ぁ。お仕事してる部下の前で 
 そんなエロいかおして喘がないでよ〜。悪いご主人様だねえ」
「うぁ…はっ、も、許してくれ……」
「だ〜め、根を上げるにはちっとばかし早いぜ旦那」
「も、げんかい、だ……」

そういう幸村は本当に限界らしく、全身を震わしていた。
晒された乳首はプクリと膨れ、桃から薄紅に色を変えている。
下帯びは先走りで濡れ、粗相をした様に股間に沁みが出来ていた。
しかも、既に熱を帯びた性器が勃ち上がり、褌の布を押し上げ形が変わっている。
そんな痴態を晒す幸村を、佐助は舌なめずりしながら眺めてた。
ジロジロと舐め回すような佐助の視線に、
幸村は羞恥心を覚えてモジモジと白い内腿を擦り合わせる。
その些細な行為ですら快感を滲みださせて、幸村は首を仰け反らせた。
切なげに眉を寄せ、幸村は懇願する様な瞳で佐助を見上げる。

「しょうがないね、旦那は」

肩を竦めてそう言うと、佐助は武器を置いて幸村の傍に歩み寄った。
漸く解放される。そう安堵したのも束の間で、
解いてもらえると思った紐が解かれることはなく、
伸ばされた佐助の手が胸から脇腹に掛けてをゆるやかに撫で上げた。

「ひぁっ、うぁ…っ!」
「すんごい敏感になってるね。かあいいー。乳首なんてコリッコリだよ?」
「あっ!? ひゃぅぅっ!!」

不意に佐助の指がキュッと胸の突起を摘まみ上げ、
幸村は大きく身体を撓らせた。
全身に強い電撃にも似た快感が走り、ビクンと大きく腰が跳ねる。
その様子ににまにまと笑いながら、佐助はさらに乳首を攻め立てた。

「いあぁっ、ひうぅっ、ああっ いあ……ちくび、いやだぁ」
「嫌じゃないでしょ?もっと欲しいんじゃないの?」

両方の乳首を抓り、転がしたり弧を描くように触れると幸村は
目尻から涙を流し、喘ぎ声を上げて涎を垂らした。
もともと感度の良い幸村だが、長時間の放置されたのと媚薬とで
更に感度が増し、いつも以上に理性を失っていた。
淫乱に喘ぐその姿に、佐助は自分の下半身が窮屈になっていくのを感じた。
もとより、幸村をこうして縛っている時から興奮して雄が反応していた。
堪えていたのは幸村だけでなく、自分も同じだった。

(俺様は旦那と違ってMじゃないんだけどねぇ―…)

幸村を更に乱れさせるため、そして虐める為とはいえ、
自分の身をも修練に置いた自身に苦笑しつつ、佐助は漸く手にした
甘い甘い果実に酔いしれた。
赤く小さな粒の片方を口に含んで歯で噛んだり、吸い上げる度に
幸村の愛らしい嬌声が響く。それが佐助にとっては堪らなく快感だった。

「このまま一時間くらい乳首ばっかり責めてようか?
 旦那だったらそれでもイっちゃえそうだよね」
「いやだっ、そんなことされたら死ぬ!やめてくれ、後生だ、さすけぇ」
「そんな風に嫌がられると、俺様って天の邪鬼だから余計やってみたくなるよ」

悪魔の様に佐助が微笑むと、幸村は激しく頭を振った。
涙を溜めて潤んだ瞳で幸村は佐助を見詰める。

「たのむ、たすけてくれぇ。もう、辛いんだ」
「ほんと、旦那はかわいいよ。いいよ、乳首はそろそろ止めたげるね」

そう言うと、佐助は幸村の下帯びを解いた。
ねっとりと湿った雄が姿を現し、佐助は深く微笑む。
先走りでぬめぬめになった竿を扱くと、幸村は大きく仰け反って全身を震わせた。
そのままイきそうになった時に、佐助はぎゅっと根元を握り込み、
幸村の射精を阻止する。
寸での所で邪魔をされた幸村は悲壮な顔をして佐助を見詰める。

「いぁぁっ、はなしてくれっ、イきたいんだ」
「だーめ、もうちょっと我慢して」

そういうと、佐助は先走りを指に絡め取って幸村の菊座に押しこんだ。
すでに腸液で濡れたソコは、生き物の様に蠕動して佐助の指をすんなり呑み込んだ。

「あらら、お待ちかねだったみたいだね」
「あ あぁっ うぁっ」

尻穴に指を入れられた幸村は、蕩けそうな目をしていた。
佐助は上唇を舐めると、ナカに挿れた指をくの字に曲げて壁をひっかいたり、
指の抽送を繰り返したりした。
佐助の指が壁を擦り上げて強い快感が背中を走り抜けた。
もっと強い刺激を求め、ナカが蠢く。
幸村は淫欲に滲んだ顔で口からひっきりなしに高い声を上げていた。

「ふあぁっ あうぁぁ…もぅ、指はいやぁ」
「いいの?やめちゃって」
「ちがう、佐助、お前のがほしっ……」

縋るような瞳に、佐助はゴクリと唾を飲み込んだ。
本当はもっと苛めるつもりだったが、一気に熱が中心に集中して
佐助自身が堪えられなくなった。

「そんなこと言われたら、俺様もう優しく出来ないよ?」
「いいから、はやくっ……!」
「ん、わかったよ、旦那」

そっと前髪を掻き上げて額に接吻すると、佐助は自分の衣服を躊躇いなく脱いだ。
余分な肉の削げ落ち筋肉だけがついた身体が露わになる。
幸村が見詰める前で袴も脱ぎ払い、幸村のよりも随分と立派な一物を曝け出した。
佐助の硬度を増して充血した摩羅に、幸村はゴクリと唾を飲み込んだ。
尻を突き出し、急かすように佐助を求める。

「はやく、ほしいっ。もう、我慢できぬ」
「うん、俺様もとっくに限界だから」

幸村の細腰を掴むと、亀頭を菊座に押し当てた。
幸村が息を飲むのを聞きながら、いっきに熱い胎内へと摩羅を埋め込む。

「ああぁぁっぁぁっぁっっ!!!」

背中を反らせ、幸村は精液を吐き出した。

「ちょっと、挿れただけでイっちゃうなんてどんだけ感じてんだよ?」
「ああぁっ、はぁう」
「でも、まだまだイけそうだね」

射精したにもかかわらず、まだ幸村の摩羅はそそり立っていた。
佐助が腰を動かす前に、幸村自身が腰を振ってより深くに佐助を導こうとする。
ずっと立ちっぱなしの幸村の肢がガクガクと震えていた。
それに気付くと佐助は紐を手套で切り裂き、幸村を解放する。
崩れ落ちそうになった身体を背後から抱きかかえると、
二人でそのまま床の上に崩れ落ちた。

「くっ、最高だね、旦那のナカは……」
「あっ あぁ、きもちイイッ!」
「俺様も、すっげぇキモチいいよ、アツくてキツクって、も、イっちまう」

尻を高くあげ、四つん這いになる幸村に
佐助は何度も腰を打ちつけて幸村の胎内を貪った。
佐助の摩羅が腸壁や前立腺を擦り上げると、幸村は獣の様な喘ぎを上げて
背中を仰け反らせた。
激しく突き上げられる度に頭の中で火花が散り、なにもかもが曖昧になる。
幸村も佐助も互いの熱を求め合い、激しく身体を交えた。

「ああぁぁっ、さすけ、さすけぇぇっ!」
「だんなっ くぁっ ね、いっしょにイこう、だんなぁっ」
「あっ イクッ ああぁっ!」

佐助が幸村の中に子種をぶちまけるのと同時に、
幸村も白濁液を噴き上げて果てた。
二人はそのまま縺れ合う様に床に転がり、互いの汗に塗れた身体を抱き寄せあった。


「ごめんね旦那、手首、赤くなっちゃったね。痛い?」
「いや、平気だ」
「ちょっと、やりすぎちゃったね。怒ってる?」
「怒ってない。だが、恥かしくて死ねそうだ……」

いくら媚薬に犯されていたとはいえ、あんな風に乱れた姿を佐助に晒した事は
幸村にとってはとんでもない恥で、出来ることなら忘れて欲しいくらいだった。
顔を真っ赤にして俯く幸村の頬に佐助はそっと唇で触れる。
熱い体温と柔らかなその感触を唇で堪能すると、
そっと唇をはなして幸村の潤んだ瞳を見詰めながら佐助は言った。

「旦那は恥かしがるけど、俺様はすっごく嬉しかったよ。
 旦那が自分から欲しいなんて言ってくれたの、初めてだもん。ホント、幸せだよ」

そういって心底満たされた笑みを浮かべる佐助に、幸村も頬を緩めた。

「それにしても旦那、もう本当に勝手に忍び小屋には入らないでよね!」
「う、ああ……」
「ま、痛い目見たから当分は入らない、か」
「そうだな」
「まったくもう、禁忌を破るから大変な目にあうんだぜ?覚えときなよ」
「わかっていると言っておる。くどいぞ」

ムッと頬を膨らます幸村を佐助は胸の中に抱き込んだ。
そして耳元に唇を寄せると、息を吹き込むようにそっと囁く。

「でも、媚薬に味をしめたってんなら話は別だぜ?
 いつでもここへきて、この戸棚に隠してあるあの薬を服用してもいいよ。俺様大歓迎」
「なぁっ!だ、誰が飲むかぁぁぁっ!!」

大声で吠える幸村を見て佐助は悪魔めいた笑い声を上げた。

――次からは佐助の戒めはちゃんと守ろう。
幸村は心の中でそう誓った。







--あとがき----------

本当はもっと最後まで鬼畜ネタの予定ですが、
思いがけず甘くなったという(笑)
なんか思い切りエロ書きたかったんですけど、不完全燃焼☆
今度こそはリベンジしたいです……