「闇に在る光」





師だった男の言葉が脳裏を掠める。
我らが行く道は暗き血の道。
愛しい者が出来ても、抱き締めようとすれば爪を立て
傷付けて壊すことしか出来ない。
抱き寄せれば寄せるほど爪は喰い込むだろう。
所詮、振り返れば何も残らぬ闇の道しか歩めない。

伸ばした手を引っ込めて、神威は目の前の男を見詰める。
彼もいつか、この手にかかって壊れるだろうか。
黒い髪に暗緑色の瞳。同じ背丈の華奢な男。
高杉晋助、地球の侍。

手を伸ばして、黒い絹の様な髪に触れる。
怪訝な顔で晋助が自分を見詰めてきた。

「なんの用だ?神威」
「別に。ただ、退屈だなって思ってさ」
「船の中じゃしょうがあるめぇよ。少し我慢してろ」
「えー、俺、退屈だと死んじゃうんだけどなぁ」
「俺は忙しい。退屈ならてめぇのお守役の男にでも遊んでもらえ」
「阿伏兎のこと?嫌だよ、おっさんと遊ぶなんて。
 アイツとは戦っても面白くないしね。ねえ、シンスケが構ってよ」

駄々をこねてみると、晋助は諦めたように溜息を吐いた。
書類と向かい合っていた手を降ろして、スクリと立ち上がる。
酒を手に帰って来ると、酒瓶を一つこちらへと放り投げた。

「てめぇに暴れられちゃあ船が壊れるから喧嘩はできねぇし、
 生憎、この船にいる女は来島くれぇだから、発散できる女もいねぇ。
 まあ、酒でも飲んで退屈をしのげよ。付き合ってやるぜ」
「シンスケは酒、好きだよネ。いいよ、酒で我慢する」

差し出された酒瓶を受け取ると、直に口をつけて煽った。
晋助は自分の前に腰を降ろすと、手酌で酒を飲み始める。
猪口を傾けて、晋助が酒を飲む。
細い喉が上下する様に、異常な興奮を感じた。
地球人はアルコールを飲んだ状態では勃ちにくいというが、
夜兎にはそれはあまり当てはまらないらしい。
ズボンの股間辺りが窮屈になり、身体が熱を帯びた。
晋助は油断しているのか酷く無防備な状態だった。
意外と、そういう事には警戒心が薄いのかもしれない。
それが男に襲いかかられても返り討ちにする自信があるからなのか、
単に、自分の容姿に無頓着で男を誘惑している自覚がないからなのか解らない。

「ねえ、シンスケ。シンスケは取引や交渉の時、
その身体を求められたことはある?」

無礼な質問だと解りながらも、楽しげにそう尋ねる。
晋助は僅かに眉を引き攣らせて、こちらを睨んだ。

「どういう意味だ」
「うん、晋助の様に美しい容姿なら、交渉で身体を求められる事もあるでしょ?」
「……」
「そう言う時は、素直に股を開くの?」
「随分な質問だな。てめぇは俺を淫乱だと言いてぇのか?」
「いや、淫乱かどうかは知らないけど、エロいよね。見た目とか身体が」
「ほぼ同じ意味に思えるが。まあ、いい。
 退屈しのぎだ。クククッ、何でも答えてやるよ。
 俺ぁ自らの身体を餌にして相手を意のままに操ることはやっても、
 求められたから差し出すことはしねぇ。俺は、俺が決めた時に身体を使う」
「ふーん、グレーってワケね。
 じゃあ、次の質問。シンスケは好きなヒトは居る?」
「酔狂な質問だな。そんなもの、この世に居たら破滅を選びはしねぇな」
「あの世に居るって意味?それとも今はいないって意味?」
「さあ、な。どっちも、かもしれねぇな」
「興味あるね。シンスケが好きな男か〜。銀髪のお侍さん?」
「それはお前の好きな奴だろう?」

飄々と笑いながら晋助が答えた。
動揺させようと思って態とあの侍のことを口にしたが、
晋助はまったく反応せずに余裕の表情だ。
動揺させたい、こちらを向かせたい。そんな衝動が沸き起こり、
さらにこの身体を高揚させていく。

「俺は別にあのお侍さんなんか好きじゃないよ。
 ただ、壊してみたいだけ。強そうだからサ、興味があるんだよね」
「それを世間では好きと言う感情で呼ぶんじゃねぇのか?」
「呼ばないよ。アイツにぶっ込みたいとか思わないからね」
「意外と、そういう色事にも興味があるようだな」
「うん、あるよ。今そう言う意味で一番気になってるのが誰か、教えてあげようか?」

口の端を吊り上げて微笑む。
晋助は口に運ぼうとしていた猪口を掲げたまま、固まっていた。

「俺はね、シンスケが好きだよ。アンタが欲しい」

低い声で囁くと、晋助の目が驚いたように見開いた。
畳を蹴ると、素早く晋助に飛び掛かる。手首を掴んで、畳へと押し倒した。

「っ、神威っ、てめぇ!」

ギロリと晋助が睨み上げてくる。
その瞳は酷く挑発的で、余計に煽られる一方だ。

「俺、シンスケ見てると勃っちゃうんだよね。
 殺し合いも好きだけど、もっと別のこともしたくなる」

耳朶を甘噛みしながら、息を吹き込むように囁く。「シようよ」と。
晋助はピクリと肩を竦ませ、擽ったそうに目を閉じた。
その顔はいつものエロい顔と違って、初心な処女のように可愛らしい。
こんな顔もできるのか、と、新鮮な気持ちだった。

手首を一纏めにして、首筋に噛み付く。
歯を立てると皮膚が破れて、赤い血が白い首を伝い落ちた。
ベロリと舌で血を拭いとって飲む。くらくらするほど甘くて美味しい血。

「くっ、…っぅ、やめろ……っ!」
「嫌だよ。途中で止められるわけないじゃん」

晋助の着物を無理やり剥ぎ取って、しなやかなその肉体を露わにする。
自分が穿いているような下着じゃない、
晋助の住む日本でも、侍や武士が穿いていた褌という下着を下肢に纏っていた。
真白いその布が、かえって厭らしく見える。

「晋助、パンツ白とか意外だよね」
「……下着なんぞ、どんなものでも構わねえだろ」
「パンツは穿かないの?褌より楽だと思うけど」

煩がるように高杉が視線を逸らす。
こちらに興味を失ったかのような、拒絶するかのようなその態度に、
おもわずこちらを振り向かせたくなる。意地悪をしたくなる。
下着の上から、思い切り晋助のイチモツを握り込んだ。

「ぐあぁっ、あがぁっ!い……てっ!」

身を捩りながら晋助が呻き声を上げた。
苦悶に歪む表情もまた、一段と綺麗でそそる。
更に力を込めると、晋助は大きく仰け反って歯を喰いしばった。

「ぐっ、このバカ力がぁっ、やめ……ろっ!」
「あはは、ごめん、痛かったよね?
 シンスケのアレってさ、小さいよね。やっぱ地球人は豆鉄砲だよ」
「テ、メェ……ッ」
「はは、ごめん、コンプレックスだった?うん、もうやめるから」

流石にこれ以上やったら本気で晋助がブチ切れそうなので
力を緩めて晋助の性器を解放する。
痛みで呻いていた割には、晋助の白い下着は湿っていた。
引き千切ってナカミを露わにすると、先っぽが先走りでテラテラ光っている。

「シンスケ、痛いの好きだねー。マゾ」
「っ、いい加減にしろ。てめぇ、何がしたい?」
「何って、シンスケと一発ヤりたいって言ってるじゃんか」

晋助に見せ付けるように自分の指に唾液を絡ませる。
晋助の顔は少し引き攣っていた。
たっぷり指に涎を絡ませると、晋助の肛門につぷりと指を埋め込む。

「ひぐっ、……あっぐ、いきなり、挿れるなっ」

晋助は眉根を寄せて苦しそうに息を吐いていた。
それなのに気を使うこともなく、指で晋助のナカを蹂躙した。
指を一本、二本と増やしてバラバラに動かす。
固いしこりを見つけて集中的に突いてやると、
びくんと晋助の細い腰が大きく跳ね上がった。

「あぁぁっ、ひぁぁ、やめっ、そこ……つく、なっ」
「あ、ここがキモチイイんだ。じゃあもっと責めないとね」
「ひぐっ、あぁぁっ、イッ、くぁっ」

口を大きく開けて涎を垂らしながら晋助が喘ぐ。
その姿を見ていたらさらに股間が窮屈になった。
指を引き抜くと、晋助の足を大きく左右に割開かせる。
自分も服を脱ぎ去り、怒張した雄を外へ解放した。
晒された性器に、晋助がびくりと肩を震わせた。

「餓鬼のくせに、大したエグいモン持ってるじゃねぇか」
「誉めてくれて嬉しいよ」
「誉めてねぇ。てめぇ、それを俺に突っ込む気か?」
「今更何言ってんの?当たり前でしょ」
「ふざけんな、慣らしたりねぇんだよ。入るわけねーだろ」

晋助は腰を浮かせて逃げ出そうとした。
無理やり腰を押さえ付けて晋助の入り口に自分の性器を押し当てる。
それから一気にナカへと身を進めた。
ブチブチと肉が切れる嫌な音がして、赤い血が流れ落ちてきた。

「ぎぃぁぁぁっっ!あがぁっ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっっ!」

晋助の口から絶叫が迸る。目尻からは涙が零れていた。
それでも行為をやめることなんてできない。
理性はなかった。獣と同じ、壊すことしかできない。
そんな言葉が脳裏を過ったが、思い止まれずに腰を進める。

血が潤滑油となってスムーズに身体が動かせるようになった。
半分失神しかけていた晋助の腰を掴んで思い切り自分の腰を打ちつける。
固い先端でぐりっと胎内の突起を引っ掻くと、晋助が色っぽい声を上げた。
半分とびかけていた晋助は意識を取り戻して、
突き上げる度に艶やかな喘ぎ声を上げる。

「うっ、はぁ ヤバッ、シンスケのナカよすぎっ」
「んあぁっ、あっ いあっ」
「スゲェいいよ、シンスケっ アンタも、もっと俺を感じてよ」
「ああぁっ、あっ あぁっっ」

温かくて、とても気持ちが良かった。
もっと晋助を感じたい。もっと近くで、もっと自分だけのものにして―…

晋助の身体に腕を廻して抱き寄せる。
強く、もっと近くにと、激しく身体を重ね合わせる。
白い肌に爪が喰い込んで、皮膚が裂けた。
血が流れ落ちる。苦痛に晋助の顔が歪んで唇から呻きが聴こえる。

急に不安になった。
やっぱり、自分はこの男を殺してしまうのだろうかと。
腕から力が抜けた。行為を中断しようとした時、
晋助の腕が首に絡み付いてきた。

「晋助?」
「中断するな。こっちは火が付いてんだよ。
 途中で投げ出すなんて野暮な真似は許さねぇ。最後までしろ」
「でも……」
「くくっ、俺は世界を壊すまで壊れねぇ。
 こう見えても頑丈に出来てんだ。てめぇ如きに腹上死させられねぇよ」

にっと笑う晋助に、暗い影のような思いが消えた。
光の様な男だと思った。
鳳仙が吉原の太陽たる日輪に魅かれたのと同様に、
自分もまた、この暗闇で光るこの高杉晋助と言う男に魅かれている。

闇の道でも、アンタがいる闇は温かい闇だ。

口許に笑みを浮かべると、晋助の身体を強く抱き寄せた。
熱を穿つように、激しくその腰を引き寄せる。

「あああっ、あっ、あぁっ、神威っ」

名前を呼ばれるのがこんなに嬉しい事だと思わなかった。
自分も名前を呼ぶ。何度も「シンスケ、シンスケッ」と。

今まで抱いた女では感じなかった昂りが全身を駆け抜ける。
戦ってしか得られないと思っていた強い快感が身体を貫いた。
晋助の中に己の熱を放ち、晋助もまた白濁液を撒き散らして意識を飛ばした。

熱を吐き出す事でやっと落ち着いた己自身を晋助のナカから抜こうとした。
だけど、晋助のナカの温かさにそうできなかった。
挿入した状態のまま、気を失った晋助の身体を抱き寄せる。
熱で火照った晋助の体温が心地良かった。

「闇の道にも、光は在るよ。鳳仙のダンナ」

晋助の額の髪を払いのけると、そっと唇を落とした。







--あとがき----------

神威と鳳仙が戦っていた時の会話がずっと頭に残ってました。
「我らが行く道は血の道。後に何も残らない」的なことを言ってましたね。
神威はそれでもかまわない。元から何も守る者もないという返事をしてましたが、
そんな神威が後にどうなるかずっと気になってましたが、
本編、見事に神威は守る者を得ましたよね。
高杉と神威、あんなにもいい関係になりましたね。
神威は高杉に会ってから、人っぽくなりつつあると思います。
そんな変化の過程と、神威の恐れを書きたくて書いた作品です。