「Love game」







「銀時は高杉のこと好きなんかのう?」

笑いながらそう訊ねて来た辰馬に、
高杉はあからさまに嫌そうな顔をする。

「さっきの戦で頭に毒矢でも刺さってイカれたか?辰馬」
「アッハッハ!わしゃー怪我なぞしとらんぜよ」

あっけらかんと馬鹿でかい声で笑う辰馬に、高杉は呆れた視線を送る。

「で、なんで銀時が俺を好きなんて馬鹿げた発想が湧いて出た?」
「だって、銀時はよくお前に絡んでいくきに」
「俺が気にくわないからだろ。むしろ、銀時はお前とよく
 じゃれあってんじゃねぇか。お前が好きかもしれないぜ」
「はっはーそりゃないぜよ」
「なんでだよ。俺なんざアイツにどつかれた事さえないぜ?」
「余計に怪しいぜよ。銀時はのぅ、
 おまんをおなご扱いしちょる。だからわしのように殴れん」

辰馬の的外れな発言に高杉は顔を顰める。

「この俺を女扱いだ?そんなこたぁねえよ。
 仮にそうだとして、あいつはヅラにも余り触らねぇ。
 ヅラも女扱いか?ま、それは納得だな。
 女みてぇだってよく言ってるしな。銀時はヅラが好きなんじゃないか?」

にやりと笑いながら高杉が言うと、辰馬はチッチと指を振った。

「それはなか〜」

随分と自信満々に否定する辰馬に、高杉は怪訝な顔を向けた。

「何故、言い切れる?」
「恋愛には疎いおまんは解らんかもしれんが、
 銀時の態度をみとりゃわかるぜよ」
「いや、さっぱり解らねぇんだが」
「銀時はおまんによくチビだとかボンボンだとからかっとるじゃろ?
 わしが初めて来た時もそうじゃった。
 じゃが、ヅラんこたぁからかっとらんぜよ」
「言われてみれば、そうだな。
 だが、最初に言ったようにそれは俺が嫌いだからだろ?」
「違うぜよ。ありゃー幼稚園児が好きな女子をからかうのと同じじゃ」

にやにや笑いながら顔を覗き込んでくる辰馬に、
高杉は珍しく少し頬を赤らめた。
焦った様な顔をしながらも、冷静に高杉は答える。

「もし仮に万一銀時が俺を好きだったとして、
 お前はどうしてそれを本人である俺に言う?」
「特に意味はないぜよ」
「てめーデリカシーねぇだろ?
 普通本人には聞かねぇよ。俺にどうして欲しいんだよ」

呆れたように肩を竦めた高杉に、辰馬がずいっと顔を近付ける。

「高杉は銀時ばどう思うとる?好きかや?」
「好きじゃねぇよ、あんないい加減な奴」
「本当にぃ?」
「本当だ」
「ほうかー。じゃあわしがちょっかい掛けてもええんじゃな?」
「え?」

辰馬が手を伸ばしてきて、両手を高杉が凭れていた壁に着いた。
囲われた高杉はただ驚いた瞳を辰馬に向ける。

これが所謂巷で流行りの壁ドンというやつか。

女はこんな行為にトキメクというのだろうか。
正直、捕食される鼠にでもなった気分だ。

相手が馬鹿みたいにでかい辰馬だから余計にそう思うのかもしれないが、
兎に角トキメクというより怖くてドキドキ、
もといビクビクするの間違いじゃないだろうか。

総督と呼ばれる自分がこんな奴にびびってるのは情けないと、
高杉は強い瞳を辰馬に向けた。

「辰馬、銀時が好きなら勝手に手ぇ出せばいいだろう。俺に絡むな」
「あっはっは!それマジで言っとるがが?
 だったら晋ちゃん鈍過ぎぜよ。
 わしが手ぇ出したいんはおまんじゃ。銀時じゃなか」

辰馬の青い瞳が高杉を真っ直ぐ見詰める。

温厚そうな性格の能天気馬鹿に見えて、腹に逸物抱えている。
初めて辰馬を見た時の高杉はそう直感した。

どうやらそれは間違っていなかったらしい。

「おい、冗談はよせよ。
 俺には衆道の趣味なんざねぇんだよ。お前もだろ?」
「ないきに」
「だろうな。じゃあ馬鹿な真似はやめろ」
「でも、高杉はカワイイと思うちょる。こんまくてまっこと愛らしいぜよ」

辰馬の大きな手が高杉の頬を包む。
さらりと柔らかな高杉の髪に触れ、辰馬は男らしい笑みを浮かべた。

「綺麗な髪じゃ。細くてさらさらで」

見詰めてくる青い瞳から逃げるように高杉は瞳を逸らした。

「か、髪が好きならヅラの方へ行けよ」
「ヅラは駄目じゃ。奴も髪は滑らかじゃが、
 高杉の方が柔らかいぜよ。おまんの髪が一等綺麗じゃ」

辰馬の顔がぐっと近付いてくる。
逃げようとするが、背後は壁に阻まれていて逃げられない。

びくりと肩を跳ねさせ、高杉はきゅっと目を瞑る。
吐息が当たるくらい近くに辰馬の唇が寄せられる。

――唇が触れる。高杉が一層身を固くしたその時、
間抜けな叫び声と共に辰馬が離れていく気配がした。


恐る恐る高杉が目を開けると、辰馬の襟元を掴んで、
銀時が恐ろしい顔で立っていた。

「銀時?」
「なーにやってんだ?てめぇら。男同士で
 乳繰りあってんじゃねぇよ!きっしょく悪ぃな!」

罵声を浴びせられ、辰馬は相変わらず笑っていたが、高杉はムッとする。

「気色悪ぃなら見るなよ、銀時」
「何だよ可愛くねぇな。せっかく節操なしのセクハラから
 助けてやろうと思ったのに。ほっとくぞ。キスでも何でもされやがれ」
「俺がどうなろうがお前ぇは気になんてしてねぇだろ。
 どうでもいい癖に…」

薄緑の瞳が寂しげに揺れた。
銀時は後頭部をわしわしと掻くと、高杉の腕を掴んで自分の方に寄せる。

「おら、こっち来い。行くぞ」
「えっ?ちょっ、ぎん」
「いいから来い!」

戸惑う高杉を強引に引っ張って、銀時は繁みの方に歩いて行った。

「銀時、わしは置き去りがか?」
「ああ。そこで大人しく自家発電でもしてろ。
 発散して男になんざ手ぇ出さなくていいようにしとけ!」
「はは〜嫉妬かや?銀時はまっこと面白か〜」
「だーれが嫉妬なんざすっかよ!バーカ!」
「照れんでええが。まあ今日ん所は退くぜよ。でもわしは遠慮せんぞ」

にっと笑う辰馬から逃げるように、
銀時は高杉を連れて人気のない方に歩いて行った。



「おい、いい加減にしろ銀時、なんなんだよ?」

銀時の手を振りほどくと、腕組みして高杉は銀時を軽く睨んだ。
すると銀時は何故かムスッとした表情を浮かべる。

「高杉。オマエさ、俺には素っ気ねーよな」
「は?んなこたぁねぇよ。そう言うお前は、
 俺によく突っかかってくるよな。なんでだ?銀時」
「うっ……」

言葉を詰まらせる銀時に高杉はニヤリと唇の端を吊り上げる。

「銀時、お前俺が好きなのか?だからつっかかるんだろう?」

辰馬に言われた事をそのまま口にしただけだった。
勿論、そんな戯言信じてなどいない。
ただ、嫌がらせで言ってみただけだ。
だが、銀時は不意に顔を赤く染めて狼狽えた。

「ば、ば、ばっきゃやろー!んなわけねぇだろ!」

大声で吠える銀時に、今度は高杉がポカンとする。

「たりめぇだ、お前が俺を好きな筈がねぇ事は解ってるさ。
 冗談に決まってるだろう」

銀時に背を向けると、高杉は逃げるように立ち去ろうとした。
だが腕を銀時に掴まれて、後ろに引き戻される。

危うく転びそうになり、怒って振り帰った。
“何すんだよ”と怒鳴ろうとした刹那、唇に生暖かいものが触れる。

「ンッ!?」

それが銀時の唇だと気付いて驚いている間に
銀時は唇を離して、逃げる様に去っていってしまった。

ただ触れるだけのキスだが、軽くはなく濃厚なキスで、
冗談や事故として処理するには無理があった。

濡れた唇に指で触れ、高杉はただ目を瞬かせる。

「なんだよ…」

呟いた声が虚しく落ちる。頬が赤くなっている自覚があった。
クソッと吐き捨てると、
高杉はその場にしゃがみ込んで動けなくなった。



そんな高杉を見て、普段の凛々しさとのギャップに
悶えていた男が多数いた事は、
密かに様子を見ていた桂だけが知る事実だった。









--あとがき----------

公式で、銀さんは高杉につっかかりすぎですよね。
やたらチビチビと罵倒したり、ボンボンは嫌いと言ったり、
あれって、小さい男の子が好きな女の子虐めちゃうのと
同じに見えませんか(笑)
やたらつっかかって構いたがるのは、好きな証拠です。
辰馬はそれを見て少し嫉妬してたらいいなと思って、
できた産物です。