---手負いの獣---






目に染みるくらい青い空だった。
いっそのこと、酷い雨降りだったらよかったのにと思う。

徐々に重くなる身体を引き摺りながら、
狭く小汚い裏路地を壁伝いに晋助は歩いていた。
ルールを守らずに捨てられたゴミが転がる、本当に汚い道。
薄汚れた自分にはお似合いの場所だと嘲笑が漏れる。

(まだ、倒れるわけにはいかねぇ。全てを壊すまでは―…)

目が霞み、意識が虚ろになるのを堪えて歩く。
内臓が食み出すほど深く切られたわけではない。
だが、腹部の大動脈が傷付いていた。
応急処置をしたものの、服の下でまだ出血し続けている。
酷い痛みと死への恐怖は無い。ただ、寒かった。


ふらふらと歩いていると、前からいかにもガラの悪そうな男が三人やって来た。
高杉は彼らを視界に捕えていたものの、
空気のように存在を気にせずに通り過ごそうとした。
だが、間の悪いことに態々向こうから関わってきた。

「こんなところで一人歩きなんて物騒だぜ、おねえちゃん」
「へへっ、オレらが家まで送ってやるよ」
「キレイな着物だねぇ。ツラ、拝ませてくれよ」

ごつい手を一人の男が伸ばしてきたので、高杉はしょうがなく顔を上げた。
失血でどうしようもなく気怠かった。
そのせいでその瞳にいつもの狂気は宿っておらず、
どこか胡乱とした表情をしていた。

高杉の顔を拝んだ途端、男がヒューッと下品に口笛を吹く。

「別嬪さんじゃねぇか」
「でも傷物だぜ。見て見ろよ、顔の左側の包帯」
「本当だ。もったいねぇ。オマエあれか?遊郭から逃げ出した遊女か?」

男たちのまるで見当はずれな会話が煩わしかった。
無視して通り過ぎようとしたが、肩を掴まれて阻まれる。

「触るんじゃねぇ」

低い声で呻くと、男たちは顔を見合わせる。

「てめぇ、男だったのかよ?」
「……」
「オイオイ、なんだよ。そのツラと体格で男か?」

ざわつく男にため息交じりで高杉は言葉を返す。

「俺は別段、どっかの長髪と違って、女顔ってわけじゃあねぇがな。
 男とわかっちゃあ用はねぇだろ?毟る金も持ってやしねぇよ」

冷たくそう言い放って高杉は立ち去ろうとした。
だが、ぐるりと取り囲まれて、行く先を断たれた。

出来れば動き回りたくない。
刀が無い上に、これ以上傷を広げるのは得策じゃなかった。
怪我をしていたとしても素手で倒せる相手ではあるが、
それなりに腕が立ちそうで、体格もいいので多少骨が折れそうだ。

「俺から奪えるものなんざありゃしねぇよ。
 怪我したくなきゃ退けよ。そっちも余計な体力は使いたくねぇだろ?」
「へへ、顔色が悪いのはそっちだぜ、美人さん。
 オレ達の怪我の心配より、自分の身の心配をしたらどうだ?」
「そうだぜ。取るもんは無くっても身体があんだろう?」
「身体、ねぇ。どうしたいんだ?」

不敵な顔で高杉が問いただすと、男たちは舌舐めずりをした。

「なに、ちょっくら味見させてくれよ」
「オイオイ、男だって言ってんだろう?」
「アンタはキレイだし、かまわねぇよ。旨そうだ」
「クククッ、酔狂だねぇ」

妖しげに笑う高杉に、男達は魅入っていた。
どうやら奴らは本気のようだと、高杉は内心舌打ちをする。

抵抗すれば手荒な真似をされるだろう。
闘って叩きのめしてもいいが、傷の事を考えると億劫だった。
いっそ、大人しく付き合った方が楽だろうか。
昔なら間違いなく拒否しただろうが、
数多のモノを失い続けてきた今となっては、
正直、自分の身体が穢れようがどうだってよかった。
もう失くすものはない。それは自分自身も含めてだ。

高杉は自分に伸びてくる汚らわしい腕をぼんやり見ていた。
その指先が身体に触れそうになった瞬間、
いきなり男の身体が後ろに遠ざかった。

「オイオイオイ、昼間っから盛ってんじゃねぇよ」

聞き覚えのあるダルそうな声に、はっと顔を上げる。
男の身体に阻まれて全身は見えなかったが、見慣れた銀髪が見えた。

怪我を負ったとはいえ、腐れた邪魔な天人達と幕府数名を
排除できてついてると思っていたが、今日はとんだ厄日のようだ。
晋助は包帯の下に埋もれた左眉を顰めた。




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ジャンプを捨てにはるばる来た場所で、
ごつくてむさそうな男三人が女を囲っているのが見えて、
銀時は溜息を吐きながら男たちに近付いた。

巨体な男の身体の陰に隠れてどんな女かは見えなかったが、
細く白い足首と、仕立てのいい美しい柄の着物の裾が見えていたので、
おそらく美人だろうとわざわざ首をつっこんだ。
それに、微かだが血の匂いがしていたという理由もプラスしてもいい。
面倒ではあったが、放っておけないと思った。

「オイオイオイ、昼間っから盛ってんじゃねぇよ」

男の着物の襟を掴み、銀時は自分の方へ引っ張った。
刀を携帯した人相の悪い男が、ぎろりと睨みつけてくる。

「なんだぁ、テメー」
「だめだよぉ、か弱い女によってたかるなんざ。男の風上にもおけねぇなぁ」
「うるせぇよ、ジャマすんじゃねぇ」

激昂した男が一斉に飛び掛かってくる。
銀時は木刀に手を手に取り、男たちをひらりと軽く躱した。

「男ならぁ、正面から堂々女を口説きやがれぇぇっ!!」

吠えながら、銀時は男達を木刀で殴り飛ばした。
圧倒的な強さを見せられ、三人の男はびびってしまったようで
「覚えておけよ」と典型的な負け犬の遠吠えを残して走り去った。
刀を肩に担ぐと、銀時は一つ溜息を漏らす。

完全に男の姿がなくなったのを見届けると、木刀を腰に戻した。
踵を返し、襲われていた女の方を振り返る。

「オイ、大丈夫だったか……って、えぇぇっっ……」

襲われていたのが誰かを認識した途端、銀時は固まった。
頬を引きつらせて、壁に凭れて立つその人物を指す銀時の指が震えた。

「おまっ、オマエッ、た、た、高杉ィッ?って、えぇぇっっっ!?」
「大声出すなよ」
「いや、出すだろフツー。なに、この状況!?
 ちょっ、おまえ、何やってんの?なんで男に絡まれてんの?」
「まあ、ちょいと事情があってな」
「ちょいとって、男に絡まれる事情ってどんなだよ?」
「なんでもいいだろう?まあ、助かったぜ」

壁から背中を離すと、高杉は自分の横を通り過ぎた。
その瞬間、花の様な甘い香りに交じって、鉄錆の匂いが漂ってきた。

「おい、たかす……」

去っていく高杉を振り返った瞬間、彼の身体がぐらりと傾いた。
銀時は慌てて高杉の身体を抱き止める。

「どうしたんだ?オイッ、大丈夫か?」

声をかけるが、高杉は瞳を閉ざして返事をしない。
腕の中にある身体はぐったりとして、冷たかった。
身体を揺さぶろうとして、銀時はぎくりとした。
肌蹴た胸元から腹に巻かれた血染めの布が見えたからだ。

「冗談だろ?おい、高杉っ、返事しやがれっ!」

優しく頬を叩くが、高杉が起きる気配はない。
狼狽えながら、銀時は彼の身体を抱きあげた。
高杉の身体を揺らさないよう、知り合いのもぐりの医者の所へ走る。

そうしている間にもどんどんと小さな身体は冷えてきていた。
成人男性にしては小さく軽い身体を抱締め、銀時は急いだ。



命に別条はないが安静にしている事。
それが医者の下した判断だった。ひとまず銀時は胸を撫で下ろす。

「しかし、なんだってこんな時に会うかねぇ」

そっと隠れ家になる寂れた長屋に高杉を連れ込み、
布団を敷いて寝かせて、それを見詰めている自分。
シュールな光景だと銀時は思った。

「テロリストだもんなぁ。それも、ヅラとは違う超大罪人」

眠る顔に狂気はなく、只管美しいばかりだ。
とても凶悪犯罪者には見えない。
包帯が巻かれた左目以外は昔と何も変わりはしなかった。

銀時はサラリと高杉の前髪を指先で弄った。
柔らかな髪がさらさらと指の隙間を零れる。絹のような手触りだ。

「寝てりゃあ綺麗なのにな」

苦笑しながら、銀時はそっと頬に触れた。
常人よりひんやりとしていたが、滑らかで美しい肌。
つい調子に乗って触りまわしていると、長い睫毛が震えた。
同時に、閉じていた瞳がくわっと見開かれる。
射抜かんばかりの鋭い薄緑の瞳に、
銀時は「うおっ!」と間抜けな声を上げて尻餅をつく。

「ぎ、ん、とき……クッ」

勢いよく起き上がった高杉は短く呻き、前のめりに崩れる。
その身体を抱き止め、銀時は再びそっと布団に横たえた。

「バカッ、急に動くんじゃねーよ。致命傷じゃねぇが深手なんだよ」
「……、ここは?」
「安心しろ、追手はねぇよ。俺の知り合いの隠れ家だ」
「そうか」
「なあ、何で男に絡まれてたんだ」
「何でって、馬鹿げた質問だな。俺が聞きてぇくらいの質問だ。
 敢えて言うなら、女のような着物だったから、か?
 あとは、そうだな。奴らがこの俺の姿に欲情したってところか?」

クックッと歪んだ笑い声が高杉の唇から零れる。
妖艶なその姿に、銀時は心臓が変に脈打つのを感じた。

「欲情したって、お前なぁ、それ堂々と言う事かよ?」
「存外俺の身体も使い物になるらしいな。有益な情報だ」
「有益な情報じゃあねーだろ。男に身売りでもする気か?
 さっきだって、いくら手負いでも抵抗できただろーが。何ボーっとしてたんだ」
「面倒だったんだよ。傷は広げねぇにこしたこたぁねぇだろ。
 一発ブチこまれてそれで済むなら、抵抗して体力を削るより楽と思った」

さらりとそう言ってのけた高杉に、銀時は溜息を吐く。

「おい、高杉。男に犯られるってのはぁ、そんな楽な事じゃねぇだろ」
「はっ、説教か?聞く耳はないぜ。
 俺はぁね、銀時。俺の身体のことなんざどうなってもいいんだよ」

自嘲めいた笑い顔を浮かべる高杉に、無性に腹が立った。
すっと自分の中に冷たい物が流れ込むのを銀時は感じた。
吸いこむ息が異常に冷たく、胃の中にすとんと重りのように残る。

「本当になんでもねぇのか?高杉」
「あぁ?しつけぇな。平気だって言ってるだろ?」
「んじゃあ、俺に犯られたって平気だよなぁ?高杉くん」

にたりと銀時は歪に微笑んだ。
自分の中に眠る夜叉が起きたんだと、銀時はそう思った。


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数年前に別れた時よりも、少し逞しくなった身体。
まだ血が流れる真新しい傷以外、古傷はない。
逞しくなった分、依然よりも強く健康に見える筈なのに、
今の高杉を見ていると頼りなく儚げに見えるから不思議だ。
消えてしまいそうな、この世にいない様なそんな気さえしてくる。

無理やり組み敷いた身体を見降ろし、銀時は眉根を寄せる。

「何のつもりだ、銀時……」
「あぁ?犯るって言っただろうが。意味、わかんだろーがよ」
「ふざけんじゃねぇっ!」

起き上がって殴りかかろうとする高杉の背中を押さえ、
枕へ顔を埋めさせる。
高杉のくぐもった苦しげな声に欲情している自分が居る事に、
銀時はゾッとした。

怪我人に手を出すなんて真似、最低だ。
そう思っていた自分は薄らいでいき、支配欲の滲んだ獣が目を覚ます。

「ぶっこまれて済むなら抵抗するより楽なんだろ?
 自分の身体なんざぁどうだっていいんだろ?
 ついさっき、全部テメェが言った言葉ばかりだぜ。大人しくしろよ」
「くっ、この……腐れ天パがっ!」
「はい、銀さんを傷付けた〜。仕返し決定」

帯を乱暴に引き抜き、着物を引っぺがす。
白くて細い項に噛み付くと、びくりと高杉は震えた。

「くっ、はぁぅ、ぁ」
「エロい声。乱暴にされても感じるのか?」
「だっ、……まれ、……ぁぅっ!」

敵意の滲んだ反抗的な声なんて聞きたくない。
銀時は黙らせるように首筋に吸いつき、舌を這わせた。
後ろから圧し掛かって逃げられないようにすると、
頭を押さえ付けて執拗に敏感な部分を舌でなぞる。
高杉は声を出すまいとシーツを噛み、必死に快感に堪えていた。
それを見ているとサディスティックに火が点いて、
より一層激しく責め立てたくなる。

首筋から耳朶、外耳。項、そしてまた首筋へ。
吸いついたり、舌先を尖らせて突いたり、吐息を吹きかけたりと、
色んな方法でねちっこく愛撫をすると、
高杉はびくんびくんと腰を跳ねさせて震えていた。

「んはぁっ…ふっ、ぐぅ……んんっ」

時折堪え切れずに零れる艶声に銀時は目を細めさせる。
空いている右手で腰を撫で降ろしていき、柔らかな丘に触れる。

「ひっ、なっ、てめぇ」
「なーに。晋ちゃん。どーしたの?」
「手を退けろ、ぶっ殺されてぇのか?」
「強気だねぇ。ぶっ殺されるのはオマエだよ、高杉。
 俺に貫かれて、天国逝き。最高の死に方じゃぁねぇーか。なあ?」

にやりと笑うと、銀時は高杉の尻の肉を肩で揉みしだいた。
淫靡な手付きで、昔よりも少し肉付きのよくなった尻をまさぐる。
高杉はビクリと喉を震わせて、唇を戦慄かせた。
声を必死に堪える顔は壮絶にエロティックで、
銀時は触れてもない自分の股間が熱を持ち、固くなるのを感じた。

下着の裾から手を入れると、中は既にしっとりと湿っていた。
性器を握り込むと、ずちゃりと湿り気のある音がした。

「うわっ、すでに濡れてんじゃねぇか。見てみろよ、これ」

高杉の先走りを指に絡め、見せ付けるように顔の前に持っていくと、
彼は恥かしそうに顔を反らして瞳を伏せた。
意外と純情な反応に、銀時自身はさらに反応した。

「やっべぇ、なにその可愛い反応。マジで犯っちゃうよ?」

そう言うと、銀時は濡れた指を高杉の尻穴にずぷりと埋め込んだ。
埋めた指をクの字に曲げてナカの壁を引っ掻くと、
高杉の顔が快楽に歪み、唇からは色っぽい喘ぎ声が零れた。
指をもう一本増やし、ナカを拡張するように動かす。
ぐちゅりという卑猥な水音と高杉の嬌声が部屋に響いた。

「くぁ、あぅ、ああっ」
「うわっ、ドロッドロ。もう良さそうだな」

指を引き抜くと、銀時はズボンのファスナーを下げて、
すでに怒張した己自身を取り出した。
ぐったりしている高杉の腰を掴んで四つん這いにさせると、
ヒクつくアナルに先端を押し当てて一気に貫いた。

「ひぐぅっ、ああぁぁぁぁぁっっ!!」

ズンと重たく熱い衝動に、高杉は絶叫した。
瞳からは生理的な涙が零れていたが、お構いなしで銀時は腰を動かす。

「おらっ、もっと叫べよ。呆けるんじゃねぇ」
「うあっ、ひっ、やめ…ろっ、動くな!」
「聞こえねぇな。テメェももっと腰を振りやがれ」
「っ!?いあっ、あぁっ」

屈辱的な体勢のまま強く腰を揺さぶると、
潤んだ瞳で高杉は喘いだ。
熱いナカがぎゅうぎゅうと締め付けてきて、心地良さに銀時も呻く。

怪我人相手だというのに抑制が効かず、銀時は激しく腰を振った。
衝撃で高杉の傷口が開き、新たな血が流れてもやめなかった。

いっそこのまま、傷が治らなければいい。
一生此処で、自分の傍で、ただこの腕の中に抱かれていたらいい。
そんな欲望がいっそう肉体を高揚させ、銀時は激しく高杉を求めていた。
何も考えられないのか、高杉もただ自分に求められるまま、
あられもない声を上げ、同じように自分を求めていた。

「あっ、ぎ……ときぃっ、イクッ、いぁぁっ、あぁぁっ」
「ウッ、たかすぎっ……くっ、出す、ぜ」
「あっ、アァァッ」

堪え切れずに銀時が中に射精すると、高杉も身を震わせてイッた。
ずるりと自分のモノを抜くと、尻から白い精液がコプリと溢れる。
相当溜まっていたらしく、出てきた液体はかなり濃いてドロりとしていた。
自分の欲の深さを見せつけられた気になって、銀時は溜息を吐く。

「高杉、大丈夫か?おーい、高杉くーん?」

呼びかけたが、高杉の返事は無くて畳に崩れ落ちていた。
包帯はずれて取れ掛けているし、血も滲んでいた。
よっぽど手荒に扱ってしまったらしい。

「だめだこりゃ、気絶してるよな。あ〜あ、傷も開いちゃってまぁ」

抱き起こすと、まずは傷に薬を塗って包帯を巻きなおす。
風呂に入れると傷が広がりそうなので、
桶に湯を汲んで来て、タオルで身体に着いた血や白濁液を拭った。

「顔も涙と涎でぐっちゃぐちゃだな〜。総督型ナシだよ」

そうは言ってみたものの、涙や唾液に塗れていようが
眠る高杉の顔は相変わらず美しかった。
眼元にそっとキスをすると、銀時は耳元で囁く。

「もうずっとこのまま穏やかに眠ってろよ。俺の所で……」

似合わないキザな台詞だ。
銀時は苦笑すると、高杉を布団に横たえて自分も隣に寝そべった。
無性に眠かったが、眠って起きたら彼が居なくなっているのが怖くて、
銀時は高杉が目を覚ますまで、じっと彼の寝顔を見詰めていた。


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三時間程時間が経った頃、高杉は目を覚ました。
起きぬけに、間近に銀時の顔があった事に驚いた顔をした後、
不満げな顔で高杉は言う。

「気色悪ぃんだよ、テメーは」

辛辣な言葉だったが、銀時は凹むことも動揺もした様子は無かった。
高杉に腕枕したまま、呆れたような声で言う。「俺もそー思う」と。

腰と傷の鈍い痛みを堪えて高杉は立ち上がる。
自分が身に着けていた物を全て拾い上げて纏っていく。
銀時は眠たそうな瞳でその様子を見ていた。

「行くのか?高杉」
「あぁ。手当ては感謝する。だがてめぇみてーな野獣といたら
 治るモンも治らねぇからな。帰る」
「つれねーな。もうちっと此処に居ろよ」
「断る。てめぇの性欲処理に付き合う気はねぇんだよ、銀時」
「そんな気はねーよ」
「どうだかな。まあてめぇに襲われねぇとしても
 あいつらが探してるだろうから帰るよ。どやされるのもごめんだしな」
「オマエの部下、なんつったけ、河上万斉だっけか。アイツが待っているからか」
「さあな。てめぇには関係ねぇだろ」
「へいへい。そーですか。可愛くねぇーヤツ」

振り返らずに高杉は銀時の傍から離れていった。
ドアが閉まる直前、銀時は手を伸ばす。
その指先は高杉に触れることなく、無情にドアが閉まった。

伸ばしきれなかった手をぎゅっと握り締め、
銀時はさっきまで高杉が眠っていた布団に転がった。
甘い香りが鼻孔を擽る。
不意に下半身に、鈍くて甘ったるい疼きを感じた。

「馬鹿だねぇ、俺も。獣かっつーの」

ポツリと呟いた声が、一人の部屋に虚しく響いた。








--あとがき----------

もしも怪我をした高杉に遭遇したら、
銀さんは絶対に助けてしまうと思います。
さりげに万斉を出したのは、私が銀→高←万の
三角関係が好きだからです。
真撰組動乱では、熱い今彼VS元彼対決を演じてくれましたからね(笑)
万斉が銀さんと戦いながらやたら「晋助」連呼してたのが最高でした。