-修羅 後編-






呆けたようにぐったりとしている高杉から、朧は自身を引き抜く。
いつの間にか牢番が数人その場に居合わせていた。
こちらを見る目は厭らしい欲望に塗れていた。

「貴様らも来るがいい。好きにしろ」
「い、いいんですか?」
「構わん。ただし、殺すなよ」
「へいっ!」

朧に促されて、男達がわらわらと牢屋に入ってくる。
放心していた高杉は近付いてきた男達に顔を青褪めさせる。

「や……め、ろっ」
「へへっ、罪人に抵抗する権利なんざねぇよ」
「ヒュー、しっかし本当に綺麗な顔立ちだな」
「おら、咥えろよっ」
「ぐふっ、うぐぅぅっ」

高杉の口に男の一人が乱暴に自分の肉棒を咥えさせる。
噛み切ろうにも力がでず、されるがまま高杉は汚い一物を食む。
その間に別の男が乱暴に高杉の尻に指を入れた。

「くくっ、もうグチャグチャじゃねぇか」
「突っ込んでやれよ、オマエのマグナムをよ」
「おう、そうだな」
「んぐぅぅっ、ううううぅぅっっ!!!」

男達は呻く高杉の身体を舐めまわし、触りまわす。
抵抗を許されぬ状況で、高杉は悪夢のような時間に耐え続けた。
男に輪姦されながら、肉体と精神が崩れる音を聞いた気がした。
群がる男は天人となんら変わりはしない。
みんなぐちゃぐちゃとしたケダモノだった。

絶望に塗れながら、高杉はただ天窓から見える月を仰いでいた。



どれほどの時間が経っただろう。
男共は散々己の身体を貪りつくして、漸く去っていった。
独りになった牢屋の中、高杉は虚ろな目でゴミのように転がっていた。

「銀時……」

ぽつりとかつての友の名を呼ぶ。
胸がずきりと痛んだ。汚れ切った自分はもう、彼らとはいれない。
そう思うと、苦しかった。
身体がどうしようもなく震える。逞しい腕に抱きしめられたい。
そんな女々しい感情が沸き、泣きたくなった。

このまま此処で嬲られ、朽ちていく。
自分が愛した松陽も、そうやって死んでいったように。

「だ、めだ……」

歯を食いしばり、高杉が呻き声をあげる。

「終われねぇ。先生の、仇を……
 先生に地獄を見せた奴らを、この手で……」

呟く声が牢屋に響いた。
その声に混じって、不意に自分を呼ぶ声を聞く。
空耳なんかじゃない。起き上がろうとしたが、
乱暴に抱かれた身体が痛み起き上がれない。
身を捻って、声の方を向く。

「晋助さん」

牢屋の外に、兵の姿をした男が佇んでいた。
顎に髭を生やした精悍な男。同じ松陽塾の男だった。

「吉郎、お、まえ」

鍵を使って吉郎が中に入って来た。
吉郎は高杉の惨状を目にすると顔を歪ませて彼に駆け寄る。
倒れたままの高杉をぎゅっと胸の中に抱き締める。

「なんて、酷いことを……。晋助さん、晋助さん」

愛おしげに名前を呼ばれ、抱締められて高杉は震えた。
緩い手付きで吉郎の筋肉質な身体に腕を廻すと、
更に強い力で抱締められ、分厚い胸板に顔を埋めさせられた。

「逃げましょう、晋助さん」

殆ど衣服を纏っていない高杉に、吉郎が自分の羽織を掛ける。
高杉を抱き上げると、吉郎が走り出す。
牢から抜け出ると、表では既に戦闘が始まっている気配があった。

「吉郎、お前、こんなところまで来やがって……」
「すいません、勝手に貴方の兵を動かして。
 でも、全員貴方を助けたいと思っていたんです。皆の意志です」

抱き上げた高杉を吉郎がじっと見詰める。

「白夜叉よりは頼りないですけど、俺は貴方を守りたい」
「な、吉郎……?」
「ずっと見てた。でも貴方は遠い存在で、声も掛けれずにいた。
 だけど、貴方は俺の名前を覚えてくれていた。
 貴方は兵一人一人の名前や性格を把握してた。冷静だけど優しくて……」
「優しくなんざ、ねぇ。俺と捕まった奴らを、助けられなかった」
「貴方の所為じゃない」

吉郎は走る速度を速め、闇へと向かって行く。
そこへ、音が近付いて来ていた。
軍隊が近付く音だった。
逃げ切れない。高杉はそう悟った。

「吉郎、もう、いい。俺を置いて行け」
「なに、を?」
「奴らの狙いはこの俺だ。俺が戻りゃ、奴らは引く」
「駄目です」
「いや、もう十分だ。来てくれて嬉しかった」

高杉は微笑むと、吉郎の腕から飛び降りようとした。
だが、吉郎は高杉を離さなかった。

鉄砲隊が近付いていた。
「撃て!」号令と共に、破裂音が闇夜に響く。

「ぐあぁっ!!」

吉郎の背中を無数の銃弾が貫いた。
だが、彼は高杉を離さずに闇の森へと駈けこんだ。
高杉の頬にぽたりと雫が落ちる。
涙と血。まったく異なる二つの雫は両方とも温かかった。

「吉郎っ、おい、大丈夫かっ?」
「ははっ、すいません。逃がしきれなくて。
 でも、大丈夫です。三郎がカラクリに乗って来てます」

笑いながら吉郎は茂みを指差す。
そこにはカラクリに乗った三郎が居た。

「吉郎、高杉さんっ!」
「晋助さんを頼む、三郎」
「ああ、任せろ」

吉郎は高杉を三郎に差し出す。その間にも、足音は近付いていた。
高杉は吉郎の着物を掴むと、涙の滲んだ瞳で彼を見る。

「てめぇも来い、吉郎。置いていきはしねぇ」
「駄目です、晋助さん。行って下さい」
「駄目だ!」
「俺はもう、助からない……」

それは誰が見ても一目瞭然だった。
むしろ、今まだそこに立っている事の方が不思議なくらいだった。
高杉の目尻に滲んだ涙を、吉郎の指が優しく掬い取る。

「綺麗な涙。貴方はやっぱり美しい人だ」
「よ、しろう……」
「愛してました。晋助さん。ずっと前から……」

遠慮がちに吉郎の唇が高杉の頬に触れた。
吉郎はふっと笑みを浮かべると、爆弾を手に闇の向こうから
迫りくる兵士たちの方へと突っ込んでいった。

直後、三郎に抱えられながら高杉は爆音を聞いた。
それ以降のことはもう何も覚えていない―…




高杉が目覚めたのは丸一日経った後。
安全な畳の部屋に引かれた柔らかな布団の上で、
敵陣に突っ込んだ吉郎とその他数名の仲間の死を聞いた。

「三郎、報告ありがとう。暫く、一人にしてくれ―…」
「はい」

名残惜しそうな顔をしながら、三郎は出て行った。
身体を起こし、高杉は自分の頬に触れる。
吉郎のカサついた唇の感触がはっきりと残っていた。

「吉郎……すまねぇ……」

まだ残り香がある吉郎の羽織を手繰り寄せ、顔を埋める。
これで攘夷志士となった松陽の弟子はほぼ死に絶えた。
残るのは鬼兵隊では自分一人。
そして、袂を分かった銀時と桂だけだ。

「お前が俺なんざを好いていたなんて、ちっとも知らなかった」

知っていたら何かが変わった訳ではない。
相変わらず他の隊員と同じ扱いだろうし、付き合う事はない。
だが、吉郎の気持ちに気付かなかった事は罪のように思えた。

「折角守ってくれたのにすまねぇ、吉郎」

高杉はぎゅっと吉郎の羽織を握り締める。
ゆっくりとあげた瞳には真っ赤な炎が揺らいでいた。

「俺は、この腐った世界をぶっ壊す―…」

呻くように呟いたその顔は、まさしく修羅だった。











--あとがき----------

モブとかオリキャラ満載ですみません
高杉はこうやって修羅になったという、
自分なりの幕間を考えてみました。
高杉はきっと誰よりも仲間思いだったと思います。
源外の息子の三郎を覚えてたのが良い証拠です。
しかも親子喧嘩しに来たと言ってた事まで覚えてた。
銀さんなんて名前すら覚えてなかったです(笑)
銀さんは自分の世界しか守ってないそうです。