―緋の砂―





深紅の夕映えが畦道に座る二人を焼くように照らした。
細く延びた影を幸村は言葉なく見詰めていた。
さっき迄、他愛のない会話をしていた、
隣に座る政宗は夕焼け空をぼんやり眺めていた。
蒼眸を茜色が染め、何処か哀愁が漂うように見えた。
その横顔に胸が詰まり、立ち上がって帰る事も言葉を発する事も出来ずに
幸村はただ彼の動向を見守るしか出来なかった。

不意に政宗の手が幸村の手に重ねられた。
一回りは大きい厚みのある手に幸村はドキリとした。
政宗の手は以外と暖かだったが、
自分の手よりは冷やかく熱が彼の手に移っていった。

「アンタの手はどんな時でも熱いんだな」

残照を見ていた政宗が幸村の方を向いた。
いつも挑戦的な眸は穏やかな藍色をしていて、愛しいげに自分を見ていた。

腕が伸びてきて彼の胸の中へ抱き寄せられる。
鼓動が高鳴り、頬が熱くなった。
恥ずかしさで逃げ出したかったが、
伝わる政宗の体温に胸が詰まり幸村は目を閉じた。
戸惑いがちに彼の背中に腕を回し身体を預けた。

好きだと思った。
好敵手としてじゃない、人として愛していると改めて幸村は自覚した。

彼の頬を滑り落ちた雫が降り注ぐ。
顔を上げると彼の瞳から堕ちた涙が頬に落ちて滑っていった。
どんな顔をしているのか確認しようとしたが、視界が歪んで何も解らなかった。
自分の双眸からも、伝染したように涙が溢れていた。

透明感のある冷たい空気が抱き合う二人を包み込む。
空は深い蒼と紅がせめぎ合い、まるで自分達のようだと密かに幸村は思った。
吐息が空中に白く滲んで薄暮に落ちた。
やがて緋色は山際に吸い込まれて闇夜が迫りつつあった。
まだ星のない夜空を政宗が仰ぐ。幸村も上空へと視線を上げた。

「幸村、オレの方へ来い。甲斐もアンタもこのオレが守ってやる」
「それはなりませぬ、お館様が倒れたと言えど、
 甲斐はお館様の治められる国。
  国主は病に伏すお館様を差し置いてありえませぬ。
 お館様が回復なさるまで、某がなんとしてでも甲斐を守り抜きまする」
「だが、徳川も石田も強国だ。両国を敵に回せばどうなるか……わかるだろう?」
「解っておりまする。しかし、某には佐助もついております故」

猿飛佐助。その名を聞いた途端に政宗の表情が曇る。
瞳が蒼く輝き、瞳孔が鋭く縦になる。

「また、猿か―…。アンタ、アイツの事を……」

言い掛けて、政宗は言葉を飲み込んだ。
主従――それも、忍との恋など叶うどおりも無い。
だから、以前からアプローチしていたこの俺に抱かれたのだろうか。
もし他の誰かが幸村を誘っていたなら、幸村はその男にも身を委ねただろうか。
一瞬そんな自虐めいた考えが過ぎり、政宗は幸村を抱締める腕の力を強くした。

「政宗殿?怒っておられるのでしょうか?」

不安げに見上げて来る幸村に、政宗は弱い自分の妄想を嘲笑った。
柔らかな頬を包み込むと、覆う様にふっくらした桜色の唇を奪った。
唇を吸い上げると拙いながらも幸村が応じてくる。
それが愛おしくて、更に深く口付けを交わした。
名残惜し気に唇を離すと、政宗はまた幸村を胸の中に閉じ込める様に抱き寄せた。

「消えるな。このままオレの傍に居ろ、幸村―…」
「政宗殿……」

出逢ってから幾度となく交わした刃と重ねた身体を思い出して、
政宗は身体を震わせた。
響き合う魂と触れあう肌を思い出しては、胸が苦しくなった。
こうやって抱締めても抱締めても、
自分の信念を貫くべく離れて行く幸村を留めておくのは不可能だ。
解っていても、願ってしまう。自分と共に来て欲しいと。
そしてその言葉を口にする度に、崩れる願望。
石田三成に負けた日から、全てが遠ざかっていった。
“頂きの決戦にて”と約束した日は今はもう虚ろでしかない。
もう、互いを高め合う為に刃を交わしていたあの日は帰らない―…

どちらからともなく歩き出し、夜の雑踏に紛れた。
色街を彷徨い、一軒の宿に二人で雪崩れ込む。
余計な詮索などされない、お忍び用に用いられている宿だった。


障子を閉めると、敷かれた布団に雪崩れる様にして政宗は幸村を押し倒した。
胸元を大きく開き、真白な柔肌に噛み付くように唇を付ける。

「あぅっ……まさ、むねどのっ」

くすぐったげに身を捩る幸村の首筋を舌で責め立て、耳朶を食む。
びくんと足を跳ねさせる幸村の姿が愛おしかった。

「はぁっ、うっ……あぁっ」
「相変わらず感じやすいな、アンタは。乳首が勃って真っ赤になってるぜ」
「言わないで下され、恥かしいでござる」
「恥かしがんな。見せな。オレには全てを―…」
「あっ ああっ」

政宗は尖り出した幸村の乳首を含み、コリコリと甘噛みする。
敏感な幸村は腰を仰け反らせ、無防備に喉を晒していた。
切なげに眉根を寄せて喘ぐ幸村の声を聞きながら、もう片方の乳首を指でつまむと、
更に甲高い悲鳴があがって政宗を煽った。

「良い声だな、幸村。最高だぜ」
「あひっ、あぁっ 恥かしいでござる……っ」
「恥かしがんな。もっとアンタの声を聞かせな」
「ま、さむね、どの。もう、下されぇ」
「いいぜ、オレの七爪目、喰らいな!」

幸村の膝がしらを左右に割開き、政宗は細い腰を引き寄せた。
慣らしていないのに先走りが垂れて濡れた菊座に、自分の摩羅を擦り付けると
幸村は期待にぶるりと震えた。
熱い楔がズブズブとゆっくり中に入り込んでくる。

「あっ、まさむねどのっ、あぁぁっ はっ」
「くっ、熱いぜ幸村。アンタのナカ、キツくて熱くて最高だぜ」

政宗が激しく腰を打ちつける度に電撃にも似た快感が身体を走り抜け、
幸村は首を仰け反らせて喘ぎ声を漏らした。

「あっ あぁ うあっ」
「うっ、く……あっ、いいぜ幸村ぁっ」
「ああぁっ まさむねどのぉっ、もっと、激しく突いてくだされぇっ」

パンパンと肉がぶつかる音、結合部から上がるずちゅずちゅという卑猥な水音。
それに煽られて、幸村は快感に引き摺りこまれていく。
政宗に向かって腕を伸ばすと、腰を動かす事に集中していた政宗が
覆い被さって来た。
体温と鼓動が混ざり合い、融けていくような感覚。
政宗の首筋に腕を絡め、彼の唇に自分の唇を重ね舌を差し出した。
舌を絡めあい、唇を吸いあいながら二人は寄り激しく腰を揺らす。

「はぁぁぁっ、あぁっまさむねどのぉっ!!」
「ゆきむらぁっ」

白濁液を噴き上げて、幸村は意識を飛ばした。
政宗も同時に幸村のナカに熱い子種をぶちまけた。
気絶した幸村からズルリと一物を取り出すと、力の抜けた身体を抱き寄せる。

こうやって逢えるのも最後かもしれない。
自分が死ぬつもりはないが、いつも無茶ばかりする幸村はいつ
消えてしまっても可笑しくない。
甲斐の虎が倒れた今、ますますその危惧は募る。

「I love you……幸村」

朝になったら別れだ。互いの国、在るべき場所へと帰らなくてはならない。
いくら自分の元へ来いといっても、幸村は頑なに受け入れない。
一国の主ではない幸村なら、奥州に来る事も叶わぬ程のことではないのに。
ただ、幸村の武将としての矜持と固い忠義心がそれを赦さないのだろう。

ズキリと胸が痛む。肌を重ねるたびに、
彼の全ては、心までは手に入らないのだと、そう思い知る。
掴んだと思っても砂の様に指の隙間を零れ堕ちて手の中には留まらない。

「愛さなければ、きっとこんなに苦しくなかったんだろうな―…」

苦々しく呟いた言葉が静かな夜にぽつりと堕ちた。
日だまりの様に温かく、柔らかな身体を抱締めながら政宗は目を閉じた。

愛する前に戻れたら、きっと互いに刃を交えることに満足して、
どちらが負けたとしても、負けて死したとしても、
きっと少し淋しいだろうが、後悔も無いのだろう。

でも、あの頃は遠ざかってもう戻らない―…

眠る幸村の頬にそっと口付け、
彼を腕に抱いて政宗もそっと瞳を閉じて眠りに落ちた。






--あとがき----------

TMレボリューションの「緋の砂」はダテ→サナなイメージです。 というわけで、その歌詞を元に話しを書いてみました。