「亡霊の夜」






10月31日の夜には、死者が訪ねてくるという。
それから身を守るため、焚き火を燃やし仮面で変装をするのが、
ケルト人の慣わしだった。

それがいつしかハロウィンと呼ばれ、
ジャックオランタンを飾り、仮装した子供がお菓子を貰う為に
人々の家を訪ねるという、宗教性のない、ただの行事となった。



「なーにがトリックオアトリートだよ」

人一倍霊感があるにも関わらず、幽霊の類が大の苦手な銀時は、
町を徘徊する化け物、もといコスプレ集団に毒吐く。
魔女に狼男の正統派なものから、赤ずきんちゃんや白雪姫など、
どこがハロウィンだとつっこみたくなるようなヤツもいる。

どこもかしこもハロウィンに乗じて商売しようと、
八百屋では店頭にカボチャの山、ケーキ屋ではパンプキンプリンやパイ、
雑貨屋では簡単変装グッズなどが大々的に取り上げられている。

「いいなー。銀ちゃん、私も仮装したいアル!」

隣りを歩く神楽が、羨ましそうに仮装した人を見ている。
金が無い銀時にとっては、購買意欲を刺激するような
商品ばかりの街は、毒にしかならない。

「仮装してぇなら、段ボールでも被ってろ。
 あ、お前の格好なら帽子かぶって札でも付けときゃ
 キョンシーに見えるんじゃね?それで十分だっつーの」
「銀ちゃんのケチー」
「うるせーよ!」
「じゃあせめて、カボチャの提灯作ってヨ」
「カボチャは食いもんだ、玩具じゃねーの。
 それに、めんどくせーだろーが。百歩譲ってカボチャ使っても
 いいとして、自分で創れよ」
「アタシには無理アル。ね〜銀ちゃん!」
「知るかっ!」

一日中さんざん神楽に耳元で「ハロウィン」とごねられて、
銀時の機嫌はそこそこに悪かった。
新八が妙の誘いで神楽を今晩ハロウィンパーティに連れ出してくれて、
漸く解放された銀時はソファに踏ん反り返る。

「ここは日本だっつーの。ハロウィンとか関係ねーよ」

ムスリとした顔で銀時が言うと、新八は意地悪な笑みを浮かべる。

「神楽ちゃんにお菓子をねだられたり、
カボチャのランプを作らされるのが面倒だからって、
ハロウィンを馬鹿にしてると、怒った幽霊が訪ねて来ちゃいますよ。
ジャックオランタンくらい用意したらどうですか?銀さん」
「ばっきゃやろー!誰が乗せられるかって」
「はいはいそうですか。じゃあ今夜は幽霊に気をつけて下さいね」

笑いながら、新八は去っていった。
家に一人となると、静けさの所為か急に心細くなる。

「ゆ、幽霊なんて来るわけねーだろ、は、ははは」

馬鹿にしながらも、恐怖心が拭えず、銀時はガタガタ震えた。
玄関の鍵を締めると、直ぐさま布団に潜り込む。

外はひゅうひゅうと吹き、木々が揺れて不気味な雰囲気を醸している。
こんな日はさっさと寝るに限る。
普段夜更かしな銀時だが、十時にならない内に目を閉じた。

コンコンコン

誰かが玄関の扉を叩く音がする。
音で目を覚ました銀時は、起こされた事にイライラしながら、
枕元の時計を見る。

時刻は11時55分。こんな時間に一体誰だろうか。
迷惑な奴だと、布団を被り無視を決め込む。

するとまた、ドアを叩く音が聞こえてきた。
音は鳴りやまない。
いつまでも、いつまでも聞こえてくる。

「つか、こんな時間に可笑しくね?
新聞も集金も宅配もこんな時間に来ねえだろ。
神楽は泊まるっつってたし、ババアや長谷川さんやヅラが
訪ねてきたなら、一言くれえ声掛けんだろ」

ふと、新八の言った事が脳裡を過る。
ちゃんと魔除けの火を燃やさないと、魔物がやってくる。
そんな事を言っていた。

「ナイナイナイナイ!ぜってーないっ!」

無理に笑いながら、米神を冷や汗が流れるのを止められなかった。
まさか、本当に幽霊だろうか。
過った不安を掻き消すように、無理やり口の端を吊り上げる。

「あ、わかった。神楽や妙がお化けの格好をして
 俺のことを驚かしにきたに違いねぇ!そうだ、ぜってーそうだ!」

布団から這い出ると、銀時は勇み足で玄関へ向かった。
またコンコンと扉を叩く音がする。

「おい、神楽だろ!コンコンコンコンうるせーよ!」

ドアを開ける前に声をかけるが、シンとして返事は無い。
玄関のカギを開け、思い切って扉を開けた。
扉の向こうの真っ闇には、黒い毛色の全身がフサフサして、
獣の耳が生えた男が立っていた。
うすら寒い笑みを浮かべる口には、牙が覗いている。

「ひぃっ、ば、化け物〜っっ!!」

銀時は叫び声を上げ、尻餅をついた。
途端にクツクツと嗤い声が上がる。聞き覚えのある声だった。
落ち着いて玄関先に立つ男を見上げる。
その顔は、良く見知った顔だった。

「た、たか、すぎ?」
「クククッ、間抜けヅラ晒しやがって。なあ、銀時」
「て、テメー、その格好……」

高杉は無遠慮に家に入って来ると、尻餅をついたままの
格好の銀時の前にしゃがみ込み、身体を足の間に滑り込ませてきた。
筋肉質だが細長い腕がするりと首に纏わり付く。
唇が触れるほど顔を寄せ、高杉は妖艶な笑みを浮かべて囁いた。

「Trick or treat」
「へ……?」
「どうする、銀時。悪さをしてやろうか?」
「ちょっ、待てって!そういうの子供の特権だから。
 テメーみてーな良い年こいた大人のすることじゃねぇよ!」
「俺ぁ、お前いわく中二なんだろ?だったら子供だ」
「なっ、セコッ。何その理論。いや、ねぇっだろ!」
「有りだ。俺が決めた。さあ、どうする?」

自分勝手にも子供を演じて、高杉が嗤う。
その表情は子供の笑顔なんかじゃない、淫靡な大人の笑みだ。
そんなエロいツラのガキがいるかと内心叫びつつ、
表情から高杉が何を言っても、聞かないのは解っていた。

「……菓子なんて、ねぇよ」

不貞腐れた顔で銀時がそう言うと、高杉はにっと笑みを深くする。
首筋に噛み付くと、満足げな声で「じゃあ、悪戯だな」と言った。

そのまま玄関先で押し倒された。
唇に、柔らかい高杉の唇が重ねられる。
侵入してきた舌が口中を弄りながら、高杉の手が自分の股間に伸びた。

悪戯と言う割には、自分にとって美味しい状況だ。
高杉は滅多に自分からキスなんざしてこないし、
媚びたような態度も取らない。
その彼が、自分から奉仕してくれるなんて、ある意味ラッキーだ。

そんな風に期待していたら、突然強い力でぎゅっと股間を握られて、
思わず悲鳴を上げてしまった。
その声に、高杉はにやにやと笑う。

「気持ち良くしてもらえると思うなよ、銀時。言っただろう、悪戯するってな」
「ってぇ、だからって、握り潰そうとすんなよ!」
「ククッ、いいねぇ。Sのてめぇがザマァねぇな」

上機嫌で、高杉が自分の肉棒を握り込む。
巧妙な手遣いで昇りつめさせられたと思えば、ゆるゆるとした刺激しか
与えてこない。
いかさず殺さず的な状況に、銀時は焦れた。
その表情に、高杉の瞳が満足げに細められる。

それにしても、あの高杉が狼男のコスプレなんてレアだ。
祭り好きな奴ではあるが、自分は破目を外さず、
賑やかな喧騒を遠巻きで静かに酒でも飲みながら楽しんでいるタイプだ。
その高杉がこんなふざけた格好をするなんて、かなり驚きだった。

黒のタンクトップに、ピチピチしたズボン。
腕はフサフサしたファーのアームカバーに覆われ、
足も同じくファーのレグウォーマーを付けている。
尻にはふっさふさの尻尾がぶら下がっていた。
そして頭には可愛らしい犬耳。
テロリストの突然の訪問に驚いてその全貌を見る余裕がなかったが、
よく見れば、かなり萌えなファッションだ。

その姿を見ていると、急にムラムラしてきた。
受け身でいることに耐えられなくなり、
銀時はいきなり高杉の手首を掴む。
そのまま、高杉の身体を引き倒して床に押し倒した。

「っ!?」

油断していて唐突なアクションについてこれなかったのか、
高杉は簡単に押し倒された。
少し驚いた緑の瞳が見上げてくる。

「形勢逆転だな、高杉」
「ふっ、そのようだな。どうする?銀時」
「悪戯すんに決まってんだろ?」

尻の形が丸わかりのエロいパツパツなズボン。
銀時は尻肉を鷲掴みにして、薄いその布越しに刺激した。

「ンッ」

もどかしいような快感に、高杉が眉を顰める。
着いている尻尾を引き抜くと、タンクトップを脱がせて、
胸や腰をそれで擽った。
素肌にフサフサした長い毛が触れて、高杉はびくんと身体を跳ねさせる。

「くはっ、……あっ、んんっ」
「おっ、イイ反応だな、高杉ぃ〜。そのツラ最高」
「う、るせっ、はぁっ、ひぅ!」

乳首の辺りを毛でなぞりあげると、高杉は一際大きく跳ねた。
次いで、脇の下の窪みを擽ると、笑い声の混じった淫靡な喘ぎ声をあげ、
高杉はしなやかな身体をビクつかせながら悶える。

「ふはっ、あぁっ、や、めっ……くぁっ!」

高杉の股間辺りが、キツそうになっていた。
相当感じているらしい。
そう言えば、昔からくすぐったがりな所があった事を思い出す。
高杉のズボンを下着ごとずり下げると、
鎌首を擡げて、先っぽからたらたらと透明な液体を零していた。

「うわっ、やらしー。ガマン汁垂れてら。淫乱晋ちゃん」

言葉で嬲ってやると、高杉は耳を赤くして鋭い瞳を向けてくる。
普段は冷たい刃物のような鋭さを持った瞳も、
今は熱に浮かされて蕩けていて、涙まで滲んでいる。
睨まれても怖いどころか、逆効果で嗜虐心を煽る一方だ。

「いい加減にしろっ!」

怒って暴れ出そうとする高杉の腹に座り、腕を拡げさせた状態で
足で腕を踏みつけ、逃げる事も抵抗する事もできないようにする。
その状態で、弱い部分を尻尾で責め立てた。
脇腹、腰、乳首を毛先で撫で続けていると、
自分の下で高杉の身体がジタバタと苦しげに暴れた。
開きっぱなしの口からは喘ぎ声と涎がとめどなく流れてる。

「あはぁっ、いぁっ やめろっ、ぎん、ときぃ」
「やめねぇよ。悪戯するっつったじゃん」
「くうっ、んんっ ふっ あはぁっ、死ぬっ!」
「おーおー、凶悪犯の高杉くんが
くすぐられて死ぬなんて、最高のネタじゃん、いいねぇ」
「うううぅぅっ、 はっ、いぁぁぁっぁっっ!」

ビクンビクンと高杉は身体を大きく痙攣させると、
精液を吹き上げてイッた。
さすがにこれ以上は可哀相だと、高杉から退いて解放してやる。
解放されても、暫く放心状態で高杉は宙を見ていた。
軽くほっぺを叩いて、意識を呼び戻してやる。

「おーい、高杉くーん。マジで死んじゃったのかな〜」

声を返ると、ハッと高杉の焦点が自分にあった。
見開いた目を細め、睨み殺しそうな勢いで高杉が見詰めてくる。

「てめっ、この馬鹿、鬼畜ヘンタイがっ!」
「変態は高杉くんでしょーが。くすぐられて射精とか、ウケるんだけど」
「くっ、このクソ外道が……っ」
「外道じゃねえ。ただのドSだ。Mなんだから丁度いいだろ?」
「勝手に俺をMにすんな」
「それより、俺も良くなりてぇな。挿れていい?」

ズボンを脱いでそそり勃った自分のムスコを見せると、
高杉はごくりと喉を鳴らした。
さっき責め立てられて喘いでいたのとは別人のように、
淫猥な顔をして舌なめずりをしてみせる。

「こいよ、銀時。今度は俺が可愛がってやるよ」
「へっ、吠えヅラかくんじゃねーぞ」

誘われるまま、高杉に覆い被さった。
慣らさずともすでにグズグズに熟れた入口に亀頭を宛てがい、
一気にナカを貫く。
絡み付いてくる熱をもった秘肉に、いきなりもっていかれそうになった。

「うはっ、くっ、ヤベェ、オマエんナカ、最高なんだけど」
「ククッ、まだいくなよ?これからだ」

今度は高杉に引き倒されて、馬乗りになられる。
主導権を握った高杉は、腰をくねらせて追い詰めてきた。
すぐに快感に導かれ、情けなくも射精してしまった。

「熱ぃ。てめーやけに早漏れじゃねぇか。中に出すなよ」
「ワリィ。淫乱なオマエ見てたら滾った。つか、久しぶりだし」
「でも、まだ萎えてねぇな?銀時」
「たりめーだ。これからなんだろ?」

煽ると、高杉が淫靡な笑みを浮かべた。
自分の上で喘ぎながら激しく腰を振る高杉に、
眼福だと喜びながらも、やられっぱなしは性に合わないので、
腰を掴んで抜けるギリギリまで浮かせ、また貫いてを繰り返した。
ジュブジュブと卑猥な音を立てながら、内壁を擦り、
固いしこりを突き上げると、強い快感に襲われた高杉が
獣のような意味をなさない呻きを上げて、精液を吐き出す。
それでもまだ、尽きるまで互いを貪り合い続けた。


気付くと、空が白み始めていた。
玄関先で二人で身体を寄せあって眠ってしまっていたようだ。

「つっ、腰が痛ぇ」

文句を言いながら高杉が目を覚ます。
離れて行こうとする身体を銀時は不意に抱き寄せた。
熱が離れて行く寒さに耐えられなかったからなのか、
高杉を引き止めたかったのかは自分でも判らなかった。

「朝だぜ、銀時。化け物は帰る時間だ」
「化け物、か。シャレになってねーよ、お前が言うと」

高杉の姿は美しい幽鬼に見えなくもない。
現実味のない、夢、もしくは闇の住人のような雰囲気を纏っている。
激しき抱き合った直後の今でさえ、その存在は確かじゃなかった。

「ハロウィンはしめーだ」

そう言うと、つれなく自分のことを振り解いて高杉が立ち上がる。
勝手に人の家に上がり込んで一枚着物を強奪すると、
自分の着ていた衣装を放ったまま高杉は玄関を開けた。

「一つ、言い忘れた。ハッピーハロウィン。銀時」

不敵に微笑んでそう言うと、高杉は去っていった。
意味が解らないと眉根を寄せ、銀時も起き上がる。

神楽が返ってくる前にこの惨状をなんとかしないとと、
高杉が脱ぎ散らかした衣服を拾いあつめた。
羽織って来ていたジャケットを持ち上げると、カサリと音がした。
不思議に思ってそのポケットに手を突っ込むと、
ラッピングされた包みが出てくる。
不思議に思って開けてみると、お化けをかたどった
カボチャのクッキーが出てきた。
メッセージカードには、糖尿病には気をつけろよ。と書いてあった。

「ったく、余計なお世話だっつーの!」

ひとりごちると、銀時は高杉の着ていた服を持って、
奥の自分の部屋へとひっこんでいった。
ハロウィンが引き寄せた魔物の残り香を嗅ぎ、目を細める。

床でやっていたのですっかり痛めてしまった腰を擦りながら、
来年は新八の言う通り、魔除けの炎を灯した方が
良さそうだと苦笑を浮かべた。






--あとがき----------

遅刻したけど、ハロウィンネタです。
狼男な高杉かわいいと思います。
ドラキュラなんかもかっこいいかも。
銀さんのドラキュラコス素敵でしたよね。