「花敢」






賑わう人々。喧騒と華やかな光。

自分自身、祭りは好きだった。そして、かつての仲間にも祭り好きが居た。
なのに、どうしてこんなにも心が躍らないのだろうか。
銀時は一人で人混みを彷徨いながら、深く溜息を吐いた。

「お前は復讐しようとは思わなかったのか?銀の字よ」

老人の言葉。それが別の男の言葉として耳の奥で蘇る。
嫌な気分だった。逃げ出した自分を責められている気がして苦しかった。
一番遠くに離れてしまったかつての友の顔が脳裏を過ぎる。
会いたい。だけど、会うのが怖い。会ったら、どうなるかが怖かった。

不穏な空気を漂わせていた源外を思い出す。
嫌な予感がしていた。花火の破裂する音が砲撃に聞こえるほどに。
闇空に火の花が咲く。爆音と一瞬の煌めき。一つ、また一つと花が咲く。
刹那、背筋がヒヤリとした。
勢いよく振り返ろうとした時には、強い殺気に全身を貫かれていた。

「た、か、すぎ……」

居るはずのない男の姿に、これは悪夢かと銀時は頭を抱えたくなる。
氷のような冷たさの 色の瞳。整った鼻筋と艶やかな唇。
さらさらとした柔らかな漆黒の髪。
口の端がにやりと不敵に持ち上がり、色っぽい微笑が浮かべられた。

「よお、銀時。簡単に後ろをとられるたぁ、侍失格だぜ?お前、弱くなったか?」

吐息を感じるほど近い位置で、高杉が艶めかしく囁く。
銀時はじろりと後ろに視線をやって動こうとしたが、
背中に容赦なく刃物を押し当てられていて、動けなかった。
身動ぎ一つすれば、容赦なく刃が喰い込むだろう。
昔は凛々しかった高杉の瞳は、今では凶器の色を帯びている。
妖しく、艶めかしい表情。清廉としていたかつての面影は薄まっていた。

片岸に自分に当てられている得物を確認する。
鈍い色を放つ白刃は懐に隠し持たれている短刀だった。
胸筋から薄い腹筋にかけての筋が丸見えだ。
白い肌が呼吸に合わせてゆったりと上下していた。

「高杉、オマエ……」

露出しすぎだっつーの。
殺伐とした空気に不似合の言葉を銀時は慌てて飲みこんだ。

「……いや、なんでここに居るんだ?」

動揺した声だったし、不自然な間が入ってしまったが、
幸い高杉は自分が今しがた声に出しそうになった疑問には勘付いておらず、
妖艶な笑みを浮かべたまま質問に答えた。

「祭りとあっちゃあ、参加しないわけにもいくめぇよ」
「相変わらず祭り好きなこって。じいさんけしかけたの、オマエか?」
「クククッ、立派な牙が見えたんでなぁ。研いでやっただけの話さ。
 俺の中にも黒い獣がいるんだ。仲間の仇を、殺せ、殺せとのた打ち回る」

笑いを含んだ声が痛々しく響いた。
自分が逃げたあの時以来ずっと、高杉は一人で苦しみを抱えていたのだろうか。
そう思うと、酷く苦しかった。

器用そうな顔をして、そのくせ人一倍不器用なヤツだった。
今でも、高杉には一つの事しか見えていないのだろう。


銀時は強く拳を握る。
逃げ回りながらも、なんとなく高杉の話は耳に挟んでいた。
過激派の名高く、新生の鬼兵隊を率いて暗躍していると。
自分にはもう関係ないと、ずっと目を逸らしてきた。

「高杉、どうしてオマエは変わっちまった?何がオマエをそんなに変えた?」
「変わらないさ。今も昔も、俺は獣にすぎない」

そう笑った高杉の瞳に憂いが滲んでいた。

冷酷無比に見えて、その実は仲間想いの義理に厚いところがある。
仲間の死に苦しんでいたのは、自分や坂本辰馬だけではない。
高杉も同じだったのだろうか。
だとしたら、あの日自分が他の選択肢を全て切り捨てて、
高杉を選んでいたとしたなら、奴は今とは違っていたのだろうか。
それとも、自分も共に彼と闇に堕ちていたのだろうか。

まだ、引き留められるだろうか?
自分につなぎとめることができるだろうか?

繋ぎとめたい。これ以上、手の届かない闇に堕ちて欲しくない。


気付いたら、自分に突きつけられていた白刃を握り締めていた。
高杉が息を飲むのが聞こえた。
後ろに視線を流すと、彼は明らかに動揺した顔をしていた。

「高杉、獣なら俺も飼ってるぜ。ただし、白い獣だ。
 ん?名前?ああ、定春ってんだ!」

拳を振り上げる。高杉は酷く驚いた顔をした。
そのあとで、一瞬ビクリと目を閉じる。
幼い頃見た表情。こんな状況だというのに、銀時は笑みを零した。

「うおぉりゃぁぁっ!!」

拳を思い切り高杉に向かって振り下ろした。
それは的確に、高杉の身体ではなく、高杉の持つ白刃にあたった。
白刃は粉々に砕け散り、凶器の意味をなさなくなった。

「銀時……」
「へっ、これでテメーは丸腰だな、高杉」
「クククッ、相変わらず無茶ばかりする奴だなぁ、おめぇは」
「まぁな。退けよ、高杉。俺はじいさんを止めるぜ」
「退かねぇ。と言ったら?」
「テメーのことも、腕尽くで止めてやるよ」

そう言うと、銀時は高杉を正面から抱きしめた。
腕の中で高杉が身動ぎをする。それを押さえつけるように銀時は腕に力を入れた。

「つっ、銀時。何を……!?」
「止めてるんだよ」
「ふざけるんじゃねぇ」
「至って大真面目だコノヤロー!」

高杉を抱き締めたまま、銀時は近くの茂みに倒れこんだ。
高杉を地面に組み敷き、じっと薄緑の瞳を見詰める。
背中に押しつぶされた草が、濃い生命の匂いを漂わせていた。
夏の青臭さを思わせる強い匂い。ムッとする濃密な空気。
触れ合う互いの肌が、やけ生々しく感じられた。

「高杉、オメェは露出しすぎなんだよ。誘ってんのか?」
「馬鹿いうな。誰がてめぇみたいな奴誘うかよ」
「またまたぁ。ホントは期待してたんじゃね―の。こうなること」

銀時は意地悪く笑うと、高杉の白く細い首筋に唇で触れた。
ねっとりとした舌で、嫌らしく首筋を舐め上げると自分の下で高杉が震えた。

「くっ……はっ、ぁっ」
「色っぽい声じゃねーか、高杉。もっと聞かせろよ」
「んっ、うっ…ぁぁ、だ、れが、声なんてあげるか……っ」
「強がんなって。まあ、俺ドSだし、抵抗されても嬉しいけどよ」
「ざけんじゃ、ねぇ……ぁあっ!」

きゅっと乳首を抓ると高杉の唇から艶声が零れた。

「もっと可愛い声で鳴けよ、高杉」

銀時は攻め立てるように胸の飾りを指で弄る。
もう片方は口に含み、舌で転がしたり、吸い上げたりした。
桜色に色付いた高杉の乳首が固く張り詰める。
顎を反らして、高杉はびくびくと震えた。
晒された首筋の繊細さと白さに、銀時はぞくりと背を粟立たせる。

「いつのまにそんあエロくなったんだ?高杉ィ」
「ふっ、……うぁっ、ぁぁっ、る、せー、ばか銀時」
「その顔で睨まれても、煽られるだけだっつーの」

もともと着崩された女物の着物を乱暴に脱がせると、
銀時は高杉の下帯に触れた。

「オイオイ高杉、お前、今時ふんどしかよ。
 しかも、何で白?淫乱そうなツラして下着は清純派とか
 どんだけだよ?余計にエロいだろーがよ」
「ほっとけ……。下着なんぞ、何でもいいだろうが」
「ダメだぜ。男にとってヤる前に女のパンツ見るのも
 楽しみの一つなんだからよ。勝負パンツって言葉があるくらいだぜ」
「てめぇに見せるつもりなんざ、ねぇ……っぁ!」

高杉のつれない言葉に機嫌を損ねたように、
銀時は乱暴に高杉のモノを下着の上から強く握り込んだ。
下半身に走った衝動に、高杉がぎゅっと目を瞑る。
銀時はにやにやしながらその顔を見降ろしていた。

「高杉、テメーやっぱ淫乱だな。下着、ぐしょぐしょじゃねーか」
「くっ、…ぅっ」
「身体は心と違って正直だなぁ。んん?」

獲物を見るような銀時から高杉は目を反らす。
だらけきったと思っていたら、まだ昔の色を残していた銀時に、
ゾクゾクとするのを感じた。

銀時は薄ら笑いを浮かべたまま乱暴に下着を奪うと、
高杉の棒を滴る先走りを指に絡めた。

「オイ、銀時。てめぇ、まさかやるつもりか?」
「あぁ?たりめーだろ。前戯だけで満足なんてしねーよ」
「外だぞ。ざけんな。露出の趣味なんざぁねぇ……うぅっ!?」

高杉が文句を言い切る前に、銀時の節くれ立った指が
ぬめりを伴って後孔から侵入してきた。
異物感に高杉は眉を顰めて、身を強張らせる。

「硬くなんなよ、高杉。つれーぞ」
「ひっ、ぐぅ……んぅ、はっ……」
「ふぅん、堪えてる顔も相変わらず綺麗だな。
 そう言う顔見てっと、逆にゾクゾクくんぜ?ヒィヒィ言わせたくなる」

銀時は探るように挿れていた指を一気に胎内に押し込んだ。
僅かな痛みと強い圧迫感に高杉は大きく仰け反った。
容赦なく銀時は壁をくの字に曲げた指で引っ掻き、
時にはギリギリまで抜いたり、急に抽入したりを繰り返す。

「うぅっ、あぁっ、ふっ……ぅぁっ、ぁぅ」

銀時の指に激しく責め立てられ、高杉は足をビクビク痙攣させた。
歪む顔にはあきらかに享楽の色が滲んでいる。
銀時はよがる高杉ににやけた表情を浮かべる。

「その顔ヤベーよ。ああ、俺もうムリだわ。ワリィがいれるぜ?」

そう言うと、銀時はそそり立った自分のモノを取り出し、
高杉の両足を大きく開かせて一気に挿入した。

「くぁっ、あぁあぁぁぁぁぁっっ!」

熱い楔にナカを押し広げられ、高杉は悦楽に滲んだ声を上げる。
ヒクつき、熱く絡み付いてくる高杉の秘肉に銀時は舌なめずりをする。

「純情だった高杉くんが随分と淫乱に育ったじゃあねぇか。
 俺のチンコに喰いついて来やがる。あぁっ、最高にイイぜ、お前」
「あぁっ、ぅぁっ」
「もっとたっぷり喰えよ、オラ!」

細い腰を掴むと、銀時は激しく高杉の身体を揺す振った。
律動に合わせて色っぽく呻く高杉に、銀時もまた欲に滲んだ呻き声を上げる。
懐かしい熱い感触と快楽におぼれながら、
銀時は欲望の赴くまま高杉の身体を貪り、精を放った。


射精すると、銀時はずるりと高杉からモノを抜きだした。
全裸で横たわる高杉に彼の着物をふわりとかけると、
ぐったりとした彼を残して立ち上がった。

「高杉、今回はお前の負けだよ」

身支度しながらそう呟くと、ぼんやりしていた高杉が微笑を浮かべる。

「ああ、そのようだな……。
 今回はお前に譲ってやるよ。じいさんでもなんでも、止めに行きな」
「ああ、そうさせてもらうわ」

背中を向けて、ゆっくりと高杉から離れる。

「高杉、お前はもう、戻ってこられねぇのか?」

背中を向けたまま呟いた問いに、答えはなかった。
ただ、歪んだ笑い声だけが夜の闇に響いた。
その声から遠ざかるように、銀時は喧騒の方へと走っていった。




感情を持ったカラクリ、もう一人の源外の息子によって、
祭り会場は憎しみの業火に焼かれることなく、事件は収束した。

息子を失った悲しみに暮れ、嗚咽を込み上げる源外に苦い物が込み上げる。
「オレはどうすればいいだよぉ」と情けない声、悲哀に満ちた声。

高杉も、もしかすると同じ気持ちなのかもしれない。
そう思うと、余計に苦しかった。

「長生きすればいいんじゃね?」

そう呟いた銀時の声は、老人を目の前の老人を越えて、
遠く離れたかつての友に向けられていた。







--あとがき----------

タイトルは天野月子さんの「花冠」からです。
あの曲聞いているとすごい銀さんと高杉で妄想できます!
歌詞がすごいいいです。一部、
『あの日私が他の選択肢を全て切り捨てて
君を選んだら変わったと言うの?』という歌詞を思い浮かべて書きました。

話しの時間軸は源外のところです。
銀さんが「定春ってんだ」って言って拳を振り上げたシーンの後、
その次にはもう源外の所にいたので、
暗転するシーンに何があってどうやって高杉から逃げたのか
妄想した結果の産物です(笑)

銀さんに刀を向ける高杉の露出具合がすごすぎて
エロすぎて滾りました。