「散美華」





欲しいと思ったものは何をしてでも手に入れる。
天下も、国の安寧も、そして、愛する人も―…

己が書きつづる書面を眺めながら、政宗はニヤリと口の端を吊り上げた。
溜めこんだ政務そっちのけで手紙などを真剣に書く政宗に
小十郎は酷く呆れていたが、何も言わずに彼を黙って見ていた。
元来、彼は止めようが諌めようが自分がこうと決めてしまえば
言う事など聞く様な方では無い。
ならば、好きなようにさせておいて早く手紙を書き終えさせて、
さっさと政務にとりかかってもらった方がよほど効率的と思ったからだ。

一時間後、漸く政宗は筆を置いた。
墨が乾くのを待ち丁寧にそれを折り畳むと政宗はそれを小十郎に差し出した。

「Hey,小十郎。このletter忍にでも届けさせてくれ」
「はっ、畏まりました。して、宛先はどちらへ?」
「Oh,アイツだ。オレが好んで文を書く奴はこの世に一人。you see?」
「と、言いますとどなたでしょうか?小十郎には見当が付きませぬ」

見当が付かないと言うのは半分は嘘だった。おおよそは見当が付いている。
見目も性格も彼の好みの者と言えば、一人しか思いつかない。
熱心に文など書く程の執心になる者。
できれば自分の予想など外れていて欲しい。そう心から小十郎は願って、
あえて解らない振りをして政宗の口から答えを導き出そうとする。
聞かれるのを待っていたように、政宗はにやりと愉し気に唇の端を吊り上げた。

「決まってんだろ、真田幸村だ!OK?」

全然よくない。そう言い掛けた言葉を飲み込み、“御意”とだけ小十郎は答えた。
内心では簡単に頷いた己の身を密かに呪う。
小十郎の憂いなど露知らずという様子で、“頼んだぜ”と言うと政宗は休憩がてら庭に出た。
暫くは戻って来ないだろう。
小十郎はその間に、政宗が敵将である真田幸村に宛てた手紙を検閲した。
その顔が、青褪めたのは言うまでも無い。

(こんな内容の手紙を届けさせられる忍も哀れだ―…)

胃痛を感じて小十郎は大きく溜め息を吐く。
だが、主である政宗の頼みを背ける筈も無く、しょうがなく小十郎は文を忍に持たせた。
これを読んだ時の幸村を想像すると少し憐憫めいた感情さえ感じた。




すっかり辺りは秋らしくなって、紅葉が紅に染まっていた。
庭に散る紅葉を眺めながら幸村は佐助の作った団子を美味そうに食べていた。

「よい天気だな、佐助」
「ホントだね〜。戦もしばらく無くて平穏だしね」
「おう。こうしてお前と喰う団子は一段と美味いな」
「ありがと、旦那が美味しそうに食べてくれて俺様も幸せだよ」

幸村と佐助はのんびりと庭を眺めた。
だが、佐助は何かの気配に近付いたのか急に立ち上がり空へ飛んだ。
再び幸村の隣りに着地した佐助は、手に何かを持っていた。
それは、文の結びつけられた一本の矢だった。

「佐助、曲者か?」
「うん、そうみたい。それもあれは奥州の手の者だよ」
「ということは、奥州の伊逹政宗殿、だな……」
「そうだね。手紙、読む?」
「ああ、読む。果し状ならば受けて立とうぞ!」

勇んで幸村は文を拡げた。そして、その内容を目にしてある意味驚愕した。

「……これは、いったい」
「旦那……」

佐助と幸村は唖然とした顔で見詰めあった。
手紙にはこう記してあった。

『久しぶりだな、my,Hunny!真田幸村。
 調子はどうだ?アンタの戦での活躍を聞く度オレも胸が躍る。
 アンタの槍裁き、熱い炎。そして、
 棚引く綺麗な長い髪、凛としながらも可愛らしいアンタの瞳。
 細い腰も、均整のとれたその身体のどれもがオレの七爪目を燃え上がらせる。
 この間閨ではアンタの事を想いながら自慰に耽った。
 アンタの姿を想い浮かべるだけでオレのマグナムは興奮して暴れたぜ。
 刃を交えるのも最高だが、一度アンタを抱きたい。
 アンタを押し倒してKissして、肌に触れて―…今度奥州へ来な。
 いかにオレがアンタにfalling loveか身をもって解らせてやる。
 アンタは普段どんな下着を穿いてる?やっぱり赤か?
 それとも白か?以外にも黒だったりするのかもな。
 いや、実はノーフンだったりするのか?
 あの腰のラインが剥き出しの戦装束だと下帯が見えちまいそうだからな。
 あの装束をオレの前以外でも来ているかと思うと嫉妬に狂いそうだ。
 オレ以外の前ではもうちっと防備してくれねぇか。オレは嫉妬深いんだぜ。
 奥州ではそっちよりも早く紅葉して一面アンタの色に染まってる
 紅にアンタの姿を思い浮かべる度に逢いたくなる。
 なあ、今度会えないか?奥州に来いよ。アンタを抱締めたい、
 アンタの体温や匂いを肌で感じたい。
 オレの物になれ、真田幸村。可愛がってやるし、宝の様に大切にする』

全部読み切った幸村は眩暈を覚えた。
破廉恥かつ意味不明な文章の意図を計りかねて幸村は頭を抱える。

「大丈夫?旦那」
「う…うむ。大事ない。だが、伊逹殿が何を申したいのか解らぬ」
「解んないの?本当に?」
「ああ」

本気で何も解っていなさそうな幸村に佐助は溜め息を吐いた。
この手紙の内容は少々ぶっ飛んでいて気持ちは悪いが明らかに恋文だ。
敵国の国主に惚れられるなど、しかもあんな気違い染みた男に目をつけられる
なんて本当に最悪だ。
幸村は性格はムサくて暑苦しいが、天然っぽい所や純粋な所があって可愛いし、
何よりも見目麗しく愛らしいからいつかこんな日が来るんじゃないかと
弁丸と呼ばれていた幼い頃より心配していたが、こんなにも早く虫が涌くとは―…

「ね、旦那。アンタ見目が良いからもうちょっと気を付けなさいよ?
 自分の振る舞いには責任を持たないと」
「見目が良いのは佐助だろう?俺のどこが見目が良いんだ?」
「いやいや、アンタそうとう上玉だよ?俺様も確かに美形だけど、
 アンタの方がずっと綺麗だって。自覚もとうね。
 そんな可愛い顔でついうっかり微笑んだりするから独眼竜も誤解したんじゃない?
 アンタ、アイツと戦う時嬉しそうな顔してたもんね。あの表情は男を誑かす表情だよ」
「なっ!強い相手と間見えたら嬉しくて笑みが零れるのは当然だ。
 男を誑かそうとなど思ってないぞ!神聖な勝負の場にそのような破廉恥な思いはあらぬ!」
「ハイハイ、アンタになくとも向こうさんは勝手に誑かされちゃうものなの。
 アンタは天性の人たらしなんだから、注意しないとあっという間に虫にたかられるよ?」
「人を腐った死肉みたいに言うな!失礼だぞ佐助。虫など沸いておらぬわ」
「物のたとえだよ。いちいち間に受けないの!
 ともかくあの男には注意しなよ?勝負を持ち出されても勝手に一人で行かない事!
 いい?忠告するよ。あの男はアンタと違って汚い真似をする男だよ。
 アンタなんて簡単に騙されて言い包められちゃうからね。いい?気をつけてよ!」
「あいわかった。気をつける」

二つ返事で頷いた幸村に、佐助は深い溜め息を吐く。
幸村は言いつけや規則は守るイイ子だが、自分でこうと決めたら絶対に曲げない。
その上、多少騙されやすい節も有る。お人好しなのだ。
そこは幸村の良い所だが、心配な点でもある。
人を信じ過ぎるのだ。だから、自分のようなイカれた忍を傍に置いてしまう。


(何にも起きないといいんだけど―…)

佐助は憂いの滲んだ瞳で空を仰いだ。
そんな佐助の気持ちも知らず、幸村は呑気に団子を食っていた。



それから数日後、また伊逹政宗から手紙が届いた。
紅葉真っ盛りの秋の事だった。

暫く戦も無く穏やかな時を過ごしていた幸村は、手紙の内容に胸が躍った。
以前届いた、不気味な変態じみた手紙ではなく、
今度は正式に手合わせを願い出る内容だった。
概ねの内容は二人きりで誰にも邪魔されず手合わせがしたい。
一人で初めてあったあの場所へ来てくれ。そういう文面だった。
運よく佐助は今、信玄の命で少し外へ出ている。
佐助と同じくらい目聡い霧隠才蔵も任務に出掛けている。
今日自分の警備に当たっているのは十勇士の中でも一番年若い、穴山小助だ。
彼ならまだ自分でも巻いて逃げることが可能だ。
幸村は戦装束では目立つので稽古用の袴と道着に着替えて、
朱槍を入れた葛籠と稽古用の棒切を愛馬の月影に括りつけて外へ飛び出した。


芒が寂しげに揺れる草原を駈け抜け、幸村は馬を下りた。
其処には政宗の姿がある。
彼も御忍びらしく白い着物に袴姿だった。

「Hey真田!久しぶりだな。相変わらずcuteだな」
「きゅうと?どういう意味でござるか」
「Aha……いや、何でもねぇよ。逢いたかったぜ、真田幸村!」
「某も貴殿と戦いとうござった、伊逹政宗殿。さあ、早く刃を交えましょうぞ」
「Hum,オレとしちゃあ下の刃をブっこみたい所だが、まあ、それはまた後だな……」
「どうかなされたのか?伊逹殿」
「No problm,こっちの話しさ。真剣交える訳にはいかねーから、
 手合わせって事で木刀でいいな。アンタ、練習用の槍とかあるか?」
「勿論そちらも用意して来ました。では、さっそく手合わせを」

興奮気味の幸村に苦笑を浮かべつつも、政宗の瞳もぎらりとした光を灯した。
血に飢えた獣のような瞳で見詰めあい、血を滾らせる。
静かな風が草叢を揺らすと同時に、二人は互いの懐へ踏み込んだ。
刃ではなく木だが、交えるとそれだけで身体中が昂ぶった。

(独眼竜、伊逹政宗―…やはり、強うござる!)

幸村の瞳がまっすぐ政宗を映しだす。
同じ様に、政宗の蒼い瞳には幸村の姿が映し出されていた。
この世に二人だけになったように、二人は何もかもを忘れて剣を交えた。
一刻をとうに過ぎた頃、二人は互いの喉元に切っ先を向け合い、
引き分けで稽古勝負を終えた。

大きく息を吐くと、幸村は警戒心と荒ぶる心を解いて柔らかく笑った。

「伊逹殿、流石の太刀筋にござった。よき、稽古となり申した」
「Ha!アンタこそ最高だったぜ、真田幸村」

肩で息をしながら、幸村は笑い声を上げる。
激しい動きで幸村の胸元は肌蹴け、真白い胸が上下しているのが見えた。
雪国育ちの政宗よりも、幸村の肌は遥かに白い。
太陽のイメージが強い彼だからその肌の色は焼けているかと思っていたが、
よくよく見ると彼の肌は血行が良く桃色がかってはいるがかなり白かった。
政宗は気付かれない様にゴクリと唾を飲んだ。
そんな己の気を全く知らずに、幸村は酷く無防備だった。

「喉、乾いただろ?アンタ、水筒持って来てなさそうだったから
 オレが二つ用意して来てやったぜ。よかったら飲みな。オレが淹れた茶だぜ」
「おおっ!かたじけのうござる」

何の疑いも無く政宗の手から竹筒を受け取ると、喉を鳴らしながら幸村は茶を飲み込んだ。
上下する喉に喰らいつきたくなる衝動を抑えながら、
政宗はじっとその様子を眺めていた。

「ありがとうございまする、伊逹殿」
「礼には及ばねぇよ」
「もう日が暮れそうでござるな。手合わせも叶ったし某はそろそろ帰りまする」
「Waiting!そうはさせないぜ、真田幸村」

不敵に政宗は唇の端を吊り上げて幸村を見た。さっきよりも獰猛な瞳に幸村は少々臆する。
思わず政宗から逃れる様に後ずさりした瞬間、くらりと眩暈がした。
嫌な予感がした時には遅かった。
身体に痺れが走り、幸村は地面に崩れ落ちていた。

「な、これは……だ、てどの?」
「心配すんな。毒じゃあねぇ。ただの痺れ薬さ。ごく軽いヤツだ」
「痺れ薬だ、と?な、何故そのような―…」
「安心しな。アンタを奥州に連れて帰って手土産にする気はねぇし、
 ましてやこのまま首を討とうとも思ってねぇ。ただ、アンタに触れてみたかったんだ」

そう言うと政宗は幸村の上に馬乗りになり、汗の流れる首筋にぬるりと舌を這わせた。

「ひぁっ、…な、なにをなさるっ!?」

もともと大きい目を更に見開く幸村に、政宗は愉快そうに顔を歪めた。
汗を嘗めとりながら、くっきりと浮かんだ鎖骨を舌でなぞる。
むず痒いようなゾクリとするような感覚に翻弄され、幸村は腰をピクリと動かした。

「おっ、おやめくだされっ!こ、このような真似、破廉恥でござる!」
「アンタ思った通りウブな奴だな。Ha!いいね、いいねぇ愉しくなってきやがった!」
「なぁっ、愉しくなどありませぬっ!お離し下されぇっ!」

慌てて自由の効かない身体で抵抗しようとする幸村の手首を掴むと、
政宗は地面に押し付けて無理やり唇を奪った。

「んんんぅっ!?んんっ、ふぅぁっ!」

驚いて叫ぼうとした瞬間を狙って、政宗は幸村の口腔に舌を滑り込ませた。
柔らかな舌を突き、吸い上げると幸村はびくっと震えて瞳をキュッと閉じた。
沸き起こる妙な感覚に必死に耐える幸村の姿は愛らしく、政宗はますます責め立てたくなる。
唾液を絡ませながら、ディープキスを繰り返すと
押さえ付けていた手をピクンと痙攣させ、幸村は仰け反った。

「ふぅっ、…あふぅっ、あっ」

色めいた声を上げ始めた幸村に、政宗はほくそ笑んだ。
キスには自信がある。熟練の花魁さえも自分のキスに翻弄されてうっとりさせられる程だ。
ど素人の幸村ならば、恐らく抵抗力を削がれて腰さえ抜かすだろう。

その目論み通り、幸村の強い瞳は胡乱として焦点が定まってない。
快感の所為もあるだろうが、呼吸もままなっていない様子だった。
政宗が唇を離した途端、幸村は激しくせき込み始めた。

「ゲホッ、ゴホゴホッ、うぐっ、ごほっ」
「オイオイ、息しねぇと死んじまうぞ幸村」
「なっ、せっ、接吻など、破廉恥でござるぅぅぅっ!!!」
「こんくれぇで根を上げてたら後がもたないぜ?」
「こ、これ以上まだ何かするつもりでござるかっ?」
「これ以上ッて、まだ何もしてねーだろ。ククッ」

接吻しといて何が“まだ何もしてないだろ”だ、と幸村は眉を引き攣らせた。
逃げようにも身体は完全に麻痺していう事を聞かない。
馬乗りの政宗を突き飛ばす事はおろか、指一本させも動かなかった。

(佐助の目を盗んで無断で伊逹殿に会った挙句にこの体たらくとは……
 ぜったい佐助に怒られる。いや、それどころか愛想を尽かされるかも知れぬ……)

幸村のこめかみを汗が伝い落ちる。
焦りを浮かべる幸村を政宗の獰猛な瞳が見詰めていた。

「オレに身を委ねて楽にしてな、溺れちまえばいい」

にやりと笑うと、政宗の手が胸元に滑り込んで来た。
汗ばんだ肌を分厚い節だった手が撫でる。
その手が胸の飾りに伸びてきて、きゅっと突起を抓るように摘まんだ。

「ふぁっ!?いっ、つぅっ……!」
「Very cute!イイ反応だな、真田」
「いあぁっ、あくっ、止めて下されっ!」

くりくりと乳首を弄られて幸村は悲鳴を上げた。
首を反らして喉が無防備に晒される。堪らず政宗が喉笛に歯を立てると、
とって喰われるとでも思ったのか怯える様に肩が飛び上がった。
顔にも一瞬怯えが浮かんだが、すぐに掻き消され
鋭い射抜く様な瞳が政宗に向けられる。

「戯れはやめよ、伊逹殿!」
「ヒュゥッ♪いいね、その目。そうだ、そんな目のアンタがオレを熱くさせる!」

さっきよりも激しく乳首を摘ままれ、幸村が嬌声を上げた。
電撃のようなものが幸村の背を走り抜ける。
執拗に乳首を弄り回されて、不覚にも下肢が熱くなるのを感じた。
それに気付いた政宗は足の裏で幸村の股間をぐりっと踏みにじった。
堪らず幸村は「うあ゛っ」と濁った声を上げた。

「Sorry,ちっとばかし乱暴に踏んづけすぎたな。これはどうだ?」

ニヤリと口の端を吊り上げると、政宗はやわやわと揉みこむように幸村の摩羅を
優しく踏んだ。たまらず幸村は喘ぎ声を上げる。

「気持ち良さそうだな、真田」

幸村の袴に手を掛けると、政宗は一気にそれをしたにずり下げた。
情けなくも下帯だけの下半身を外で晒させられ、幸村は羞恥心に頬を染めた。
しかも、下帯に包まれた摩羅は乳首への刺激とさっきの政宗の足コキで
すっかり勃起し、白い布を押し上げる不格好な形になっている。

「Hum,いい状態じゃねぇか。感じやすいんだな」
「なぁっ、ちがっ!み、見ないで下されぇっ!!」
「オイオイ、そんな大声で叫ぶと人が来るかも知れねぇぜ。いいのか?」
「く……っ!」

政宗は褌の紐を解くと、幸村の恥部を露わにした。
すでに先走りでねっとりと湿った下着を幸村に見せ付け、政宗は悪魔めいた笑みを浮かべる。

「そんなに良かったか?真田。ぐっしょり濡れてやがるぜ、アンタの褌」
「か、返して下されっ!」

麻痺している身体を無理やりゆすり着物で股間を隠しながら、幸村は更に強い瞳で政宗を睨んだ。
幸村自身は威嚇しているつもりだったが、涙に滲んだ大きな瞳で睨まれても
ただ逆効果なだけで、余計に政宗は加虐心を煽られる。
政宗は舌舐めずりをすると、自分の指を幸村の口の中に突っ込んだ。

「ふぐっ、うぅ……げほっ!」

柔らかな舌を容赦なくグニグニと押し潰し、
異物を吐き出そうと反射的に溢れる幸村の涎を自分の指に絡めた。
充分に指が湿ったらずるりと指を取り出し、
苦しくて咽る幸村の足を大きく開かせた。
足を掴んで秘部を露わにすると、小さな蕾に唾液の絡んだ指を突き立てた。

「ひぐぅっ!あ、痛ぅっ」
「狭そうだな。抵抗しねぇでとっとと呑み込みな」
「やぁっ、あぐぅ」

狭い孔をこじ開ける様に侵入して来る指を拒むように、
幸村の腸壁が蠕動運動をする。
それに逆らって政宗は節だった指を無理やり胎内に捩じ込んでいった。
圧迫感と痛みに幸村は目を閉じて、歯を食いしばった。
目尻には生理的な涙が滲み、顔は青褪めていた。
このままでは不味いと、幸村は恐怖した。
佐助の忠告をもっとしっかり噛みしめて聞いておくのだったと後悔した。
これが忠告を軽視した罰ならばあまりに酷過ぎる。
痛みは平気だが、恥ずかしめを受けるのは慣れていない幸村にとって、
好敵手と認めた相手に身体を暴かれるのはあまりに辛かった。

涙を滲ませる幸村にお構いなく、政宗の指は幸村のナカを蠢く。
痛みと圧迫感が妙な疼きに変わり始めた。
食いしばった歯の隙間から甘ったるい声が漏れ始め、幸村は泣き出したくなった。

(佐助、助けてくれ―…)

心の中で大事な人の姿を思い浮かべた。
その刹那、周囲の空気に差すような殺気が走った。
空を凪いで何かが政宗の頭目掛けて飛んできた。
咄嗟に政宗はそれを躱したが、頬に赤い筋が一つできた。

「Shit!誰だっ!」

幸村から指を引き抜くと、政宗は木刀を構えた。
懐にあった脇挿しを近くの草むらに向かって投げつけると、其処から影が一つ飛び出した。
その影は政宗の前に距離を保って着地した。
大手裏剣を携えた忍装束の男――猿飛佐助だった。

「独眼竜、ウチの旦那から離れてくんない?」

飄々とした表情だったが、声は何処までも冷たかった。
政宗は短く舌打ちすると幸村から離れて馬に飛び乗った。

「まったく、主のケツの番もテメェの役目か?猿」
「まあね。俺様って優秀だからね。何でもござれってとこかね」
「Ha!ご苦労なこった。個人的にやっているかと思ったんだがな」
「……旦那への狼藉を見過ごしちゃ忍の腕が廃るってね。
 そういうアンタこそさ、敵国の武将に手を出すなんてやり過ぎじゃないの?」
「奥州筆頭としてじゃねぇ、一人の男としてだ。文句ねーだろ」
「あ、そう。ま、好いた惚れたは自由だけどね、相手の同意もなしは不味いんじゃないの?」
「Ya-Haha……!ずいぶんと殊勝な意見だなぁ、猿。
 欲しい物は力尽くでも手に入れるのがオレのやり方だぜ?
 でもまあ、テメェの乱入で興が冷めた。今回だけは引いてやる。
 こいつぁ戦利品としてもらっとくぜ、真田幸村。」

まだ幸村の温度と体液の付いた白い褌を政宗が掲げた。
幸村は“汚い下着などもって帰ってどうするんだろうと”唖然とする。
佐助は怒りに滲んだ顔でそれを取り返そうとしたが、
政宗が馬に積んでいた六爪の柄に触れ、殺気を立ち昇らせたのでその場に留まった。
政宗はギロリと佐助を睨んだ。佐助も冷たい視線を彼に寄越す。
「忍風情が」去り際に佐助にだけ聞こえる様にそう呟くと、
政宗は何事も無かったように「じゃあな、真田幸村。また会おうぜ!」と笑って去った。
その背中が完全に見えなくなると、佐助は地面にぐったりと倒れる幸村の傍に屈みこんだ。
鋭い萌黄色の瞳に睨みつけられ、幸村はびくっと肩を飛び上がらせた。
叱られた子供のように泣き出しそうな顔をして、弱々しい声で幸村は謝る。

「す、すまぬ、佐助……。このような、失態を……お、俺は」
「は〜、もう、何泣き出しそうな顔してんの?」
「う、だって、佐助が怒っているから」
「怒るに決まってるでしょ」
「うう、面目次第もない。俺が浅はかだった。
 しかも、このような醜態を晒して、さぞや腑抜けな主と嘆いただろう?」

まだ麻痺状態が解けきらずに脱がされた袴も穿けず、
身を捩って着物の裾で局部だけ隠した状態で、シュンと俯いた。
佐助は大袈裟に肩を竦めて溜め息を漏らす。
すると、幸村は更に怯えた顔をして肩をいからせた。

「旦那……」

幸村の気持ちを解す様に優しく囁きかけると、
佐助は手ぬぐいで幸村の下半身を綺麗にして、ぎゅっと幸村を抱締めた。
温かな腕と優しい声音にほっとして、幸村の肩から力が抜ける。

「ごめんね旦那。旦那には怒ってるんじゃないんだ。
 そりゃまあ、政宗の呼び出しに応じたのはちょっと軽率だと思ったけど、
 旦那のその素直な性格じゃ、好敵手の言葉を疑ったりしないよね。」
 俺様、旦那の純粋な所が好きだから、それはいいんだよ。
 でも、それを利用して、しかも旦那を無理やり手篭にしようとしたあの男は
 絶対に許せない。よかったよ、間に合って。
 もう少し来るのが遅かったら、アンタはもっと傷付いていた。穢されていた。
 でも、本当は触れさせたくなかったんだ。俺様の大事な主に―…」

ぎゅっとさらに強い力で抱締められた。応える様に幸村は佐助の背に手を廻す。

「俺も、お前以外の者に触れられるのは御免だ、佐助」

じっと強請るような目で幸村に見上げられ、佐助は柔らかな頬に触れた。
そのまま幸村のふっくらした桜色の唇に自分の唇を重ねる。

「んっ…ふぁっ」
「だん、な……」

政宗とは違う舌遣いで、佐助は幸村の舌を絡めた。
幸村も佐助の長い舌に自分の舌を絡めて、吸いあう。
それだけで、肛門に指を突っ込まれたショックで萎えてた雄が固くなった。
佐助自身も同じ様に反応し、固く熱くなっていた。
それを知らしめる様に幸村の太腿の間に自分の足を割入れ、ぐっと腰を押し当てる。
たがいの昂ぶりを感じながら、二人は長い接吻を交わした。

「ふっ…う」

離れた唇を銀糸が繋ぎ、緩やかな弧を描いて堕ちた。
上気した幸村の頬と潤んだ瞳に苦笑を浮かべ、
佐助は脱がされた袴を着つけてやると華奢な身体を抱き上げた。

「早く帰ろう、旦那。もう我慢できないでしょ?」
「う゛っ!は、破廉恥なッ!」
「破廉恥なのは旦那もだろ?俺様も我慢できないし、おあいこだぜ」
「うぅぅっ、帰ったらすぐに閨に行く。お前も上がれ……」
「了解しましたっと、んじゃ、早く帰らなくちゃね」

愉しそうに口笛を吹きながら、佐助は幸村を抱いて馬をかった。
しがみついてくる幸村の体温が愛おしい。
誰の手にも触れさせたくない、守りたいと佐助は強くそう思った。

(褌、取り返したかったな―…)

ふと、政宗に奪い去られた褌を想い浮かべて佐助は少し憂鬱になる。
どうせ碌でもないことに使うに決まっている。
何に使うか想像するだけで、腸が煮える感覚に焼かれた。
そんな佐助の心は露知らず、幸村は安心したのか寝息を立てていた。

屋敷に帰る途中、南蛮の宗教を崇める寺―教会、と言われていた場所を通りかかった。
そこからは、聞き慣れない言葉の妙に神々しい高い声で紡がれる歌が響いた。
讃美歌、そう呼ばれる歌だと聞いた気がした。
嫌いだ。この仰々しい歌も、あの南蛮かぶれの男も―…
一番大切な華を汚そうとしている、摘もうとしている者は全て排除する。
馬を走らせながら、佐助は密かに心にそう誓いを立てた。





--あとがき----------

タイトルは“さんびか”です。
まだ幸村と政宗があったばかりの頃。ゲームの2を思い出しながら描いた作品です。
政宗、幸村に対しては全然クールじゃないですよね。むしろパッション!
政宗の暴走を諌める小十郎を、「この先にアイツがいるんだぜ!小十郎!」と
意味不明な持論で一蹴りした素晴らしいゾッコンぶりが素敵です!
そんな政宗を思い出しながら書いた、政宗がストーカー的なお話です。
私は、こんな暴走気味でドキュンでハァハァした政宗が大好きです。
野性味あふれる感じが最高だと思います!