第一話 ―罠と脅迫―



白衣にピンクのカッターシャツ。
癖毛な天パの銀髪に咥え煙草、そしてどろりとしたやる気ない顔。
国語教師で3Z組のクラス担任の坂田銀八を、
高杉晋助はぼんやりと眺めていた。

眠たい授業。学校なんてこなくても、勉強は十分できる。
不良ながらも秀才の高杉は退屈そうに授業を受けていた。
謹慎処分から解放されて久しぶりに来た学校は、謹慎前と変わらず退屈だ。

前で教鞭を振るう銀八のやる気なさげな態度と
まとまりない適当感満載の授業に、高杉は欠伸を漏らした。

下ネタとセクハラすれすれの授業がようやく終わる。
あとはホームルームが終われば終了だ。
六限目の国語に引き続き、やる気なさげに銀八が喋り、
チャイムが鳴らないうちに「今日はここまで」と告げた。

高杉は荷物をまとめてさっさと帰ろうとしていた。
そこへ、やる気のない声で「ちょっと待て、高杉」と呼び止められる。

「あぁ?何か用かよ」
「用があるから呼び止めたんだろーが」
「何の用だ?」
「オマエ、謹慎明け早々の授業で欠伸してたろ?
 先生がありがたーい説教してやっから、今から居残りな」
「はっ、テメーこそ眠そうにしてたじゃねぇか」
「先生のは生まれつきなんだよ。気怠い顔してんだよ。そこが売りなの。
 おら、いちいち逆らわずに大人しくついて来なさい」

強引に腕を掴まれ、しょうがなく高杉は後をついていく。
銀八は保健室に入ると、注意深くドアや窓を閉めた。

「で、何の用だ?ククッ、ドアなんざ閉めて仰々しい」
「高杉、オマエな、喧嘩ばっかしてんじゃないよ。
 内申に響くぞ。せっかく成績いいんだからよ、生活態度に気をつけろ」
「そんなこと言う為に、わざわざ保健室まで?銀八センセ」

にこりと妖艶に笑う高杉に銀八は言葉を詰まらせる。
わざとらしく先生を強調する高杉を、小憎たらしそうに赤茶の瞳が見詰めた。
銀八は低く唸りながらがしがしと頭を掻くと、
溜息を吐きながら高杉に顔を近付ける。

「単刀直入に言う。高杉、この前盗ったものを返しなさい」

クツクツと高杉が笑いながら言う。「返さない」と。
分かりきった答えだが、銀八はまた深い溜息を吐いた。


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ことは数日前、高杉が喧嘩騒ぎで相手を病院送りにして
停学になった日の昼下がり。

授業がなかった銀八は3Z組の窓際から、
女子生徒が体育の授業で外を走っているのを見ていた。
ブルマ姿の下半身やら、走るたびに揺れる胸やらをじっと凝視していたのだ。
それもただ見ていたのではない。
誰も教室に居ないのをいいことに、
ズボンの前を寛げて、自分の性器を扱きながら女子の胸や尻やらを見ていた。

そこへ、足音も気配もなくやって来たのが高杉だった。

「教師がんなことしてていいのかよ。銀八先生」

生意気な声で高杉に声を掛けられ、銀八は肩を飛び上がらせて振り返った。
高杉が構えた携帯は撮影モードになっている。

「おまっ、それ何してんの?」
「別に。ヘンタイ教師の現場を押さえておこうかと思ってな」
「ちょ、返しなさいよ。そんなん撮ってどうしようっていうんだよ」
「どうもしねぇよ。じゃあな」

高杉は銀八が自慰する画像を保存して、帰って行ってしまった。


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「もう一回言うぞ。高杉、その画像を返しなさい」
「断る」

にっこりと笑う高杉に、銀八は困ったように俯いて後頭部をくしゃりと掻く。
愉快そうな目それを見詰めていた高杉だったが、
顔を上げた銀八の瞳が獣の様なぎらつきを宿しているのに気付き、僅かに息を飲んだ。
この目は不味いと思ってベッドから立ち上がろうとした瞬間、
ナマケモノの様なだるい顔からは想像できない程、
物凄い速さで銀八が自分に飛び掛かって来た。

「つっ、……かはっ!」

ベッドに強かに背中を打ちつけ、息が詰まった。
手首を一纏めにされて、ベッドに押し倒される。
銀八に腹の上に座られて、身体を起こせなかった。

「何しやが……むぐっ……!」

声を上げようとしたら、口を大きな掌で塞がれた。
口だけじゃない、鼻まで塞がれて息が苦しくなる。
苦しさに顔を歪める自分を、銀八は無機質な瞳で見下ろしていた。
いつもと違う、獰猛な瞳。赤い瞳が初めて恐ろしく思えた。
足をバタつかせても、腹に跨る銀八の背中を弱々しく
蹴るのが精一杯で、抵抗らしい抵抗などできなかった。

「あんま騒ぐなよー、いろいろ面倒だから」

気だるい声でそう言うと、銀八はネクタイをしゅるりと外した。
口や鼻を解放されて、高杉は大きく息を吸い込んで咽せる。
その間に、手首にネクタイが巻きつけられて、ベッドの柵に腕を縛り付けられた。

「何のつもりだ」
「悪い生徒にお仕置きを、と思ってね」
「なっ……!」

銀八が高杉の制服を脱がして、カッターシャツを乱暴に開いた。
ボタンが飛び、ワインレッドのシャツが肌蹴て白い肌が露わになる。

「うわ、いやらし〜身体付きだねぇ、オマエ」

好色な瞳が半裸状態の高杉を見降ろす。
節くれ立った温かな手に肌を弄られて、高杉はびくりと腰を跳ねさせる。
指が胸の突起をグリグリと押して、摘まんだ。

「ひぁっ!?」

唐突に与えられた刺激に、高杉の唇から悲鳴に似た声が漏れる。
自分の声が恥かしくて、高杉は頬を赤らめた。

「く、この、変態教師が、や…めろ」
「やめません〜。盗撮するような子には教育が必要だろ?」

きゅっと強く乳首を抓まれると、感じたことのない甘い痛みが身体を駈ける。
高杉は必死に声が漏れないように唇を噛みしめた。

「感じちゃってるの、高杉くーん。乳首コリッコリになっちゃってるよ」
「っは、あ くぅ」
「身体もピクピク反応してるし、
 不良で泣く子も黙る高杉がこんな可愛いとか皆が知ったらどう思うだろうね」

するりと銀八の手が脇腹を擦り、ズボンのベルトにかかる。

「ちょ、待てっ、何する気だ?」
「何って、ズボン脱がすんだけど。窮屈だろ?」
「やめっ、うあぁっ」

ズボンの上から既に固くなった股間を刺激されて高杉は仰け反った。
下着ごとズボンを一気にずり降ろすと、
銀八は高杉の肉棒を握り込んで擦り上げた。
その瞬間、身体を強い快感が駈け廻り高杉は大きく腰を跳ねさせる。

「ひぁぁっ、あぁっ やめっ!」
「おっ、その顔最高だね」
「あっ、テメ、何撮ってやがるんだ……っ!」

銀八は片手に持った携帯を高杉の方に向けていた。
撮られていると思うと恥かしくて、余計に変な気分になってくる。
容赦なく銀八の手が肉棒を扱く。
女みたいな悲鳴が漏れそうになるのを必死に噛み殺した。

「と、るなっ!やめろっ!」
「ほら見ろ、盗撮されるなんざ、気分いいもんじゃねぇだろ?」

意地悪く尋ねる銀八に、悔しかったが高杉は頷いた。
それで解放してもらえるなんて、甘い事を考えていた。
相手は先生だし、それほど酷い事をされるとも思ってなかったのかもしれない。
謝れば許してもらえると、心の何処かで簡単に考えていたのかもしれない。
でもそれは、本当に甘い思慮でしかなかった。

銀八は解ればいいと言う風に頷くと、ケータイを机に置いた。
しかし、それは録画モードのままだ。
あの角度なら、ベッドに居る自分も銀八もしっかり映っているだろう。

「ちょ、銀八、なんでまだ撮ってるんだよ?」
「いや、別に解ったらやめるなんて言ってないでしょ、俺」
「それでも先生か?生徒が謝ったら許すのが先生だろう?」
「何を甘い事を言ってんの?世の中な、謝って許してもらえること
 ばっかじゃねえんだよ。それを教えるのも教師の役目だろーが」

にっと銀八が笑った。初めて見るような凶悪な表情。
だが、その顔は紛れもなく何処かで見た事がある気がした。
銀八と出逢ったのはこの高校に来てからだ。
深く関わる様になったのは、彼が教師になった高校三年。
二カ月程しか経っていない。

考え事をしていたら、尻に激しい違和感を覚えた。

「ん……うぅ、なっ……!?」

下半身に目をやると、銀八が指で肛門の辺りを弄っていた。
指には自分が零した蜜が絡み付いている。
やらしくテラテラと光る指先が、菊座を擽った。
その指がゆっくりと体内に侵入して来る。

「いあっ?…なっ、いやだっ!」
「しおらしい表情も可愛いねえ。怖い?まあ、先生に任せとけって」

グニグニと内壁を刺激しながら銀八の指がナカに入って来る。
強烈な違和感と引き攣れるような痛みに、身体が強張った。
冗談じゃない。銀八に男色の趣味が、それもショタコンの嗜好があるとは
思わなかった。このままじゃ、本当にマズい。

「やめろっ、この馬鹿教師っ!俺に触んなっ!」

高杉が足をバタつかせて声を上げると、銀八は眉間に皺を寄せた。
慎重に動かしていた指をいきなりぐっと突っ込まれる。
二本に増えた指が入り口から奥をズコズコと行き来して、
妙な感覚が沸き起こってきた。
ぐりと、指が身体の奥にあったしこりを引っ掻いた。
その瞬間、頭が白くなりそうなほどの快感に貫かれた。

「ああぁあぁぁぁっっっ」
「おっ、前立腺に当たったみたいだな」
「ひぅっ、いあっ そこ、突くんじゃねえっ!」
「そんな事言っても、よがってるようにしか見えねえよ」

悪魔のように笑いながら銀八は激しく前立腺を擦り上げてきた。
あまりの気持ち良さに訳がわからなくなり、
恥かしいと思う間もなくあられもない声を上げて、快感に溺れる。
射精感が高まってきて、我慢できなかった。
情けない声を上げながら、はち切れそうなほど勃起した性器から白濁液を吹く。
ボタボタと腹に自分の精液が飛び散って、気色悪かった。
気持ち悪さもさることながら、
女のように穴を責めたてられてイったことがショックだった。
死にたい気持ちに駆られてぐったりしていると、
銀八がズボンの前を寛げ始める。

ずるりとグロテスクな太くて長い性器が目の前に晒された。
自分のとあまりにサイズが違い過ぎるそれに、高杉は言葉を失う。

「先生のがあんまりデカいんで驚いちゃった」
「……」
「言葉もでねぇか。期待通り、ぶっこんでやるからさ」
「なっ……」

サッと血の気が退くのが解った。
多分、今の自分を鏡で見たら真っ青で情けない顔をしているのだろう。
だが、強がる余裕などもうなかった。
逃げなければと、拘束された腕を軋ませながら暴れる。
素肌に巻き付いた布がすれて、手首が痛かったがかまっていられなかった。
ここで逃げないと、犯される。恐怖が胃の底から込み上げてきた。

「暴れるなよ、高杉。大人しくしろって」
「んぐっ……!?」

頬を手で包まれて、唇を奪われた。
巧みな動きの舌に口内を蹂躙されて身体から力が抜けていく。
その隙に、入り口に固くて熱い凶悪なモノが押し当てられた。

「んんんっ、んぅぅぅぅっ」

叫んだ言葉は銀八の唇に呑み込まれて消える。
冷たいローションを肛門にぶちまけられて背筋が冷えた。
ずるりとしたモノがゆっくりと体内に侵入して来る。
潤滑油で滑りがよくなっても、銀八の性器は大きく、
狭い肛門に入るには相当無理があった。
だが、銀八は器用に身体を動かしながら、
裂けないように慎重にナカに全てを埋め込んで来た。
腹を圧迫されるような異物感に、全身が震える。
解放された唇からは、恐怖が零れ落ちた。

「いや、だ。抜けっ、……ぬ、抜いてくれ、ぎんぱち」
「あー無理、途中でやめるとかできねえよ。
 俺、すごいテクだから天国が見れるぜ?楽しんどけよ」

腰を掴まれ、ガクガクと揺す振られる。
深い角度で抉られて、感じたことのない強い快感が込み上げる。

「ああっ、あっ あっ あぁぁっ」

律動する度に、甘い電流が身体を流れて喘ぎ声が漏れた。
突かれているうちにわけが解らなくなって、身体がもっと欲しいと
銀八の熱を求めて内部がヒクつき、腰が揺れる。
こんなの、俺じゃない。まるで制御の聞かなくなった身体が淫らに
快楽を求めていた。
銀八の広い背中に腕を廻す。筋肉質で逞しい背中。
温かな体温。熱に穿たれる感覚。一瞬どこか懐かしい気がした。
しがみついて肩口に顔を埋めると、男っぽく少し汗っぽい匂いがした。
その匂いもどこかで嗅いだ事があるという錯覚に溺れる。

「あっ、そんなに激しくされたら、イッ、ク……っ!」
「いいぜ、イッちまえよ、高杉」
「あぁぁっ、イクッ、あぁぁぁぁっっっ」

大きく痙攣すると、高杉は自分の顔まで精液を飛ばしながら達した。
銀八も狭まった高杉のナカに締め付けられてイキそうになり、
慌てて高杉の胎内から自身を抜いて、ティッシュに吐精した。
意識を飛ばしかけた高杉が、うわ言のようにポツリと名前を呼ぶ。

「ぎ、んと…きっ」

その名前にぴくりと銀八は眉を引き攣らせた。
気を失ってベッドに仰向けに倒れた高杉の身体を抱き寄せる。
涙の筋が残る頬に口付けると、銀八は耳元で「ごめんな」と囁いた。



ギラギラとした陽が窓から差し込んだ。
その強すぎる眩しさに高杉はゆっくり目を開ける。

白い天井、薬品の香り。
ゆっくり身体を起こすと、腰や足の付け根に酷い痛みを感じた。

「うっ……つっ」

痛みに顔を歪める高杉に、ペットボトルの水が投げ横される。
抜群の反射神経で高杉はそれをキャッチして顔を上げた。
煙草を咥えて銀八が気だるそうな顔でこちらを見ている。

「ぎ、……あ゛、ゴホッ」
「喋る前に水を飲め。喉、枯れてるだろ。それと寝転んでろ」
「……」

ぼんやりした頭で言われるままペットボトルの蓋を開ける。
握ったボトルの冷たさに頭がクリアになっていった。
水を飲もうとボトルを傾けたとき、さっきまでの出来事を全て思い出す。
途端に気持ち悪くなって、高杉は前のめりになって咽た。

「ゲホッ、おえっ うぐぅぁ」
「おいおい吐くなよ、ベッドのシーツ新しいのに替えたばっかなんだから。
 大丈夫だよ、ナカには出してねぇし、腹下したりしねぇからよ
 吐くくらい体調が悪くなる要素なんてねーだろ。痛むかもしれねぇけど」
「て、めぇ……っ!」

ギロリと隻眼が銀八を睨んだ。
高杉は銀八に飛び掛かると胸倉を掴んで殴りかかった。
銀八は愉快そうに唇の端を吊り上げると、ケータイをひらひらと翳す。

「暴力禁止だ。職業上、顔に痣とかまじぃからよ」
「ざけんじゃねぇっ!……つっ!」
「おら、暴れんなって。腰が痛むんだろう。
 無理ねえよ。童貞……ではなさそうだけど、バージンだったろ?」

銀八の言葉にカッと頬が熱くなった。

「馬鹿にしてんのか、てめぇ」
「してない、してない。高杉は美形だからねぇ。
 ちっちゃいし、ケツ狙われてたって可笑しくねぇだろ。まあ、
 強いから襲われても返り討ちにできるわな。いや〜処女、美味しく頂きました」
「くっ、この……!」
「だーかーら、拳振り上げんな。なあ、高杉、
 俺にヤられちゃってるトコ、ばっちり撮らせてもらったぜ。
 ばらまかれたくなきゃ、ちょっと利口にしとけよ。
 俺の気が済んだら、ちゃーんと返してやるからさ。ね、それまで
 俺の言う事聞いとけって。難しいお願いなんてしねえからよ。安心しな」

外道な台詞を平気で吐く銀八を高杉が睨む。
だが、諦めたように銀八の胸倉から手を離して、乱れた衣服を整え出した。
制服を着て、痛みをこらえながらベッドから立ち上がる。

「言う事って、何だよ。何をさせようってんだ?」
「一つは簡単な事だ。ちゃんと教室へこい。
  頭良くても、日数足りなきゃ卒業できねぇからな。いいな?」
「……フン、脅迫で生徒を出席させるたぁ、とんだ不良教師もいたもんだ。
 まあ、いい。その命令は聞いてやるよ」
「それが賢明だぜ」

銀八に背を向けて、高杉はドアへ向かう。
まともに歩けないほど、全身が痛んだ。

「無理すんな、高杉。先生が家まで送ってやるよ」
「いらねーよ」
「あ、そ。かわいくねー奴」

振り返ることなく、高杉は保健室を出た。
早足で保健室から離れると、下足室へ向かう。
下駄箱に凭れると、高杉はそのままずるずると座りこんだ。
膝を抱え、顔を埋める。
嗚咽が込み上げるのを堪えて、高杉は一人、唇を噛みしめた。









--あとがき----------

銀八先生は悪い大人なイメージです。
高校生高杉は、攘夷高杉よりは汚れてますが、
大人高杉よりは純粋なイメージで書いています。
銀八先生はギャグの筈ですが、私はドシリアスと恋愛よりで書く予定。
後々には神威も出てきます。