「喪失」






もう取り戻せるものなど何もない。
ただ、失った悲しみや怒りをぶつける為、あるいは晴らすために
刀を抜いては、またさらに傷を増やす。
そんな毎日が続いていた。

首だけになった師を見て、一番悲しんだ男は間違いなく高杉だった。
歯を食いしばって静かに涙を流す彼には珍しく、
酷く取り乱して、喚いて、怒り狂って当り散らして、大変だった。
だが、冷静に戻るのはそう時間のかかることではなかった。
三日も経つと、いつもの落ち着いた表情で自分と桂の前に現れた。
そして言った。「鬼兵隊はまだ戦う。俺は、先生の仇を討つ」と。

自分も桂も、高杉と同じことを考えていた。
だから、彼が率いる鬼兵隊と共に、戦い続けた。
天人の血、仲間の血、自分の血。全身余すことなく血に塗れる。

いつまで続けるつもりだろうか。
自分に問いかけても答えられない。
うんざりしながらも、怒りが戦場へと駆り立てた。



曇天の空。鉛の雲が垂れこむ不吉な空が広がっていた。
天人の数はざっとこちらの二倍。
それでも、なんとかこちらに優位で戦は運んでいた。

「銀時っ!」

別働隊と共に行動していた桂が走って引き返してきた。
焦ったような表情に、すぐ凶事の報告だと読み取れた。

「どうした?ヅラ」

敵を捌きながらも、銀時は桂に注意を向ける。
桂を濡らす血は返り血だけでなく、
己自身の血も混じっているようだった。
切り裂かれた布から裂傷が覗いている。だが、重症ではなさそうだ。

桂もまた、刀を手に攻防しながら声を張り上げた。

「鬼兵隊の別部隊は挟撃にあい、窮地に追い込まれている!」
「なっ、マジかよっ!高杉はっ!?」
「高杉は部下を逃がすのに一人で後方の部隊へ突っ込んでいった。
 このまま放っておいたら、死ぬだろう。銀時、ここは俺が受け持つ。
 すまんが、高杉を助けに行ってくれ!」
「わかった。必ず助け出す!テメーも死ぬなよ、ヅラ」
「銀時、貴様もな。必ず戻ってこい」

約束を交わすように互いに剣を掲げる。
振り向かず、自分のすべきことだけを見つめて駆けだした。



死体の山を踏みつけながら駆け抜けた。
傾き始めた陽光が空を不気味に染め上げる。
濃い赤に彩られた物々しい空は血を連想させ、妙な胸騒ぎを覚えた。


疲れた体を労わる余裕もなく、銀時は荒れ野を駆けた。
小高い丘を越え、視界が開けてくる。
そこに、自分よりずっと大きな体の天人と一人で戦う
高杉の姿を見つけた。

その顔の左半分は、夕焼け空よりも真っ赤な血で覆われていた。
遠目でも、見えていない傷口が相当重い物だと知れる。

「高杉ィィィッッ!」

群がってくる残党の雑魚を切り倒しながら、銀時は走った。
全身の血が沸騰したように熱く感じられる。
目の前が真っ赤に染まったような気がした。
怒りが我を忘れさせる。眠っている鬼が目を覚ましていた。

「うおぉぉぉぁぁあっ!」

獣のような咆哮をあげ、銀時は刀を振り下ろした。
全身に鮮血を浴びながら、高杉のもとへ走る。
怪我をした顔を手で抑えながらもまだ牙を剥く高杉に、
敵の天人はにやりと嫌な笑みを浮かべた。

明らかに他の奴らと風格が違うその男は、
見たものをゾッとさせるだけの何かがあった。
通常の自分ならば、わずかとはいえ怯んでいただろう。
だが、今は何も感じず、伝達指令でなくほとんど反射的に体が動いていた。

振り下ろされる刀から高杉を守るように、敵の前に躍り出る。
受け止めた大刀は酷く重く、鋭い一太刀だった。

「ぎん、とき…っ」
「高杉っ!テメー馬鹿かっ!一人で突っ込みやがって!」

驚いた顔をする高杉を怒鳴りつけると、銀時は目の前の敵に切りかかった。
刃がぶつかり合い、激しい金属音が空気を揺らす。
何度か切り結びあったが、決着はつかなかった。
片がついた味方が駆けつけてきたのを見て、敵の頭らしきその男は
自分との闘いからあっさりと身を引いた。

自軍は全て死に絶えたというのに、にやりと嫌な笑みを残して、
男は風のようにふっと夕闇の中へと姿を消した。
追って息の根を止めたかったが、背後から高杉の呻き声が聞こえて、
銀時ははっと我に返った。

「高杉っ!」

敵がいなくなった途端、プツリと糸が切れたように高杉は頽れた。
銀時は刀を収めると、慌てて高杉を抱き止める。
食いしばった歯の隙間から、苦しげな呻が零れていた。
血に塗れた左目には、致命傷を思わせる程深い傷が見えた。

「しっかりしろ、高杉っ!」

声を掛けるが、高杉は隻眼となった右目で宙を鋭く宙を睨むと、
そのまま意識を失って倒れた。

銀時は華奢な体を抱き上げると、「医者を呼べ!」と
怒鳴り散らしながら、走った。
追いついてきた桂と一緒に、一番近い根城の屋敷に高杉を運び込み、
すでにスタンバイしていた医者へ託した。


戦に勝つには勝ったが、こちらの被害は甚大だった。
半数以上が重傷を多ったが、高杉の奮闘で死者の数は押さえられたが、
高杉が深手を負った事に軍には激震が走った。
みな疲弊し、恐れをなす者、泣き言を口にする者が次々現れ、
士気が下がっていくのが目に見えて分かるようだった。
鬼兵隊以外の者の中には、戦場を去る者が数名現れた。
ただ、鬼兵隊の者は誰ひとり去ろうとはしなかった。
高杉の容体を不安がり、心配して動揺する者は多々居たが、
誰一人、もうやめようだの、怖いだの言い出す者はいなかった。
むしろ、高杉を傷付けられたことへの怒りを糧に、
報復をと血気に盛る者さえ現れる始末だ。

「愛されているな、高杉は……」

高杉が処置を受けている部屋の外に立っていた桂が呟く。
銀時は短く「ああ」とただけ呟く。

幼少期は碌に友達もいなかった高杉が仲間を作り、
彼らに慕われているのは嬉しい事でもあったが、
その反面、高杉の心中を想えば苦々しい事でもあった。

鬼兵隊が高杉を想えば想う程、高杉は戦から抜け出せなくなる。

高杉は心の底では深く傷付いている。
仲間が自分を守って死ぬたび、一人で泣いているのを何度も見た。
今回の傷はけっして軽いものではなく、戦を止めるきっかけにもできたはずだ。
だが、仲間が高杉を崇めて付き従う限り、高杉はそれを見限れないだろう。
自分を庇って死んだ仲間が多ければ多い程、
仲間の死を犬死にしない為にも、
何かを成し遂げるまではやめられないと高杉は考えるのだろう。

銀時はゆっくり顔を上げ、虚ろな眼差しで高杉が治療を受けている
部屋の障子を見詰めた。
中は戦場でないというのに、酷く慌ただしい。
思っている以上に高杉の左目の傷は深いのかもしれない。
致命傷なのかもしれない。

いっそ、このまま死んだ方が楽になるかもしれない。

ふと、過ったそんな考えに銀時は顔を青褪めさせた。
死ぬ?あの高杉が―…?

アイツだけは、どんな天人相手でも大丈夫だと思っていた。
どれだけ戦場に立とうと、不敗を貫くと思っていた。
でもそれは、ただの思い過ごしに過ぎないと今更気付いた。

手がどうしようもなく震えた。
このまま此処に居ては、本当に何もかも失う。
強い光である総督の高杉でさえ、この怪我だ。

もう、見ていられない。見たくない。
怖い。失いたくない。桂を、仲間を、高杉を―…

戦えない。こんど戦場に出たら誰が戻らぬ人となる?
桂か、鬼兵隊の高杉を盲信する男達か、それとも高杉自身か…

「おい、どうした銀時。顔色が悪いぞ?」

異常に気付いた桂が声を掛けてきた。
のろのろと桂の方を向き、「何でもない」と返事をする。
桂の顔も、酷く疲れていた。

「休んでいろ。高杉に続きお前まで倒れてはいかんからな」
「戦で勝つために、か?」
「違う。お前も高杉も俺にとっては大事な友だからだ」
「……そうだよな」
「本当に大丈夫か?銀時」
「ああ。大丈夫だ。俺は高杉の処置が終わるまでいる」
「そうか?無理はするなよ」

それきり、会話もなくただひたすら高杉の治療終わるのを待っていた。



それから数十分後、ようやく中から医師が出てきた。
銀時と桂は出てきた医者に詰め寄る。

「高杉の容体はっ?」
「ええ、酷い物でした。左目はもう使い物になりません。傷も残ります」
「マジかよ……」
「ですが、幸い脳に達してなかったので致命傷は避けられました」
「そうか、よかった」
「傷口と出血が酷いので、暫くは安静にして下さいね。
 今は麻酔で眠ってます。私は席をはずしますので、どうぞごゆっくり。
 何かあったらすぐ呼んで下さい。離れで他の人の手当てに回ってますので」

医者は頭を下げて、部屋から離れて行った。
銀時と桂は足音を殺して部屋に入る。
布団には顔の左半分を包帯で覆われた高杉が眠っていた。
表情はどことなく苦悶を浮かべていた。

「高杉までも、か」

桂が重々しい口調で呟いた。それに対して返事は出来なかった。
ただ、ゆらゆら揺れる蝋燭の炎に命の儚さを重ね、
陰鬱な気持ちが胸を占めていた。

ぼんやりと二人で高杉を見詰めていると、
長い高杉の睫毛が震えた。
ゆっくりと薄緑色の瞳が姿を現す。

「っ……、こ、こは?」

起き上がろうとする高杉を、桂が咄嗟に押さえ付けて布団へ戻した。

「動くな、高杉。失血が酷いようだから、倒れるぞ。
 大丈夫だ、ここは俺達の隠れ家の一つだ。敵はこないさ」
「そう、か。倒れちまったようだな。ザマァねぇな」
「よくやった。戦は勝ったさ。今は傷を治すのに集中するんだな」
「ヅラ、てめぇ怪我してんだろ。俺のこたぁいい、休んでろ」
「俺は平気だ。大した怪我じゃない。それより、左目はもうダメだそうだ」

デリカシーの欠片もなく、桂が淡々と言い放つ。
高杉が落ち込むんじゃないかと銀時はハラハラしたが、
考えてみたら高杉はそんなヤワなガラじゃなく、フフンと鼻を鳴らして、
「右目がありゃ戦えるさ」と高らかな声で言った。

まだ戦う気の高杉に、胸が痛んだ。
銀時はぎゅっと胸の辺りを握ると、呟いた。

「ヅラ、こいつと二人にしてくれねぇか?」
「銀時?ああ。いいだろう」

桂はあっさり承諾し、立ち上がって障子に手を掛ける。
去り際にピタリと足を止め、自分と高杉を振り返って桂は言った。

「二人きりだからって、ニャンニャンするなよ」

余りに場違いな台詞に、高杉は嫌そうな顔をする。
銀時も普段なら「誰がするか、バカ!」とか「キモイ!」と怒鳴り散らして
いただろうが、今はそんな気分になれなかった。

「善処するよ」と、弱々しい声でガラにも無い返事をする。
桂は小さく頷くと、部屋を出て行った。

二人きりになると、高杉は怪訝な顔でこちらを見た。

「おいおい、まさか怪我人相手に盛る気じゃねぇよな?」
「さあ、な……」
「冗談じゃねえ。……っ、おい、銀時っ?」

拒否されているのにも関わらず、高杉に覆い被さった。
失血で力が入らないのか、高杉は無抵抗だった。

「んぅっ……ふぅ」

唇を重ねると、体温が下がっているのかいつもより冷たかった。
死を思わせる温度に胸が痛む。
唇を割って舌を口腔に入れると、温かかった。
まだ、生きている。
確かめるように、執拗に高杉の舌を絡め取った。
苦しいのか、高杉は弱い力で胸を叩いてきた。

「やめろって、銀時。くるしい……」
「わ、わりぃ……、でも、勃っちまって……」
「ざけんな、いちおう怪我人だぞ、ばかが……んっ」

高杉を無視して、細い首筋に舌を這わせる。
青白かった頬を紅潮させて、高杉が色っぽい声を上げた。
その声に、もう理性なんて吹っ飛んでしまった。
乱暴に胸を弄り、服を脱がせに掛かる。

「あうっ、はっ……ぎんっ」
「止まれねェよ、高杉。傷、開かねえように気ぃつけるから」

柔らかい筋肉を揉みしだくと、高杉は色っぽい吐息を零した。
もう片方の乳首を唇に含み、舌先で転がす。

「は…あっ、銀時ぃっ……んぁっ」
「相変わらず敏感だな、乳首、もう勃ってんぜ」
「るせー。怪我人相手に何してんだっ、あっ」

歯で乳首を噛むと、一際大きく高杉の腰が跳ねる。
胸を触っていた手を滑らせ、下半身へと触れる。
既に固くなった高杉の性器を下着の上から握り込むと、高杉は悲鳴を上げた。
唇の端からはだらしなく涎が零れている。

「あぅっ、はぁ……キツ…い」

流石に怪我が酷く辛いのか、高杉は眉根を寄せた。
申し訳ないと思いつつも、このまま挿入なしで終われそうにはなかった。
高杉の零した先走りを指に絡め、尻穴に指を突き立てる。
高杉は息を詰め、威圧感に耐えていた。
いつもなら直ぐに解れるが、傷の痛みで身体が硬直しているのか、
なかなか指が奥まで入らない。

指を引き抜くと、銀時は高杉の下半身に口を近付ける。
菊座に舌を這わせると、白い内股がぶるぶると震えた。

「やめろっ、くすぐってぇ。つーか、何処に口付けてんだよ」
「どこって、言われてぇのか?てめぇのケツのあ……」
「やっぱ、言うな……。やめろ、銀時。汚ねぇ」
「お前の穴だから汚なくなんてねぇよ」
「ひぃ…、んぁっ」

銀時の舌がずるりと高杉の後孔から侵入する。
生温かい舌が入り口を擽り、腸壁を擦り上げると、
身悶えしながら高杉は色っぽい声を上げた。

「ひぐっ……あふっ、や、ぁ あぁっ」

ジュプリと卑猥な水音を立てながら、高杉の胎内を舌で犯す。
陸の魚のように背中を撓らせて、高杉が喉をヒクつかせる。
固かった秘肉が解れはじめて、熱を持ち始めた。
蠢き、腸液で湿り始めた内部を味わうように、
銀時は丹念に舌を動かした。
銀時が舌を動かす度に、高杉はもどかしい快感に襲われて声を上げる。

「んんっ、ふぁっ ぎ、ときっ も、いっ」
「なーに、もう我慢できない?」
「あ……、あ、もう」

本当はもっとゆっくり責めて、快感に歪む高杉を見詰めていたかった。
普段はクールな高杉が乱れるのを、自分だけに見せるその顔をずっと
見詰めていたかった。
だが、怪我の事を考えれば、これ以上体力を奪う訳にはいかない。
それに、自分自身もすでにはち切れそうな程に滾っていた。

舌を引き抜くと、高杉の足をM字に開いて入り口に亀頭を押し当てる。
自分の存在を知らしめる様に、ゆっくりと高杉のナカに自身を押し込む。

より深く突っ込めて、支配欲が満たされるバックも好きだったが、
今日は顔を見ていたかった。
苦悶に顔を歪める高杉も、熱い肉棒で突いた時に快楽に顔を歪める高杉も、
全部見たい。その表情を、全て記憶に刻みつけたかった。
放り出された高杉の手に、自分の指を絡める。
驚いた様な顔で、高杉が自分を見詰めた。

「あっ はあっ……ぎ、んとき?」
「動くぞ、高杉」
「あ、ああ……」

手を繋いだまま、激しく身体を揺らした。
いつもより熱くなった高杉の細い肢体に自分の身体を重ねる。
いつか、この身体が冷たく動かなくなる日が来るのだろうか。
そう考えると、冷や水を浴びせられたように背筋が凍えた。

「高杉、もう……」

戦はやめよう。そう言い掛けて、言葉を飲み込んだ。
高杉の性格上、止められる筈が無いと解っていた。
そんな事を口にすれば、たちまち怒りだすだろう。
今は、このまま身も心も繋がったままでいたい。
これで最後かもしれないから、途中でなんて終わりたくない。

更に強く手を握ると、奥の奥まで味わうように深く腰を突き動かす。
ピストンに合わせて、喘ぎ声を上げる高杉の唇を奪った。
舌を絡ませ合い、互いの唾液を飲み合う。
何度も角度を変えて口付けを交わし、唇を離した。
自分と高杉を繋ぐ銀糸が頼りなげに揺れる。
すぐにでも切れそうな糸を見ていると、不意に胸が締め付けられそうになった。

「たか、すぎっ……あ、いして……る」
「あっ、…はぁ、あぁ ぎん、ときぃ」
「愛してる、愛してる、あいしてる……」

突き上げながら、うわ言のように繰り返す。
快楽に溺れていて高杉の耳には届いていないと知りながら、
呪文のようにその言葉を繰り返し続けた。



結局高杉が気を失うまで、四回も行為に及んだ。
自分の雄を引き抜く頃には、高杉は全身汗と精液に塗れ、
目を覆った包帯には薄らと血が滲んでいた。

ぐったりとした身体を抱き寄せ、耳元で囁く。
「もうやめよう。戦なんてやめて、二人で何処かへ行こう」と。

高杉は虚ろな目をして、その言葉を聞いていた。
だが、返事をしないまま、疲れたのか目を閉じて眠ってしまった。
囁いた言葉は、届いていたかいなかったか解らなかったが、
もう二度と、その言葉を言う勇気は湧きそうになかった。


翌朝、太陽が昇り始めた頃に高杉は目を覚ました。
その時にはもう、自分はすっかり身支度を整えていた。

「ぎ、ん、とき?」

白い着物に身を包んだ自分に、高杉は驚いた顔をする。
薄情者だと自分でも想いながら、銀時はゆっくりと口を開いた。

「俺は、此処を去る。もう、戦はやめだ。
これ以上、誰かが死ぬ所は見たくねぇ。だから、行く―…」

高杉に静かにそう語りかける。
返事はない。ただ、驚いて見開かれた隻眼が自分を映す。

「ぎ、んとき……」

弱々しい声が名前を読んだ。
もしも、「行かないでくれ」と高杉に懇願されたら、
多分、いや、絶対に足を止めていただろう。
だが、高杉がそんな真似をすることはないと自分が一番よく知っていた。
知っていて、こんなタイミングで離反を告げた自分の弱さに、
たいがい泣きたくなるが、こんな時でなければ逃げ出せないと知っていた。

「勝手に出て行けよ」

吐き捨てるように強い口調でそう言った高杉の声を背中で聞きながら、
白い着物の裾を翻し、振り返ることなく夜叉は去った。









--あとがき----------

攘夷時代、高杉と銀時が何時離れたのか妄想しました。
私は個人的にですが、松陽先生の死を死ってすぐに、
高杉が狂ったというよりは徐々に変になっていったと
思っています。
松陽先生の死だけでなく、仲間の死も重なり、
高杉は狂ったのじゃないかなと思いました。
左目を失った時には、多分すでに辰馬はいなかったと思います。
松陽先生の首を取り返した直後らしき、高杉達のシーンでは、
高杉はまだ両目あったぽかったし、そこには辰馬はいませんでした。
多分、松陽先生の仇を取ろうとしていた時に、やられたのかと。