「春盛り」







うららかな日射しが降り注ぐ野原で、銀時と高杉は剣を交えていた。
出会って以来、二人は何度も交えてきた。
勝率は五分五分。勝っては負けての繰り返しだ。
いつもはクールな高杉は頬を上気させ、口許に薄らと笑みさえ浮かべている。
銀時も普段はやる気のない眠そうな瞳をぎらつかせ、獣の様な表情を浮かべていた。

飽きることなく、真剣勝負を繰り返す。
こうして闘っている時はお互いにいつだって高揚した。

「うおあぁぁぁっ!」
「はあぁぁぁぁっっ!」

咆哮を上げて、互いに渾身の一撃を放つ。
空気がビリビリと震え、桜の花がひらりひらりと散った。

衝撃で互いの剣が弾き飛ばされて、勝負は相打ちに終わった。
二人は仰向けに野原に倒れ込む。荒い息を整えるように深呼吸を繰り返した。

「暑ぃな。春の陽気どころか初夏の様だ」

着物を着崩しながら高杉は汗を拭った。
涼を取れそうな物はないかと辺りを見渡す。
流れの緩やかな小川を見つけると、そっちに向かっていった。
そしておもむろに自分の着物に手を掛ける。

「お、おいちょ……待て」

銀時は慌ててそれを止めようとした。

「なんだよ、銀時」

怪訝な顔で高杉は銀時を振り返る。

「あ、いやーその……」
「変な奴だな、はっきり言えよ」
「えっと、脱ぐのか?」
「はあ?脱がねぇと水浴びできねぇだろうが」

焦ったような表情の銀時を無視して、高杉は着物の帯を解いた。
相手が銀時とは言え、全裸を堂々晒すのは気が引けたので
銀時からは茂みで隠れている位置で、服を脱いで河に入った。

水高はちょうど腰くらいの位置だ。
水温はまだ大分と低いが、火照った身体には心地良かった。


銀時は少し離れた場所から高杉を見ていた。
目に焼き付くような白い肌。
ほっそりした項、筋肉で引き締まった折れそうな腰。
今年の夏に15歳になる、まだ大人になりきらない高杉の身体が
酷く目映く見えて、興奮した。

いつの間にか股間が熱を持ち始めて、着物の前が不自然に膨らんでいる。
高杉に見られたら、からかわれると、銀時は彼に背を向けた。
そんな自分の状態に気付いてない高杉が、河の中から声をかけてくる。

「何してるんだ銀時、お前も汗を掻いただろう?流したらどうだ?」
「えっ、いや俺はいい」
「何でだよ、こいよ」

自分の方を向いて手招きする高杉に銀時はクラリとした。
お望み通りそっちへ行って、押し倒してやろうか。
凶暴な思いが過って慌てて否定する。

高杉に欲情なんて有り得ない。
ボインでプリンな女のむちむちボディーでなく、
ただのどチビで痩せっぽちの貧相な身体に興奮する趣味は自分にはない。
顔は確かに女よりも美しく端正で、ちょっと可愛らしさもあって
昔から好みドストライクだったけど、性格は極めて男前で生意気で、
好きになる要素なんてない。
高杉の否定要素を並べるが、自分の股間は反応するばかりだった。



こちらを振り返って、頭をブンブン横に振り、
また背を向ける銀時に、高杉は首を傾げた。
銀時が挙動不信なのは今に始まった事ではないと、高杉は気にしない事にした。

顔を洗うと、水から上がって手拭いで軽く水気を拭き取ってから着物を纏う。

「待たせたな、銀時。帰るか」
「お、おう。そうだな」

ギクシャクした動きの銀時を変に思いつつも、あえて突っ込まずにいた。
銀時は黙って帰路を歩いていた。
自分を置き去りにするように、スタスタ早足で歩いていく。
だが、三歩前を歩いていた銀時が不意に足を止める。

「なあ、高杉」
「…なんだよ」
「暫くあんま俺の前で無防備になんなよ」
「はあ?何でだよ?」
「何でって、春だから」
「意味解んねーよ」
「解んなくていーんだよ。とにかく、肌とか晒すな」

まったくもって理解出来ない要求に高杉は首を捻った。
足を止めて不思議そうに銀時を見詰める。
銀時はフイと顔を逸らすと、そのまま先先と歩いて帰ってしまった。
変な奴。そう思ったが、気に止めはしなかった。

松陽の塾に戻ってからも、銀時は何となく様子が可笑しかった。
自分の事をじっと見詰めているかと思えば、目が合えば逃げるように目を逸らす。
桂には「お前らまたケンカでもしたのか?」と言われる始末だ。
このままじゃ松陽先生にまで喧嘩していると誤解されそうだ。
銀時はしょっちゅう喧嘩しているし、喧嘩していると思われるのはかまわないが、
いつもと違う銀時の様子に気付いているであろう松陽先生に、
普段しない様な喧嘩をしたと誤解されて、心配を掛けるのは嫌だ。

「しょうがねえな、銀時のやろう……」

癪だが、銀時と少し話をする必要がありそうだ。
高杉は風呂から上がると、そのまま銀時の寝室へと向かった。
“俺の前で無防備になるな”という銀時の言葉はすっかり忘れていた。
.
「おい、銀時!」

ノックもせずに扉を開く。
すでに布団に入っていた銀時がぎょっとした顔でこちらを見た。

「た、高杉っ。オマエ、こんな時間に何しに来たんだよ」
「話に来たんだ」

ずんずんと部屋に入ると、高杉は銀時の胸倉を掴む。
布団から引きずり出そうとすると、離せよ、と銀時が抵抗した。
その弾みで、高杉の着物の前が肌蹴て、白い肌と薄紅色の乳首がちらりと覗く。

「うっ……!」

気不味そうに、銀時は慌てて顔を逸らした。
だが、高杉はお構いなしで銀時に吐息が触れるくらい顔を近く寄せて、
暗緑色の瞳でじっと銀時を睨み上げた。

「なんかてめぇ、俺を避けてねえか?何でだ?」
「何でって、そりゃ、まあ……」
「はっきりしやがれ。可笑しな態度取りやがって、苛々すんだよ」
「もしはっきり言ったらオマエ引くぞ、多分」
「はあ?訳の分からねえこと言ってないで言えよ。引かねえから」
「何があっても引かないって約束しろよ」

念を押すように言う銀時に頷くと、銀時は溜息をついてから言った。
「オマエみてると、ムラムラすんだよ」と。

引かない。そう約束したばかりだったが、高杉は盛大に引いた。
ムラムラする?男の俺を見て?銀時は何を馬鹿なことを言っているんだろうか。

「本気で言ってんのか?」
「本気だぜ。証拠、みせてやろーか?」

ギラギラした紅色の瞳が見詰めてくる。まるで血に飢えた獣のようだ。
豹変に驚いて動けずにいると、銀時に腕を掴まれた。
驚く間もなく、あっという間に布団の上に引き倒されて組み敷かれる。

「っ、……なにすんだよ!」
「忠告してやったのに、聞かなかったオマエが悪い」
「なっ……んっ!」

銀時が首筋に噛み付いてきた。肉厚で自分のよりも大きな手が着物の
胸元から滑りこんでくる。
むにむにと胸を揉みほぐしながら、銀時の手が乳首を弄った。
途端に、身体を妙な感覚が走り抜ける。細い高杉の腰がビクリと撥ねた。

「ぁっ……ぅ、いやっ」
「感じてんのか?その顔、すげーエロいんですけど。煽ってんのか?」

ぐり、と銀時の手のひらが乳首を押し潰すように動く。
そのまま手のひらで刺激されていると、むず痒いような快感が襲ってきた。
首筋に吸いついた唇が鎖骨に降りてくる。
チュッ、と音をさせて皮膚を吸い上げられると甘い痛みが走った。
白い肌には赤い痕が刻みこまれた。

「ふっ……あ、やめろ、ぎんときっ。くすぐってぇ」
「嫌じゃねえだろ。乳首、勃ってんぞ。それに下も……」
「んぁっ!」

銀時に性器を握り込まれて、高杉はビクリとふるえた。
そのまま手を上下させて性器を刺激されると、高杉の唇から悲鳴に似た声が漏れる。

「アッ!や、だっ!やめろっ、いぁあっ!」
「うわ、我慢汁だらだら零してら。オマエ、敏感だよな」
「イッ、うぅ、ダメだっ 出るっ!」

びくんびくんと大きく身体を痙攣させると、高杉は白濁液を先端から吹いた。
人前で射精させられた高杉は、いつもの勝ち気な瞳を潤ませて泣き出しそうだった。
だが、その表情に余計に煽られて、銀時は理性に歯止めが利かなくなっていた。
羞恥心と涙を堪える高杉に銀時が覆い被さる。
銀時の重みに息がつまりそうな圧迫感を感じた。

「なんのつもりだっ、銀時っ!」

こんな時でも、気丈に振る舞おうと高杉は銀時を鋭い目で睨む。
だが、見下ろして来る銀時の目はいつもの呑気な目ではなく、
どこか獣染みてギラギラと輝いていた。
密着させてくる身体はいつも以上に熱く、銀時の下半身は固かった。
雄っぽさを匂わせた銀時に、高杉は少し肩を震わす。
怖い。心の片隅でそう思った。だが、それを否定して強がってしまった。

「身体くっつけてくんじゃねーよ、このクソ天パ!変態野郎っ!」
「叫ぶなよ、人が来ちまうだろ」

銀時はそう言うと高杉の肩を掴んで、ひっくり返してうつ伏せにした。
着物と下帯を無理やり剥ぎ取ると、銀時は唾液で濡らした指を無理やり高杉の後孔へつき立てる。
痛みと慣れない圧迫感に、高杉は「ヒッ」と喉を引き攣らせた。
起き上ってこようとする高杉の頭を押さえ付けて、銀時は容赦なく指を動かす。
引き攣れるような痛みに襲われて、高杉の目尻に涙が滲んだ。

「いっ……てっ、や、めろ銀時、いてぇっ」
「我慢してろって。初めは痛くても、多分その内よくなるって」
「ムリだっ。苦しい、指、抜けよっ」
「いいから、黙って力抜いてろっ!」

くの字に曲がった銀時の指がしこりをぐり、と引っ掻いた。
その時、圧迫感だけじゃなくて妙な感覚に襲われた。
銀時がにっと笑う。さっきと同じように高杉のしこりを引っ掻く。
すると、高杉の腰がビクッと撥ねた。

「あっ……んっ そこっ、やめっ」
「イイとこ発見〜。もっと責めてやるよ」
「バッ やめろっつって……アァッ」

嫌がって頭を振ろうが銀時はお構いなしにそこばかり攻めてくる。
突かれたり引っ掻かれたりしている内に、射精感が込み上げてきた。
全身から力が抜けて、快楽に身体が従順になっていく。
イキそうになった時、不意に銀時の指が胎内から出て行った。
やっとやめてくれる気になったのだろうか。
高杉がホッとしたのも束の間、肩越しに銀時が自分の着物を寛げているのが見えた。

「なに……してんだ?」
「挿れるんだよ。そのまま力抜いとけ」

銀時が性器を下着から取り出す。
猛ってそそり立った銀時のソレは、自分のより遥かに質量があって見た目もグロかった。

「ちょっ、待て、いい加減にしろ銀時っ!男同士だろうが、俺達は」
「解ってるっつーの。胸ないじゃん、オマエ」
「だったら、なんでこんなっ……。男同士とか、ムリだろ」
「男同士でもデキんだよ。ケツの穴使ってするんだよ」
「銀時、テメー、それを俺に突っ込む気か?」
「ああ。大丈夫だって、ちゃんとよくしてやっから黙ってろ」
「黙っていられるかっ!そんなモン、入らねえよ」
「オマエなら大丈夫だって」

そう言うと、銀時は有無を言わさずに入り口に亀頭を宛てがった。
性行為への恐怖に、高杉は堪え切れずに震えた。

「やめろっ、銀時っ!」

ジタバタと手足を動かして抵抗を試みるが、無情にも銀時の固い先端が
めり、と嫌な音を立てて胎内に入り込んで来た。
指とは比べ物にならない痛みと質量。高杉の顔が青褪める。

「うぐ、きっつ……高杉っ、力、抜け」
「い゛ぐぅっ、ぁ゛ぅぅっ」

整った顔を痛みに歪め、高杉は呻き声を漏らす。
ミチミチと嫌な音を立てながら無理やり銀時の肉棒が押し入ってくる。
余りの痛みに意識が飛びそうになる。いっそ、意識を手放した方が楽かもしれない。
だが、銀時が宥めるように首筋にチュッとキスを繰り返し落としてきて、
多少だが痛みが紛れてしまい、意識を飛ばせなかった。

「もうちっと、我慢しろ、高杉。全部入ったら楽になっから」
「あぐぅ、も、やめっ……ぅ」
「ムリ。止まれねえ。諦めて力抜けよ」
「いや、だっ……、ァッ」

入り口が切れて血が流れた。それが皮肉にも潤滑油が割になって、
銀時の性器がすっぽりと身体の中に侵入してしまった。
腰を掴まれて、銀時が抜き差しを繰り返す。
初めはぎこちない動きがスムーズになってくると、圧迫感や痛みよりも快感が強くなり、
理性が飛んでしまった。

「あぁっ、アッ ァァッ」
「すげえ、狭ぇ。キツキツでやべえ、気持ちいい」

ぱちゅぱちゅと嫌らしい音を響かせながら、銀時の肉棒が内壁を擦り奥を突き上げる。
首筋に触れる銀時の吐息が熱い。雄のように呻く声が耳に響く。
いつしか高杉も腰を揺らして、快感を求めていた。

「はっ、ぁぁっ、ダメだっ、そんなに突かれたら、イクッ」
「俺も、もうイキそうだっ、高杉」
「イアッ アァァッ!」
「くっ……ぅっ」

背を逸らして高杉の身体が激しく痙攣する。
高杉が行くのと同時に、銀時も高杉の中に自分の欲望をぶちまけた。
イクのと同時に、高杉は意識を失った。



目を覚ますと、銀時に抱締められながら眠っていた。
銀時を引っぺがして身体を起こすと腰がずきりと鈍く痛んだ。
内腿を生温かな液体が伝い落ちる。
指で拭うと、白い液体がべたりと付着した。
銀時の精液だと気付き、高杉は羞恥心と怒りで顔を真っ赤にする。

「ん……、高杉?起きたのか?」

寝惚けた顔で目を擦りながら、銀時がゆっくりと起き上がる。
高杉は銀時のふわふわの天パ頭をゲンコツで思い切り殴った。

「何してくれてんだ、このクソ天パッ!」
「イッテーな!オマエが無防備に夜に部屋に来るのが悪ぃんだよっ!」
「俺の所為にするな馬鹿!なんでこんな事すんだよっ!」
「うっ……それ、は」

言い淀んで目を逸らす銀時を睨み付けると、高杉は今度は銀時の顔面にパンチを見舞った。

「もう理由なんてどうでもいいっ!この事、先生やヅラに喋ったら殺す!
 なかったことにしろっ!誰にも言うな!いいな、銀時っ」
「う……、あ、あ。解ったよ」
「それと、次こんな真似したら本当に叩っ切ってやるからな!」

何故かしょぼくれている銀時を叱りつけると、高杉は銀時の部屋を飛び出した。
男に組み敷かれたなんて、泣きたいくらい屈辱だ。
それなのに、どこか胸の奥が甘く疼く。

気の所為だ、春だからきっと頭が陽気にやられて変になっているのに違いない。

そう決めつけると、高杉は身体に残った銀時の感覚を追い出そうと、
冷たくなった風呂の水を頭から浴びた。
身体に残った銀時の体液を乱暴に掻き出し、身体を清めていく。
性交の痕跡はほぼ消えた。白い肌に残る赤い痕だけを除いては―…

「クソッ、なんなんだよ、銀時の馬鹿」

そう吐き捨てると、身体に残った赤い痕に高杉は爪を立てた。
何処からともなく漂ってきた桜の仄かな甘い香りに、胸がズキリと疼いた。






--あとがき----------

久しぶりの小説です(汗)
将軍暗殺編を見ていると、銀さんと高杉の話を書きたくなりますね。
初Hの話なのに殺伐としていて済みません。
もっと付き合い始めて、初めてHする銀高も書きたかったのですが、
思い浮かんだのはちょっと無理やりチックな話でした。