第六話 ―仕置き―


 

雀がかしましく鳴いている。
柔らかな朝の陽射しが降り注ぐ中、高杉は重い足取りで学校へ向かっていた。
昨日の放課後、保健室でのことを思い出して高杉は俯いた。

“オマエさ、土方のこと好きなわけ?”

そう言った時の銀八の表情は凍えるように冷たかった。
表情と反対に赤い瞳にはギラギラと煮え立つような激情が揺らいでいて、
怖いと、そう思った。
銀八は怒っているように見えた。でも、一体何に怒っていたのだろうか。
乱暴にしたり、優しくしたり―…

銀八が何を考えているのか全く分からない。どうしたいのかも解らない。
どうして、自分が彼の攻撃の矢面に立たされているのかも、解らない。

すべては、自分が銀八を盗撮したことから始まった。
だとすると自業自得なのかもしれない。
だが、強姦されて身体を蹂躙し尽くされるほどの罪を犯した覚えはない。


この状況から逃げ出す事は出来る。
だが、逃げ出すには自分の痴態を周囲に晒す覚悟がいる。
知られたくない。あんな弱々しくて女々しい自分を誰にも知られたくない。
銀八に初めて犯された時の動画が周囲の目に触れるくらいなら、
どんなことでも耐えられる。
たとえ、銀八に身体をしゃぶりつくされても、耐えてみせる。

もとより大層な人間じゃない。片目のない欠陥品の身体だ。
今更汚された所で、誰も悲しまない。ただ、自分が苦しいだけだ。

それならば、苦しみに耐えてでも矜持を守ってみせる。
誰にも弱みなど見せはしない。


高杉はぐっと拳を握った。前を見据えて胸を張って校門をくぐる。
しんと静まり返った校内に人の気配は無い。
無理もない。まだ朝の七時だ。こんな時間に学校にいる勤勉な奴なんていない。
朝練さえも始まっていない様な時間だ。

高杉は国語準備室に来ると、ノックせずにドアを開けた。

「おはよ、高杉」

準備室のソファに深く腰を掛けた銀八が笑いながら手を上げる。
高杉が部屋の中に入っていくと、銀八はゆっくり立ち上がって準備室に鍵を掛けた。
逃げ場のない密閉空間。閉ざされたカーテンからは朝陽が透けている。
暗くは無いが、閉塞感を覚えて高杉は胸の辺りのシャツを握り締めた。
鼓動が高まる。血が勢いよく全身をかけめぐる。
それが恐怖なのか興奮なのか、高杉は自分でもよくわからなった。

「こんな時間に呼び出して何の用だ?銀八」
「先生をつけろ、先生を。ん〜、まあちょっとねー……」

ずいっと銀八が距離を詰めてくる。
威圧感を放つ銀八に足が竦んで動けずにいると、手首を掴まれた。
そのままソファに引き摺り倒される。
足と足の間に身体を割り入れられて、銀八に圧し掛かられた。
慌てて高杉は抵抗しようとするが、身体を密着させられて上手く抵抗できない。
ヘロヘロそうに見える銀八は意外にも逞しく、
胸筋は分厚いし、腕にも筋肉が付いていて、腹筋は割れている。
ずしりと体重を乗せられると息苦しさを覚えた。

「んっ……!」

銀八の節くれ立った手が腰を弄りながらシャツの中に滑り込んでくる。
敏感な腰骨辺りを撫でられて、高杉は思わず甘い吐息を零した。
銀八の手が腰を探りながら胸に這いあがって来る。
胸の突起をきゅっと強く抓まれると、
ぴりっと電流に似た刺激が身体を走り、下半身がじくりと疼いた。

「あ……っぁ ひぅ」
「高杉クン、乳首コリッコリに勃っちゃってるよ。敏感だなぁ、オマエ」
「はぅ、ぁっ、るせっ やめろ!朝っぱらから盛んなっ!」
「ムリムリ。先生は男盛りだからさ、朝から元気なワケ」

銀八が高杉の手を掴んで、おもむろに自分の股間を握らせた。
すでに固くなって主張しているそれに高杉はゴクリと唾を飲む。

「やめろ、抱かれる気なんざねえよ」
「あっそ。本当に?」

悪魔の様な目がじっと瞳を覗き込んできた。
心を見透かそうとする赤い瞳から逃げるように高杉は瞳を逸らす。

銀八は左手で乳首をこねくりまわしながら、もう片方の乳首を口に含む。
カリッと歯で少し乱暴に噛まれ、強い刺激を与えられたかと思うと、
今度は舌先で優しく固くなった粒を転がされ、もどかしい快感を与えてくる。
巧みな愛撫に高杉は早くも息を上げた。

「んっ……あっ あぅ やめっ」

愛撫に翻弄されて身を捩る高杉を、銀時の淫靡な瞳が見下ろす。
その視線にさえ犯されているような気がして、高杉は顔を赤らめた。

朝から犯されるなんて冗談じゃない。
そう思うけど、与えられる快楽に身体が従順に反応していた。
下半身が甘く疼き、熱を求めている。
濡れた先っぽが下着と擦れ合って、妙な気分が沸いてくる。
太腿をもぞもぞとさせ、高杉は銀八に与えられる快楽に悶えた。

「あっ ふ くぅぅっ」

銀八は右手をズボンに滑り込ませて、下着ごと性器を握り込んで来た。
先走りで湿った下着で滑りがよくなって、
銀八の手が動く度に快感が沸き起こる。
もっと欲しいと、身体が勝手に浅ましく腰を揺らしていた。

「あぁぁっ、 いぁっ も、いやだっ!」

このまま続けられたら、自分から足を開いてしまいそうで怖かった。
快感に流されそうになる理性を必死に押し留めて、高杉は拒否を口にする。
そんな高杉に対して、銀八は嘲笑めいた笑みを浮かべた。

「やめてやってもいいけどさ、欲しいんじゃねえの?」
「なに、をっ。いるわけねえだろっ!」
「痩せ我慢すんなよ。認めちまえよ、オマエは俺のアレが好きなんだよ」

下卑た笑みを浮かべながら、銀八は高杉の顔に自分の股間を押し宛てた。
チャックを開けてずるりと雄を取り出すと、高杉の頬に擦り付ける。
青臭く雄臭い匂いに高杉は顔を顰めた。
銀八は気にせずに、高杉の唇を亀頭でグリグリと撫でた。

「しゃぶれよ、高杉」
「……いやだ」
「勃起させねえと挿れてやらねえぞ」
「汚ない。そんなモン口にしたら二度と飯が食えなくなる」
「フン、可愛くねえヤツ」

不機嫌な顔になった銀八に高杉はギクリとしたが、
それでも口を開いて銀八の雄を咥えようとはしなかった。
服従するなんて真っ平だった。
何が勃起させろ、だ。とっくにおっ勃ててる癖に。内心で高杉は毒づく。

銀八は諦めたように溜息を吐くと、いきなりアナルに指を突きいれてきた。
すでに緩んでいた中を指でぐちゃぐちゃと掻き乱される。
脳内麻薬が分泌され、頭の芯がどろどろに蕩ける。

「ぁぁっ うぁ そこっ ぃぁ」

態ともどかしく動く指に耐えかねて、高杉は自ら腰を揺らした。
その姿に、銀八が唇の端を吊り上げて笑う。

「すっかり好きモンになっちまって。淫乱だな、高杉」

揶揄する様な銀八の声に、高杉は冷水を浴びせられたような気がした。
淫靡な声を上げて浅ましく快楽を求める自分に愕然とする。
こんなヤツのいいようにされて、自分は何を求めているのだろうか。

「そろそろ欲しくなってきただろ。言ってみ?俺のチンポが欲しいですってよぉ」
「……」
「どうした?高杉。おねだり、できるだろ?」
「だ、れが……いる、かよ」

冷たい声で高杉が吐き捨てると、ぴたりと銀八の指の動きが止まった。
赤い双眸が冷たく自分を見下ろしている。
怖い。ガラにも無くそう思ったが、高杉はキッと銀八を睨み返す。

「俺に、触るな」
「ふ〜ん。そう。じゃあ、これにしよっか」

悪魔の様に嗤いながら銀八はピンク色のローターを目の前に見せた。
知識ぐらいはあるからそれがなにか知っているが、本物を見るのは初めてだった。
高杉は銀八がちらつかせたそれに、ビクリと震える。
あんなものを自分に使う気だろうか。冗談じゃない。
高杉は慌てて逃げ出そうとした。だが銀八にソファにうつ伏せに寝かされ、
背中にどしりと座られた。

「や、めろっ!はなせっ!」
「足、ジタバタさせんなよ。危ねえなぁ。大人しくしてろって」

尻を左右に開かれて、入り口をパクリと晒させられる。
そこに無機質なスベスベした物体があてがわれた。
愛液に塗れたソコは卵型のローターを簡単に飲み込んだ。

「うぁっ いやだっ ぬけっ!」
「嫌ですー。お仕置きだからな」
「お、しおき、だと?」
「土方君と無防備に二人っきりになったお仕置き。
 男ってのは狼だっての、もう一度解らせてやる必要があるだろ?」
「ヒッ、いぁぁぁぁっっ!」

前立腺に当たったローターがブブブと細かく振動した。
振動で前立腺をマッサージされ、高杉は全身をびくつかせて喘ぐ。

「あぅっ あひぃっ いぁっ とめろっ!」
「ビクビクして気持ち良さそうじゃねえか。気に入った?」

衝撃的な程の快感に頭がぐちゃぐちゃになって、まともに喋れない。
激しく頭を振って、高杉は嫌だと銀八に訴える。
だが、金八は意地悪な笑みを浮かべたまま、愉しそうに高杉を見下ろしていた。

「今日の授業は、これ挿れたまま出てもらうから」
「なっ!?じょ、冗談だろ?」
「冗談じゃねえよ。今日は体育もねえし、丁度いいじゃねえか。
 まあ、さすがに可哀相だから強さは今は中だけど、弱にしといてあげる」
「ひぁっ、 む、ムリだっ!やめろ!」
「懇願してもダメ。俺のモノぶっ込むだけで赦そうと思ったけど、
 フェラも嫌がられたし、いらないとか触るなって言われたからこっちにしたんだぜ?
 安心しろよ。電池はせいぜい4〜5時間くらいだから。午前中だけだよ」
「いやだっ!フェラでも、なんでもするから、今すぐこれを抜けっ!」
「嫌だね」

笑いながら、銀八は強に切り替えた。
凶悪な振動が前立腺をゴリゴリと刺激して、高杉は陸の魚の様にビクビクと
全身を痙攣させ、口から涎を垂らして喘いだ。

「あひぁぃぃっっ いあ゛っ イクッ、 イクゥゥッ!」

びくんと大きく痙攣すると、高杉は勢いよく射精した。
それでも止まらない振動に、再びペニスが勃起して射精感が込み上げる。

「や゛めろっ ああぁぁぁぁっ、しぬぅっ!」
「あ〜ごめん、ごめん。さすがに刺激が強すぎたよな。ワリィ高杉」

クツクツと笑いながら、銀八はスイッチを弱に切り替えた。
さっきと打って変わって、弱い振動がむず痒いようなじれったい快感。
身体が可笑しくなりそうだった。
抵抗する気力もなく、ぐったりと高杉はソファに倒れたまま動かなかった。
銀八の手がさらりと高杉の髪を撫で、厚ぼったい唇が頬にキスを落とす。
その手も、唇も、酷く優しくて高杉は戸惑った。
頭を撫でながら、銀八が優しく甘く囁く。

「勝手に抜いたりしたら……わかってるよな、高杉」
「あ……あぁ」
「いい子だ。あと、土方と万斉とイチャついてもダメ。許さない。
 高杉が悪い子だと、罰でローターの強さいじるからな。
 それ、リモコンで強弱変えれるからさ。じゃあ、昼休みにまたここへ来いよ」

力なく高杉が頷くと、満足したように銀八が頷く。
銀八は濡らしたタオルで高杉の汚れた下半身を拭いて、パンツを穿かせた。
カッターシャツの乱れを整えると、高杉はどんよりした足取りで準備室を出た。



ざわめく校庭。生徒達が次々と登校して来る。

高杉は自分の席に座ってぼんやりと校庭を見ていた。
身体に埋め込まれた異物が苦痛にも似た緩い快楽を与え続けている。
誰にもばれないようにしなければ。
そんな強迫観念に駆られて思わず身体に力が入る。

「よう、高杉。おはよう」

朝練を終えた土方が最初に教室に入ってきた。
クラスメートに挨拶されたのは初めてで、少しくすぐったい気分だった。
高杉は肩の力をぬいて、土方の方に顔を向けると、
「おう」と軽く手を上げて短く返事した。

「昨日は、悪かったな。頭にこぶとかできなかったか?」

土方は自分に近付いてくると、前の席に座って話し始めた。
覗き込んでくる藍色の瞳が心配そうな色をしていた。

「ああ……平気だ。なんともねーよ」
「そうか、よかった」
「風紀委員が不良の心配たぁ、お優しいこって。物好きだな、おめぇ」

ふっと笑うと、土方が顔を真っ赤にしてうろたえる。
からかわれたのが恥かしかったのか、それとも余りに初心過ぎて、
妖艶な笑み(自分ではそうは思わないが、万斉いわく妖艶らしい)に
惑わされてしまったのか。
一人で赤くなる土方に高杉はクツクツと笑い声を上げた。

「なっ、何が可笑しいんだ?」
「別に……」
「気になんだろ?言えよ、どうして笑ってんだよ?」
「いや、おめぇが顔を赤くてうろたえたような表情をするから。
 つい、可笑しくてな。どうした?女にモテモテのクールな男
 同じく男の俺に惑わされちまったか?んなわけねえよなぁ。フハハ」

からかったつもりが、土方はぐっと言葉に詰まった。
まるで図星だと言わんばかりの表情。キョトンとして高杉は土方を見詰める。

「た、たかすぎ。オレは、その……」

土方が何か言おうとした時、教室の扉が開いた。入ってきたのは、万斉だ。
万斉はチラリとこちらを見ると、ズンズンと近付いてきた。
土方に対抗するように自分の隣りの席に万斉が座る。

「おはよう、晋助」
「万斉。珍しく早ぇじゃねえか」
「晋助こそ。ぬしがこんな時間に来ているとは思わなかったでござるよ。
 ん?今日は髪が少し乱れ気味だな。どうした?」

万斉の長い指が気安く高杉の細い髪に触れた。
じとりとした土方の藍色の瞳が、それを見る。
万斉は素知らぬ顔で高杉の髪を手櫛で器用に整え始めた。

「くすぐってーよ、万斉」
「いいからじっとしていろ、晋助」

少し鬱陶しそうな顔をしても万斉はお構いなしで髪を撫でる。
万斉は涼しげな顔をしているが中身は頑固だ。
絶対にこうと決めたら引かない。
すごく嫌な訳じゃなかったので好きなようにさせてると、
様子を見ていた土方が文句を言った。

「嫌がってんだから止めてやれよ、河上」

土方の言葉に、万斉がピクリと眉を動かした。
無口で、基本的に興味のない相手の言葉は無視してしまう万斉が、
珍しく口を開いた。

「ほう、晋助が嫌がっていると申すか?」
「当たり前だろーが。髪触られたら、誰だって嫌だろ」
「果してそうでござるかな。嫌いな奴に無遠慮に触れられれば確かに
 嫌悪も感じるが、好きな奴に触れれると嬉しい。
 髪を触るというの事態が問題なのではない。誰が触るかが問題でござるよ」
「なんだ?じゃあテメーは高杉がテメーを好きだから、
 テメーに触れられても嫌がってねえっていいてるのか?」
「さて、な。一つ言えるのはぬしよりは拙者の方が晋助に近いということだ」
「なんだと?」
「風紀委員など、不良の晋助とはもはや対極の位置でござるよ」
「そんなことねーよ!」

土方と万斉が言い争っていると、気だるげな声が聞こえてきた。

「おい、てめーら。朝っぱらから男が男取り合ってんなよー。
 土方、河上。お前らもしかして二人揃ってホモですかこのヤロー」

茫洋とした声に高杉はハッと顔を上げる。
ホームルームにはまだ時間があると言うのに、いつの間にか
生徒に混じって銀八が教室に居た。
表情とは真逆で、こちらを見る紅の瞳は限りなく辛辣な色をしている。

まずい。高杉がそう思った瞬間、強い刺激が下半身から突き上げる。

「……ぃっぅ!」

喘ぎ声こそ漏れなかったが、間抜けな声が口から漏れた。
羞恥心と快楽が沸き起こり、高杉の白い頬に朱が差した。

「どうした?晋助……」

万斉が怪訝そうに顔を覗き込んでくる。
サングラスの下の瞳から逃れるように、高杉は顔を伏せた。
誤魔化すように「早くきたから眠ぃ」と呟き、そのまま机に突っ伏する。
心配そうに万斉が背中を揺すったが、無視し続けた。
土方も「具合が悪ぃのか?」と尋ねてきたが、応える余裕などなかった。

弱から中に切り替わったローターが敏感な部分をくすぐるように細かく振動する。
こんなところで恥を掻きたくない。
万斉や土方、クラスの連中に玩具を突っ込まれていることが知れたらと思うと、
背筋に冷や水を浴びせられたようにゾッとした。
それに比例するように、快感が強くなる。
身体が震えそうになるのを堪え、歯を喰いしばって高杉は必死に声を押さえた。

拒否する様な態度に、万斉と土方は諦めたように離れていった。
だがまだ粘ついた視線が一つ背中に絡み付いている。
銀八の視線だとすぐにわかった。
悶えそうになるのを必死に堪える自分を、いやらしい視線が犯す。
髪の隙間からちらりと銀八を見ると、にやついた変態面をしていた。

チャイムが鳴ってホームルームが始まった。
快感を必死に堪えて、机に倒れ込んだまま高杉はぼんやりとしていた。
その時、出欠を取り始めた銀八に名前を呼ばれる。
声なんて出したら、絶対にみっともない声が出る。
高杉は聞こえないふりをしていた。すると、もう一度名前を呼ばれる。

「たぁかすぅぎクーン。いるだろー、返事しなさーい」
「……」
「高杉晋助。いい加減に返事しないと先生怒っちゃうよ〜」

口調はあくまでおちゃらけた軽い口調だった。
だが、その声は僅かだがドスがきいていて、明らかに脅しの色を含んでいた。
高杉は顔を上げると、喘ぎそうになるのを必死に堪えながら声を出す。

「は……いっ」

吐息交じりの声だったが、何とか嬌声を上げずに済んだ。
万斉がいつもと違う自分の様子に気付き、心配そうにこっちを見ている。
高杉はその瞳から逃れるように窓の外を見詰めた。
ローターはいつの間にか弱に切り替わり、身体が少し楽になった。
これならなんとか乗り切れそうだと高杉はホッとする。

ホームルームが終わり、銀八が教卓を離れた。
そのまま教室から出て行くかに思われた銀八は途中で向きをかえて、
ゆっくりと高杉の方に向かって歩いてきた。

大きな掌がくしゃりと頭を撫でる。高杉の耳元に銀八の唇が寄せされた。
吐息が耳に当たり、くすぐったさにピクリと高杉は肩を跳ねさせる。
息を吹き込むように、甘い甘い毒の様な低い声で銀八が囁く。

「高杉。授業はちゃんと受けろよ。
 保健室に逃げ込んだり、寝てばっかいたら……わかるよな?」

優しい声だったが、高杉はゾッとした。
無言でコクリと高杉は頷くより他なかった。
首を縦に振った高杉に満足そうに笑うと、銀八は教室を出て行った。











--あとがき----------