第二話 ―歪んだ視界―



根元に施された戒めを解かれないまま与え続けられる快感。
気が狂いそうになりながらも、
幸村はなけなしの理性を何とか保ち、服従する事を拒否し続けた。

「うあっ、も、やめろ……」
「へえ、まだまだ強気の言葉が出て来るね。
 流石は旦那。ホント、その意志の強さは尊敬するよ」
「あ、くっ」
「まあでも、そろそろココへの刺激も飽きてきたよね」

不意に佐助が幸村の陰茎から手を離した。
高ぶらされたまま急に快感を遠ざけられた事に幸村はぶるりと震えた。
刺激を与えられなくなった事にホッとした一方で、
その事を物足りなく思った浅ましい自分がいる事に気付き、泣きたくなった。

幸村の心を見抜いたように佐助は深く笑んだ。

「そう焦らなくても、すぐに次の快感をあげるよ」

長い指がつっとM字開脚状態の白い幸村の太腿を辿る。
這い上がってくるような快感にゾクゾクと背が震えた。
佐助と何度か繋がった事のある幸村の入り口がヒクヒクと痙攣し、
快楽を待ち侘びている事を示した。
もったいぶるように皺を指でなぞると、
佐助はゆっくりとナカの襞の形を確かめる様に指を埋めた。

「くっ、あっ あぁ……」
「縛られちゃって興奮した?もうナカもトロトロだよ」
「やぁっ、そんな…こ、と、あるかっ!」
「口では否定しても身体は正直だね」

指をナカでくの字に曲げると、ゆっくりと壁を引っ掻いた。
ムズムズするような感覚が込み上げて来て、幸村は爪先をピンと伸ばして
悶える様に全身を震わせた。

「あふっ、やだぁ。さすけぇっ」

身体を紐で拘束されていて逃れられないまま、
佐助の指が己の胎内で蠢き回る圧迫感と異物感に幸村はただ震えた。
気持ち悪さや恐怖感だけでは無い。
そこには確かに快感と呼べる感覚が有り、
こんな状況でもそれを貪ろうとしている己に酷く落胆した。

いくら高ぶらされようと、性器を戒められてイク事ができないのに、
これ以上の快感は苦痛さえ伴うと言うのに。

(駄目だ。頭が可笑しくなる……)

喘ぎ乱れながらも僅かに残った理性でそう感じた。
このまま佐助に狂わされるのも悪くないかもしれない―…
一瞬擡げた欲望に幸村は激しく頭を振る。

「ねえ旦那、さっき何を考えたの?」

指の動きを止め、佐助が幸村の顔を覗き込んだ。
自分の醜い欲が知れるのが嫌で、幸村はふいと顔を背けた。

「何も考えてなど、おらぬ……」
「ふ〜ん、俺様には言えない事。ま、いいや」

一瞬、色素の薄い目に宿ったのは一縷の淋しさだった気がした。
自分を蔑み、怒っているとばかり思っていた佐助の別の色に幸村は眉根を寄せる。
佐助の心を知ろうと言葉を紡ごうとした。
だが、また動き出した佐助の指に阻まれ、口からは嬌声が漏れただけだった。

「あぐっ、うあっ!」

急に二本に増やされ内部の圧迫感が強くなった。
無理矢理引き入れられた指に、幸村の声に少し苦痛の色が混じる。
だが、佐助はそれに構うことなく、ぐいぐいとまだ解ぐれきれてない胎内を
激しく指で責め立てる。

「ああ゛っ、いぅっ」

普段は優しく呆れるくらい丁寧な佐助の乱暴な行為に涙が零れた。
佐助らしからぬ無体を強いるようなやり方に勃起してた性器が元気を失くした。
だが、一瞬萎えかけた性器も、佐助の指が前立腺を突き上げると
また熱を持ち、天を仰ぐ。

「あぁぁっ、はうっ、あぅぁ」
「気持ちイイでしょ。旦那、ここ好きだもんね」

仰け反って喉を曝け出し、背を弓なりにする幸村に佐助は嬉しそうに顔を歪めた。
二本の指でゴリゴリと容赦なく前立腺を責めると
陸に打ち上げられた魚の様に幸村はビクビクと全身を痙攣さえて悶える。

「やめっ ああぁっ、それ以上はやめろっ、あひぃ」
「まだまだダメ。もっと、感じてみせてよ」
「はぁっ、あぐぅっ、ひぁぁっ」

開きっぱなしの口からは絶えず喘ぎ声が漏れ、
性器は怒張して透明な蜜をだらだらとだらしなく零している。
達せない苦しみと激しい快感に頭がドロドロに融けてしまいそうだった。
掻き乱される胎内には腸液が滲み出し、
女のソコほどではないが滑りがよくなる程に潤っている。

「ああぁっ、さ、すけぇっ、イカせてくれぇっ、ひっく、うぅっ」

ボロボロと涙を溢れさせて、恥も外聞も捨てて幸村は佐助に訴えた。
その言葉に佐助は不意に指を引き抜く。
中途半端に放り出された穴が物欲し気にヒクヒクと開閉を繰り返した。
その様子に煽られる様に佐助は自身の袴と下帯びを脱ぎ棄てた。

「ねえ見て、旦那。旦那があんまり可愛いから 
 俺様まで熱くなって来ちゃった。ね、もういいよね?」

欲に滲んだ瞳で見上げて来る佐助に幸村はドキリとした。
ゴクリと思わず涎を呑み込み、強請る様な瞳で佐助を見詰めた。
それに誘われるように、佐助は幸村の唇を乱暴に奪って舌を絡めると、
熱い胎内にすでに硬度を増して熱を持つ楔を一気に埋め込んだ。

「ひぅぅぅぅぅっ!!」
「あっ、く、だ、んな…だんなっ」

足先をビクンビクンと痙攣さえ、胎内を貫いた質量に
幸村は口をパクパクさせた。
幸村の柔らかな太腿をぐっと掴むと、腰骨がぶつかり合う程激しく
腰を打ち付けて佐助は幸村の胎内を掻き乱した。

「あっ、あっ、あぁぁっ」
「すごい締め付け。いいよ、旦那。最高に気持ちイイ」
「うぅっ、あぅっ ああぁぁっ」

容赦なくがつがつと突き上げられ、快感の波に呑まれていく。
抱き付きたいと思ったが手を拘束され、叶わない。
どうしてこんな抱き方をするのか、悲しくて泣き出しそうになった。
射精を抑止され、はち切れそうな程膨れた性器は佐助の腹と
自分の腹の間で擦り上げられ、更に膨張し固くなっている。

「はぁぁっ、さ、すけっ、たのむぅっ、も、ムリィッ」
「まだまだイケるでしょ?もっと俺様を感じよ」
「あぐぅ、キツイ、も、解いてくれ」
「解く?あ、あ。摩羅のそれ、ね」

二人の間
で可哀そうなほど脹れあがっている幸村の摩羅に目を
やると、佐助は根元の紐に手を掛けた。

「流石にそろそろ苦しいよね。いいよ、出しなよ旦那」

シュルリと紐を解いた瞬間、ビュクッと勢いよく白濁液が
飛び出して二人の腹を濡らした。
勢いがよかった所為か、幸村の顔にまで精液が飛んで嫌らしく頬を濡らす。

「あぁぁぁっ、出るっ、でるぅっ!!」

漸く解放され射精できる快感に幸村は全身を震わせる。
曝け出された喉に佐助はカリッと歯を立てる。
顔に飛んだ精液を舌で絡めとり、美味そうに嚥下した。
射精の快感にぐったりと幸村は全身の力を抜いた

「大量に出たね。でも、まだまだ赦さないよ」

そう言うと、止めていた腰の動きを再開さえ、
自分の思うまま佐助は幸村を貪った。
嫌らしい水音が部屋に響き、二人の吐息と喘ぎ声が絶え間なく聞こえた。

泣きじゃくり「もうやめてくれ」と懇願する幸村に構わず、
佐助は激しく腰を打ちつけ続けた。
何度も射精させられても果てることを許されず、
軽く頬を叩いて飛ばし掛けた意識を呼びもどされる。

「いぅぅっ、やめっ、ゆるっ、ゆるしてくれさすけぇっ!」
「くっ、旦那ァ、いいよ。すごい締め付け」
「はあぁっ、あひぃっ、あぁぁぁっ」

繰り返し同じ体制で縛られたまま抱かれ続け、
十数回イカされた頃に漸く幸村は解放された。
いや、解放せざるを得ない状況だった。

傷を受けていて体力の落ちた身体ではそれ以上の挿入に耐えきれず、
とうとう白目を向いて失神してしまった。
頬を軽く湛えてももう反応は無かった。
内腿が激しく痙攣し、全身から力が抜けきっている。


「旦那……」

罪悪感が苛んだ。
だが、幸村を死なせたくないという思いが佐助を縛り付けていた。
そっと瞳を閉じさせて涙を舌で優しく拭うと脚の拘束を解き、
胸の前で手を親指への指錠で拘束した。
逃れられないように足首も縛り上げた。

「ごめんね、旦那―…でも、もう引き返せない……」

嫌われただろう。そう思うと辛かったが恋仲になれる間柄じゃない。
こんな事をしてしまった以上、主従でも居られない。
優しい幸村は今まで共に戦ったものを手討ちにするなどという事は
多分しないだろうが、追放されることは間違いなかった。
それならそれで、別の主を見つければいいだろう。
だが、今はもう、幸村以外の下で仕える気などなかった。
いつの間にか、居場所になっていた。
その居場所を失くしたら、もう何処にも行けない。

ぎゅっと幸村を抱締めると、細い肩に顔を埋めた。
自分と幸村自身の精液に塗れた傷だらけの身体に目頭が熱くなった。
頬を何か冷たいものが流れ落ちていく。

つっと頬を伝ったのが、涙だと信じたくない。
自分には最初から涙などない。獣の身なのだと思っていたしそうありたかった。


光を喪う事を恐れ、自分で居場所をぐちゃぐちゃに穢した癖に、
それでもまだその光の在り処に縋り付いている。

背反し、歪み切った感情に流されるままに―…


(簡単だよ。こうやって縛っておけば、俺の手元から消えない―…)


不器用に微笑むとまだ涙の痕が残った頬に口付けた。
お湯を汲んで来て幸村の身体を綺麗に清め、
そっと布団を掛けると佐助は部屋を後にした。








--あとがき----------

佐助は自分の闇を制しているけど、
ときどきこうやって闇に翻弄されている気がしますね。
それもこれも幸村が好きすぎるせいです。
告白はしません。忍である自分には分不相応と思ってます。
もうちょっと話が続きます。最終的にどうなるのか、
なるべくハッピーエンドがいいと思いますね。