「贈り物」






「晋助。主宛に荷物でござる」

万斉が差し出したえらく豪奢で派手な包を、剣呑とした動作で高杉が見詰めた。
縁側にごろりと横になったまま、怠惰に手を伸ばして包を受け取る。

「誰からだ?趣味の悪い包装だな」
「喜々公からでござるよ」

差出人の名前を聞いて高杉は眉を顰めた。
あからさまに嫌そうな顔をする高杉に、万斉が苦笑を浮かべる。

「そう嫌そうな顔をするな、晋助。仮にも盟友でござろう」
「ふん。盟友、ねぇ。てめぇ奴の事を一度でもそんな風に思った事はあるか?
この間、聞くに堪えない音色だとか
翳で言っていた奴がぬけぬけと。よく言いやがる」
「生憎、拙者は奴を担ぐのは反対でござったからな」
「ククッ、嫌な野郎だな。まあ、いい。
どんな大事な書類や道具が入っているとも知れねぇしな。放置も不味いだろう」

大して不味いと思っていない軽い口調でそう言うと、
高杉はてっとり早く乱雑に包装を破いた。
飾り立てられた包が無残な姿になっていくのを見ていた万斉が
「せっかく綺麗に包んだ送り主の努力を無碍にする行為でござるな」と
苦笑いしているのを横目で睨み付けると、高杉は小さな小箱を取り出した。

「銃でも入っているのか?にしちゃ細長いし、細工が過ぎる」

出てきた漆塗りの長方形の箱は、艶やかな彫り細工が施され、
輝石まで埋め込まれていた。
箱を開くと、なかには箱同様美しい細工の施された、
いかにも高級そうだが品のあるキセルが横たわっていた。
メッセージカードもついている。

親愛なる貴殿に相応しいキセルを探し出した。
是非とも使ってくれると嬉しいよ。
君の生を心より悦ぶと共に、誰よりも祝おう。
それでは、また会える日を心より待っている。

ざっと手紙に目を通した高杉は背筋を震わせた。
ふん、と鼻を鳴らして手紙をくしゃくしゃに丸めて畳に放り捨てる。

「行儀の悪い。せめてくず籠に捨てろ、晋助」
「うるせぇな。こんな気味悪ぃ手紙なんぞ寄越す奴が悪ぃだろうが。
 だがまあ、こいつは貰っとくか。丁度新しいのが欲しかったところだ」

唇の端を吊り上げると、高杉は箱からキセルを取り出して早速咥えた。
その瞬間、万斉があっと短く叫ぶ。
珍しいこともあるものだ。高杉は少し驚いた顔を万斉に向けた。

「何だよ、万斉」
「いや、晋助が迂闊にキセルを口に入れるから……」
「はあ?キセルは咥えるモンだろうが」
「いかにも。だが、変態からもらった物でござろう。
今度からは洗ってから使用した方が、主の為でござるぞ」
「……どういう意味だ?」
「うむ、咥えてしまってから言うのは少し気が引けるが、
 好きな女にキセルや笛のように口をつける物を渡す時、
 口をつける部分を舐めて唾液をつけてから、
 素知らぬ顔で送ってくる変質的な男がいるものでござるよ。
 送った相手が自分が口をつけた所に口をつける、間接キスを狙ってるのでござる」

じっとサングラス越しに万斉が見詰めてくる。
高杉は咥えていたキセルを口から出した。
万斉の言っていた事が当たっていたら。そう思うとゾッとした。
気分が悪くなってきた。タダでさえ気分が悪いのに、万斉が追い打ちをかける。

「キセルの吸い口は細いから、もっと最悪な可能性もある」
「最悪な可能性……なんだ、それ」
「吸い口を尿道に刺してから渡してきてるかもしれんな。
 喜々は変態だから、そういうこともやってそうだぞ。精液付きのキセルというわけだ」
「やめろ、気持ち悪くなってきた」
「そうか、それはすまぬ。で、そのキセルはどうする?」
「どうするも何も、気味悪くて使えねぇよ」
「だろうな。では、これを」

万斉が小さな箱を差し出した。受け取って高杉は箱を開ける。
中には繊細な細工が施されたキセルが入っていた。

「あ?なんだ、これは」
「拙者から主への贈り物にござる。使ってくれぬか?」
「ふ、用意がいいじゃねぇか。じゃあ、有り難く使わせてもらうぜ。
 だが、何でだ?急に高価な物をくれるたぁどういう風の吹き回しだ」
「今日は八月十日。主が生まれた日だ。誕生日おめでとう、晋助」

万斉が手を伸ばしてきて、唇に触れるだけのキスをした。
誕生日なんてすっかり忘れていた高杉は、珍しく一瞬キョトンとしたが、
ふっといつもの妖艶な笑みを浮かべる。

唇が離れた後、もらったキセルを箱から取り出して、
ねぶるようにキセルの吸い口を舐め、色っぽく唇を寄せた。

「てめぇからの接吻、ありがたくもらってやるよ。万斉」

尊大な主人の態度に万斉は苦笑したが、
高杉が思った以上に喜んでいることに気付き、笑みを柔らかくした。








--あとがき----------