第四話  ―揺らぐもの―


熱に溺れて全てがうやむやになっていく。
犯す様に抱かれて恐怖を感じたのは一瞬で、
いつもより濃い佐助の匂いと、身体に侵入してきた彼の熱に頭が白くなる。
自分の嬌声が耳の奥に響くのが情けなくて嫌だった。
だが、抗えぬまま全てが熱の内に沈んだ。



「う……」

目を覚ますと、下腹部に鈍い痛みを感じた。
身体中がだるいのは傷の所為だけでなく、抱かれた名残もあるだろう。
自分の身体に絡み付く体温を感じて寝がえりを打つと、
直ぐそこに佐助の端正な顔が迫っていた。
その目元は僅かに赤い。それに、良く見ると目尻に涙が滲んでいた。

(何を泣く?佐助―…)

彼が泣いた所など見たことはない。
決してこの先見ることのないと思っていた珍事に幸村は眉根を寄せた。
あんな事をされた後だと言うのに、怖いと思わなかった。
満たされた様な悲しんでいる様な色を滲ませる佐助が愛おしく感じられた。

「佐助」

愛しみを込めて名を呼ぶと、幸村はそっと佐助に触れた。
触れた自分の掌に佐助は無意識の内に佐助が頬を摺り寄せた。

(嫌われたんじゃないのか―…?だったら何故こんな事をする)

解らない。だが、もう考える必要もない気がした。
暖かな佐助の腕の中にいると全ての思考が融けていった。
優しい腕。いつもの佐助だ。

疲れと温もりが眠気を誘う。
瞳を閉じると、ゆっくりと薄闇の向こうへと堕ちていった。




傷は大分癒えてきた。だが、相変わらず佐助は自分を繋いだ紐を解こうとしない。
甲斐甲斐しく食事を運び、丹念に傷の手当てをし、身体をお湯で清める。
何もかもを佐助がやってくれていた。

此処で過ごし始めて一週間程が経つ。
お館様や武田の事が心配だがそれを尋ねて佐助の機嫌を損ねるのが嫌で、
黙ってなすがままになっていた。

大切に、まるで至宝の様に扱われるのは心地が良かった。
だから、余計に抵抗する気が萎えてしまうのかもしれない。

「旦那は、俺様が一生守るからね」

極めて優しい声でそう囁きながら、骨ばった指の長い手を伸ばして来る。
そっとその手が頬に触れる。
そして髪を梳かれると、とても心地が良くて幸村は甘える様にその手に頬を寄せた。
優しい瞳の奥には怖れが揺らいでいる。
その事に気付いた幸村は、佐助の懐に抱きついて背に腕を回した。
泣いているのか笑っているのか解らない曖昧な表情を浮かべて
佐助は華奢な幸村の身体を抱き返した。
求める様に唇を寄せ、激しく舌を絡ませ合う。
傷に触らない様に着物の内に手を滑り込ませ、胸の飾りに触れる。

「口吸いだけで感じてくれるの?乳首、勃っちゃってる」
「やぁっ、言うなぁっ」
「かーわいい。ね、もっと可愛い姿を見せてよ」

桜色の乳首をキュッと摘まむと、幸村はビクンと腰を跳ね上がらせた。
コリコリとした突起を掌で転がしたり、優しく抓ったりする度に
甘い声が幸村から漏れるのに、佐助は笑みを浮かべた。

「んっ、あっ、胸ばかり弄るな!」
「旦那、乳首苛められるの好きでしょ。ほら、もっと素直になりなよ」
「うぅっ、くっ あんっ」

執拗に乳首を責めながら、幸村の肌に佐助は舌を這わせた。
形の良い腹筋を辿り、恥骨の辺りを舌先を尖らせて舐めると、
幸村は激しく身体を痙攣させた。

「くはっ……あくっ、よ、よせっ、くすぐったい」
「嫌だよ。もっと旦那を味あわせてよ」

汗ばみ始めた身体を嘗めながら、佐助はうっとりとした表情を浮かべる。

「旦那に触れていただけで俺様、もう、イキそう」
「あ、佐助、俺ももう、お前と……」
「ん、旦那―…」

幸村の服を剥ぎ取り股間に顔を埋めた。
既に濡れた幸村の一物に舌を這わせ、先走りを舌に絡め取る。
唾液と幸村の蜜が絡んだ赤い舌が、閉ざした蕾の皺をなぞって、
クプクプとそのナカに侵入していく。

「はぅっ、あっ、汚ない、から……やめっ」

排泄する場所にぬめりと熱い舌を突っ込まれ、幸村はガクガク震えた。
半開きの口からはだらしなく涎が零れている。
ピチャピチャと音を立て、ナカを拡張する様に佐助の下が蠢く。
ゾクゾクしたむず痒い感覚が下半身から這いあがってきて、
幸村は爪先をピンと伸ばして細かく痙攣した。幸村の胎内が収縮する。

(そろそろ良さそうだな……)

舌を引き抜くと、佐助は幸村のナカに自分の雄を埋めた。

「あくっ、だんなぁ、だんなのナカ、すごく熱いよ」
「ああっ、さすけっ、イクっ」
「いいよ、イッちゃって」
「ふあぁぁっ」

佐助が腰を突き上げると、白濁液を噴き上げて幸村は達する。

「まだまだ、これからだよ」

意地悪く笑むと、佐助は激しく腰を動かす。
容赦なく前立腺を突き上げられると、幸村は艶やかな声を上げる。
キツク締め付けられ、佐助もまた顎を反らして感じた。

「ずっとこうして繋がっていられたらいいのにね。
 そしたら、アンタを何処にも逝かせないで済むのに―…」

ギュッと手を繋ぐと、二人は同時に熱を吐きだして布団に倒れ込んだ。




身体を綺麗に洗い流すと、佐助は幸村の横に寝転がった。
愛犬のももや、庭の鯉の話など、ほんの他愛のない会話を交わしながら
全裸の身体を寄せて肌を合わせて、二人は情事の余韻に浸った。

穏やかで愛しい時間。
そんな時を掻き消す闇夜が迫って来ていた。

喋っている途中、俄かに佐助の顔が険しくなった。
素早く衣服を纏うと、身体中の神経を尖らせ佐助は辺りを覗う。
鋭い瞳を斜め上方に向けると唐突に苦無を懐から取り出して投げた。
キィンと鋭い金属音が響き、佐助の苦無が畳へ落ちる。

「出て来いよ……」

冷たい、地の底から響く声で佐助が命じると一つの影が幸村の傍に舞い降りた。
よく見知ったその影に、幸村は瞳を見開いて声高に名を叫ぶ。

「才蔵!」
「幸村様っ!よくぞ御無事で、今すぐ助けます」

普段は温度のない声を些か弾ませ、心底ホッとしたような声で
才蔵が幸村に近付いた。

「なんと痛ましい、その手枷、佐助の仕業ですね。それに……」

全裸の幸村に、才蔵はパッと目を反らした。
その耳が僅かにだが朱が射しているのを見ると佐助は不機嫌になった。
手裏剣を構えると、才蔵に向かって放つ。
後ろに飛び退り、幸村から離れて才蔵はそれを受け止めた。

「佐助、まさかお前が謀反を計ろうとは。見損なったぞ」
「どうぞご勝手に。いくら見損なってくれてもいいよ。
 でも、旦那は連れて行かせない―…!」
「ふざけるな、血迷ったか?」
「血迷ってなんか無いぜ。俺様は本気だ。お前を倒してでもな」

ヘラヘラ笑っていた佐助から笑みが掻き消える。
何処までも冷たく冥い瞳が才蔵に向けられた。
才蔵は怒りを滲ませた瞳を返す。

「やめろっ、二人ともっ!!」
「大丈夫です幸村様。賊は俺が始末し貴方様を必ずお助けします」
「へぇ、言ってくれるねぇ。俺はお前には負けないぜ。全力で潰す」
「望むところだ!」

金属が擦れ合う音が静かな部屋に響き、火花が飛び散った。
悪夢の様な状況に、ただ、幸村は揺れ惑う術しかなく、
目の前で殺し合う二人を茫然と見詰めた。







--あとがき----------

次は最終話です。才蔵を書くのは楽しかったです。
才蔵は伊賀忍者で、甲賀の佐助とはライバル関係です。
でも佐助のほうが全然強そう(笑)
才蔵は佐助の気持ちが解るので辛いですが、
幸村を守る為に戦います。ある意味私的理由(笑)