++++++白い呪い++++++
  第六話 ―商談―


巨大な商船が地球付近の宇宙ステーションに停泊した。

船からは編傘を被った小柄な色素の薄い女性と、
身長の高いど派手な真紅のロングコートを纏ったサングラスの
茶髪天パの男が連れ立って降りてくる。

それを迎えたのは薄紅の髪の青年と蓬髪の巨体の男だ。
商人とは縁遠い戦闘種族・夜兎にして春雨の長である神威と、
副隊長たる男・阿伏兎だ。

それを知ってか知らずか、商人の男はへらへらと馬鹿面を
下げながら二人に近付き、名刺を差し出した。

「はじめましてー。わしは快援隊の坂本辰馬っちゅーもんじゃ。
 で、こっちは陸奥じゃ。よろしゅう」

差し出された名刺を神威の代わりに阿伏兎が受け取る。
ヘラヘラしているもじゃもじゃした茶髪の男に、
神威は妙な臭いを感じ取った。
サングラスに阻まれて表情は伺えないが、
どうにもただの商人とは思えない。血の匂いを嗅ぎ取る。

「俺は神威。こっちのオッサンは阿伏兎。よろしく」
「おい団長、オッサンはねぇだろ。失礼だな。
 団長だってガキから見りゃ、もうオッサンの年齢だぞ」
「俺がオッサンならじゃあ阿伏兎はジジイだね」
「ひでぇな」
「ところでサングラスさん。アンタ、ただの商人かい?
 それにしちゃあ随分と逞しい身体つきだね。戦でもしてたの?」

神威は笑いながら殺気を出してみるが、辰馬という男は動じなかった。

「わしゃ〜無駄な争いは好かんきに。
 わしの戦いは、どれだけいい商品を手に入れて利益を得るか、じゃ」
「ふぅん。そう。まあ、いいや。じゃ、うちの船へどうぞ」

腑抜けた声と顔に戦闘意欲をすっかり殺がれた。
神威は当初の目的を果たす為、辰馬と陸奥を戦艦へと案内する。

今回の目的はただ一つ、白詛に対する抗ウイルス剤の情報入手だ。
風の噂で、宇宙をまたにかけて貿易する地球の商人の話を耳にし、
彼らも白詛について調べており、有益な情報を持っている
可能性があるという情報を手に入れた。
戦闘よりもずっと、情報の入手の方が大切だ。

話し合いも交渉も得意ではないし、好きでもない。
だが、病に蝕まれる一人の男を助ける為なら何でもする。
そう神威は心に決めていた。

歩きながら、神威が密かに強く拳を握りしめる。
それに気付いた阿伏兎は、密かに溜息を吐いた。
何となく神威から視線を逸らして、阿伏兎は後ろを歩く二人を振り返る。

男は至ってただの普通の地球人のように見えた。
神威は何かを感じて気に留めていたが、阿伏兎は何も感じなかった。
だが、女は妙な親近感を覚えた。
日を避けるような大きな網傘、白い肌。
もしかしてと、ある一つの可能性が脳裏を過ぎる。

阿伏兎は歩みを止め、辰馬に並んだ。
その耳元に顔を寄せると、神威に気付かれないように小声で尋ねる。

「お前さんが連れてるあの女、ひょっとして夜兎か?」
「おお、よう解ったのう。陸奥は夜兎じゃき。
 ほうか、おんしらにとっちゃ同族じゃのう?」
「な……?オイオイ、オレら、夜兎だなんて言ったっけ?」
「いんや」
「いやはや恐れ入ったね。抜けた顔して、事前調べしてあったわけだ。
 じゃあ危険な商談になるって解っていながら来たのか?」
「商売じゃき。わしゃおんしらを信頼しちゅう」

そう言って笑った辰馬に、お手上げだと阿伏兎は降参のポーズをした。

「陸奥とゆっくり話したかろう。宴ば用意しよか?」
「いんや、ウチの団長は危険人物でね。夜兎って知ったら
 戦いたがるかもしれないから、できれば黙ってといてくれるか?」
「ほうか。残念じゃ」

阿伏兎につかみどころのない笑顔を向けると、
辰馬は快活な足取りで神威のすぐ背後を歩いてついて行った。

会談用に食事や酒が用意された奥の間に通され、四人はそこで話を始める。

「白詛が蔓延して5年。わしは一度も地球にいっちょらん。
 でも、地球はわしにとって今でも故郷じゃ。見捨てられんぜよ。
 わしは宇宙で商いしながら、白詛について調べとう。
 ちょっとした抗ウイルス剤みたいなモンも多少手に入れたぜよ」
「へえ、それは心強いね。で、譲ってくれる気あるの?」

神威が訪ねると、笑顔で辰馬が頷いた。

「あたりまえじゃ。じゃなければ商談なぞせんぜよ」
「そりゃありがたい」
「で、商談成立前におんしに聞きたいことがあるんじゃが」
「なに?」
「おんしらは夜兎ばかりの一派じゃ聞いちょる。
 そのおんしらの中に白詛に蝕まれとるもんが居るとは考えにくい。
 いったい、誰を助ける為、いや、何のためにワクチンば探しちょる?」

辰馬はここにきて、初めて鋭い瞳を見せた。
顔はさっきまでと同じで至って能天気そうな笑みを浮かべている。
だが、そのサングラスの下から殺気ではないが、
明らかにさっきまでの緩い雰囲気とは違う空気を放っていた。
神威はつられたようにニッと笑う。
辰馬の中に、かつて見た侍の姿を見つけたからだ。

「へえ、アンタ、やっぱただ者じゃないね。やっぱ戦う?」
「いや〜、わしはただの商人じゃ。戦わん。
 もし、おんしが戦いたいっちゅうならば、商談はなしじゃ」
「それは残念。まあ、引き下がるよ」
「で、ワクチンを求める理由ば、聞かせてくれんかの?」

理由を話さないと、先に進めそうにないと神威は判断した。
別段、隠す必要などない。

「俺の知り合いに侍がいる。その人が白咀なんだ。
 まだ、一度も拳交えてないからさ。戦う前に死なれちゃつまらない。
 だから、治してほしい。ってとこかな」
「大事な、人なんか?」
「大事……」

真剣な辰馬の言葉に神威は言葉を詰まらせた。
その答えを出さないまま、神威はいきなり席を立つ。

「阿伏兎、あとよろしく。俺はやっぱりこういうの苦手だから」

そういうと、ヒラヒラと手を振ってさっさと出て行ってしまった。
ドアから出る直前、「成立し損ねたら殺しちゃうぞ」と忠告を残していった。
阿伏兎はまた厄介事をと、目を覆って椅子にのけぞる。

「で、どうなんだよ、おにーさん。商談は?」

こりゃだめかな。云業と同じ道をたどるかも知れないと思いながら、
投げやりに阿伏兎が辰馬に商談の可否を尋ねる。
すると辰馬は意外にも笑顔で「もちろん成立じゃ」と言った。




一足先に会談の場を離れた神威は、高杉の部屋に向かった。
ロックなど掛けられていない、不用心な扉を開けて中に入る。

夜兎は血気盛んだが、誰も自分のお気に入りに手を出したりしない。
そんなことをすれば、間違いなく死ぬのがわかっているから。
高杉は自分の物だということが、一番の防犯だ。

「シンスケ……」

愛おしげに名前を呼び、そっと頬に触れる。
変わらず美しいその貌を見ていると、とてもホッとした。
ずっと寝ているわりには筋肉がまだついた身体を撫でる。
すると、固く閉じていた瞳がゆっくりと開いて自分を見た。

「神威……」
「おはよ、シンスケ。珍しいね。起きるなんて」
「ハッ、寝てばかりは性に合わないんでな」

か細いが艶やかな美声に神威は耳を傾ける。
嬉しくて、口元に自然と笑みが浮かんだ。

「身体、調子悪くない?シンスケ」
「良くもねぇよ。とりあえず、苦しみはない」
「よかった。仮死状態じゃウイルスも活動しないようだね」
「……てめぇも案外気が長いんだな。
 そうまでして、俺と一度でも戦いたいか?」
「さあ、ね。どうだろ」

珍しく曖昧に微笑んだ神威に、高杉は優しげな笑みを向ける。

「酔狂だな。お前も」

そう笑って薄紅色の髪の毛を優しく梳いた。
神威は目を細めて、高杉に擦り寄る。
そのまま心地よさに寝入ってしまった。
高杉自身も、その寝顔につられるように、また眠りについた。


二人が眠り始めてから数十分。
ドンドンと部屋を叩く音が聞こえた。

高杉は目を覚まさなかったが、神威が目を開ける。
途端、神威が入り口に走ったのと、扉が開くのはほぼ同時だった。

「あり〜。ここ、便所じゃなか?」

扉を開けたのは、会談で酒をしこたまくらい、酔っぱらった辰馬だった。
神威はギラリと瞳を見開くと、辰馬の額を掴んで部屋の外に出た。
額を掴んだまま、辰馬の後頭部を壁に叩きつける。

「いたっ!アッハハハ。飲み過ぎたぜよ〜頭痛がしちゅう」

殺すつもりもなかったが、決して手加減したつもりもない。
それなのに、笑いながら痛いと言う辰馬に
神威は思わず笑みを零す。

「あれっ、やっぱ強いじゃん、アンタ」
「んん?おう、おんしは団長殿。アハハハ、こんなとこで何しとるんじゃ?」
「別に、何でも無いよ」
「わしゃ、ちくっと酔ってしもうて。洗面台借りたいんじゃが」

そう言って、性懲りもなく辰馬は高杉の眠る部屋を開けようとした。
神威の手がそれを阻む。

「この部屋は立ち入り禁止」
「何でじゃ?トイレじゃないの?」
「違うよ。ここは俺のプライベートルームさ。入ったら、殺すよ」
「ほうか〜。すまんかったのう。あ、それより
 わし、地球に立ち寄りたいんで、おんしらの舟で寄ってもらうって話になったき。
 わしの商船じゃ地球寄港の許可はおりんのじゃ。おんしらの海賊船なら、
 許可もクソもないじゃろ?じゃから、暫くわしと陸奥、船に厄介になるぜよ」
「ふ〜ん。ワクチンの交換条件かい?」
「おう、そのうちの一つじゃ」
「いいよ。別に。ごゆっくり。あ、トイレこっちね」

高杉の部屋から遠ざけるように、
神威はここから一番遠いトイレへ辰馬を案内した。
辰馬も礼を言いながら、さっき立ち入りを禁じられた部屋の事など
微塵も興味がないかのように、大人しく着いてきた。

所詮はバカの酔っ払いだ。そう甘く見ていた。




トイレで散々吐き散らかして、冷水を飲んだ辰馬は漸く頭が冴えてきた。
ぶつけられた後頭部を擦りながら、考え事に耽る。

「入ったら殺す」

会ってこの方、殺気と戦闘意欲以外の感情を一度も見せなかった
神威と言う男が見せた、怒りに似た感情が引っ掛かる。
あの部屋に、何が隠されていると言うのか。

商談を成立するのは尚早だと怒った陸奥の顔を思い出す。
陸奥は、自分の同族である彼らを信頼していないようだ。
だが、辰馬は「大事な人か?」と質問した時に、
神威が“大事”という言葉を反芻したあの表情を見て、
神威を信じてみる気になった。
確かに彼らは欲しい物は奪って手に入れるタイプなのだろうが、
このワクチンに対しては、そういうことはしないと思えた。
阿伏兎という男はそうでもなさそうだが、神威は本気でワクチンを手に入れ、
白詛に蝕まれたその誰かを治したいと願っている。
そう信じていた。

だが、確たる証拠は何もない。商人の直観だ。
それは陸奥を納得させるには、余りにも不確かな情報だ。
あの扉の奥に、それを確かにする何かがある気がしていた。

約束を破る真似も、コソ泥のような真似も好きではない。
だが、入ったら殺すと言われて、入りませんと約束した覚えはない。

立つ間は与えられた自室から抜け出すと、
こっそりとさっきの部屋へ向かった。

コソコソせず、堂々と廊下を歩いてさっきの部屋を目指す。
誰も自分をとがめなかったし、気にさえもしていなかった。

神威と阿伏兎に見付かると厄介だが、運良く二人には出くわさず、
神威が入るなと言った禁断の部屋に辿り着く。
施錠がなされているだろうかと心配していたが、
意外にも部屋はロックなく、見張る者もいない。
立ち入り禁止の部屋にしては、厳重さに欠けるどころか余りに無防備だ。

辰馬はドアを開けると、中に侵入した。
広いその部屋は、確かに神威の部屋の様で、
彼が脱ぎ散らかしたチャイナ服が放置されているし、ベッドもあった。

だが、それ以上に部屋を埋め尽くしていたのは、
仰々しい医療器具と大きな白いベッドだ。
そして、その中に横たわる人物を目にして、辰馬は驚愕する。

「た、か……すぎ?」


そんな筈はない。
跳ね上がった鼓動を抑えられないまま、辰馬はベッドに走り寄った。
眠っている白髪の男の顔を覗き込む。
黒髪は寒々しい白色に変わり、病衣を纏う身体は痩せてはいたが、
その男は間違いなく高杉晋助だった。

「まさか、高杉が白詛に……」

俄かには信じられなかった。
彼は、病気などで死ぬような男ではない。そう思っていた。

「高杉、おまん―…」

そっと手を伸ばして、頬に触れる。
ぞっとするほど冷たい体温に、一瞬死体かとさえ疑った。
腕に刺さったチューブが痛々しく感じられて胸が痛んだ。
辰馬は床に膝を着くと、身体を折り曲げて高杉に抱き着いた。
弱々しい呼吸が耳に触れる。確かに、生きてはいるようだ。

「どうしてお前がこんなことになっちゅう?」

問いかけが虚しく静寂の部屋に響く。
抱きしめる腕に力を入れて「起きてくれ、高杉」と切願する。
その時、投げ出されていた細い腕がぴくりと腕が動いた。
唇が薄く開き、微かな声が漏れる。

「ぎ……と、き?」

虚ろに開いた薄緑の目がじっと辰馬を見詰めた。
別の天パの名前を呼ぶなんて相変わらずつれない男だと苦笑しながらも、
久しぶりに聞く声に、嬉しさが込み上げる。

「銀時じゃなか。わしじゃ、坂本辰馬」
「さ、か……ああ、辰馬か。相変わらずのアホ面」
「酷いぜよ。でも、よかった。ちゃんと生きとったか……!」

満面の笑みを浮かべて、辰馬が高杉を抱き締めた。
遠慮のない腕の力に、高杉は端正な顔を顰めて不満を漏らす。

「てぇな……それに、重ぇ……」
「あ、スマン。つい。にしても、おまん、白詛がか?」
「見てわからねぇか。髪、真っ白だろうが。
 髪だけ白いなんて、どう見ても老化じゃねぇだろうが」
「そう、じゃな。銀時みたいな頭になっちょる」

辰馬のその言葉に高杉はクツクツと喉を鳴らす。
つられて笑う気にはなれず、辰馬はただ眉根を寄せて口の端だけ吊り上げた。

「辰馬、なんでお前がここに?」
「あ、ああ。ここの船長に白詛のワクチンの件で商談を申し込まれた。
 ほいで、それを受けた。神威、ちゅーたかの?
 あの男、おまんを助けるつもりじゃ。随分好かれちょるな、高杉」
「誘拐されて迷惑してんだよ。こっちは……」
「なんや、同意やないんか?」
「誰が好き好んで延命する?俺は……ゲホッ、ゴホッ!」
「高杉っ!?」

急に激しく咳き込みだした高杉に、辰馬は慌てた顔をする。
アタフタしながら、痩せて肋骨の浮いた胸をさすってやると、
高杉の咳はゆっくりしたものになり、収まっていった。

「大丈夫か?高杉」
「……あー、心配いらねぇ。とはいえねぇが、一応な」
「すまん、寝とらなあかんのに、話しかけたりして」
「いい。退屈してんだ。商談が済んだのに何故まだ居る?」
「ああ、商談の交換条件として、地球に連れて行ってもらう」
「地球……か」
「わしはよう知らんが、銀時、居らんくなったんじゃの。ヅラに聞いた」
「ああ、ヅラ、な。生きてるのか?」
「時々文、交わしとう。元気ぜよ」
「そうか。アイツ、お前と同じで昔から風邪ひかねぇ馬鹿だったからな」
「あはははっ、酷いのぅ」

辰馬が大声で笑うと、高杉も少し微笑む。
五年前の毒々しさは嘘のようになくなっていた。
相変わらず艶やかな顔だが、どこか儚い。
死神に首根っこを掴まれているようで、辰馬は不安だった。

ぎゅっと高杉の手を握ると、サングラスを外して彼を見詰める。

「死ぬな、高杉。おまんはわしが助ける。
 生きる気力を持つんじゃ。白詛なんぞにやられるな」
「……」

返事をしない高杉を、辰馬は強く抱き締めた。
その時、ふと背後に凶悪なほどの殺気を感じて、
辰馬は懐の銃を手に振り返った。
そこには、ドアに凭れたつつ神威の姿があった。
相変わらずニコニコと笑顔の無表情を貫いては居るが、
全身からは常人なら失神するほどの身の毛が弥立つ殺気を昇らせている。

「へえ、アンタ、シンスケの知り合いだったんだ」
「おう。昔、一緒に居ったことがあるぜよ」
「ふーん、お侍さんってわけ。でも、今は違うよね?
 そんなヘラヘラした成りして商売なんかしてるってことは
 シンスケとは合わなかったってわけだ
 今さらノコノコやって来て、気安くシンスケに触れないでくれる?」
「嫌じゃ言うたら?」
「生殺与奪を握ってるのは俺。だから、シンスケは俺のものだよ」

笑いながらゆっくりと神威は近付き、辰馬の腕を掴む。
骨が軋むほどの強い力。
神威の濃い青色の瞳はあまりにも真剣な怒りを湛えていた。
ちらりと高杉の方を伺うと、「離せ」と言いたげな顔をしていたので、
辰馬は握りしめていた高杉の手を放した。

「こりゃすまんのう。つい。許しとうせ」
「いいけど、今度やったら船からたたき出しちゃうぞ」
「アハハ、怖い怖い。じゃあ、邪魔したぜよ」

ヒラヒラ手を振ると、辰馬は大人しく部屋を出た。
ドアを閉める直前、さり気なく振り返ってみる。
高杉と神威はじっと見つめ合っていた。
自分の視線に気付かない神威は、目の前で高杉の唇を奪う。
獣が喰らい合う様な動物的で深いキス。

さっきまでは死人のようだった高杉の頬に朱が射し、
植物的だった雰囲気から一変して、欲に濡れた瞳を覗かせている。

辰馬は慌てて目を逸らすと、逃げるように部屋を出た。



部屋に戻ると、窮屈になったズボンを寛げて自身に触れる。
強烈なまでの色気に中てられたようだ。
先走りで滑る肉茎を慣れた手つきで擦り上げて欲望を吐き出した。

ぐったりとした身体をベッドに投げ出して天井を仰ぐ。

神威と高杉がどう知り合って、どういう関係かはわからない。
だが、神威が高杉を救いたい気持ちに偽りがない事を知った。
それも、戦って自分の手で殺す為なんかじゃない。
あの欲は、そういう殺伐とした種類のものではなかった。

「ははは、こりゃあ厄介じゃのう」

神威は恐らく、高杉に本気で焦がれている。
一方、高杉の感情はまったく読めなかったが、
少なくとも神威を憎んだり、嫌ったりしているわけではない。
だが、囚われた状況を良しと思ってはいなさそうだった。

「高杉連れ出したりしたら、本気で殺されそうじゃ」

夜兎の船から高杉を奪取するのはそうたやすくないだろう。
病状、戦力を考えても難しい。
それでも、もし高杉がこの真綿の籠城から逃げる事を望む
時がやってきたらと、辰馬は決心を固めた。

「にしても、さながら眠り姫じゃったなあ。
 戦場、先陣切って駈けとったおんしが、囚われの姫とは……」

たった五年。その間に、世界は大きく変わってしまった。
大事な友の二人が今消えようとしている。
いなくなったもう一人の友、銀時はどうしているのだろうか。

「銀時。はやく戻ってこんとわしが姫起こす王子になるぜよ」

一人ごちて、窓の外を見詰める。
近付いてきている青い星に思いを馳せ、辰馬は酒を煽った。











--あとがき----------

辰馬は度胸良し、実は頭も良し、腕っ節良しの最強キャラだと思います。
辰馬は精神的には銀さんよりも強いでしょうね。
そんな辰馬と高杉ですが、意外にも良い組み合わせな気がします。
ほのぼのしつつ、情熱も有りつつ。
とんでも展開ですが、話しはまだしばらく続きます。
楽しんで頂ければ幸いかと。